ギャル、出かける。 part2

 「しかし、マナが求める衣服のセンスと合致するかはわからないぞ。王族御用達の店だ、それなりにプライドもあるだろうし」


 「ふふん。オーダーメイドの店っていうのはね、顧客の要望に応えられないのがイヤなもんなのよ。それがガンコな職人ならなおさらね。あーしもオシャレにはマジだし」


 その瞳に不真面目さや、冗談めかした色はなかった。

 ただひたすらに、『オシャレ』というものにひたむきに向き合う少女の姿があった。それは、きっとセシリアが『デアマンテ王国』に仕える心と似たようなものなのだろう。


 「そうか。それならきっと気に入られるかもな」


 そう言って、街の大通りを進む二人。

 今日は、服を新調しようと考えている真愛まなはもちろん、セシリアも休みということでラフな服装。

 髪もおろして楽にしている。つまりは普段とは違う印象を与えている。

 それは、タイプは異なるが、美女が二人で歩いていることになる。

 そうなれば、当然人々の視線を集めてしまう。それが望む、望まぬに関わらず。


 「あれあれ? おねーサンたち、メッチャキレイじゃん。よかったらオレたちと遊ばない?」


 どこの世界であっても、この手の人種はいるものかと呆れたような溜息を吐く真愛まな

 元の世界であっても、こういったナンパ男に声をかけられた経験が幾度となくあった。

 その為、その対処にも慣れてはいるのだが――


 「貴様らのような軟派な男などと遊んでいるヒマはない。だいたい、貴様らもそんな時間があるならば、仕事を……」


 「ちょ、ちょっとセシリー。相手にすることないって」


 ナンパ男たちに、真面目に説教を始めたセシリアの肩を掴んで止めに入る真愛まな

 セシリアは、今まで一度もナンパにあったことはなかった。

 それも当然、騎士団をまとめ上げる騎士団長リーダーに声をかけようなどと思う男がいるはずもない。

 真愛まなの世界で言えば、警察や自衛隊のトップにナンパを仕掛けるようなものである。

 だが、いつものメイド騎士とは違って、白のシャツにブラウンの革ジャケット。下は同じデザインの革スカートとクールに纏まっている。

 それでは騎士団とは気づかれないのも当たり前だった。


 「どうせ、こんな連中にちゃんと説教したってまともに聞きゃしないわよ。下半身でしか物事を考えられないおサルさんなんだから」


 「あ? ンだと。このアマがぁ、イイ気になってンじゃねぇぞ!!」


 性欲だけのバカあいてにするかちなしと言われて、ニコニコするような連中ではなかったらしい。

 本当に猿のように吠え散らかしながら、男どもは真愛まなに詰め寄る。

 中には、物騒にもナイフまで取り出している者までいる始末である。


 「なによ。女の子相手に、暴力に訴えるしか能のないおバカさんにあーしたちがなびくとマジで思ってんの? そんなモンナイフまで持ち出して、ホントにダサッ」


 「ッザけやがって……この、ボケがぁ!!」


 リーダー格の男が拳を振り上げ、真愛まなへと殴りかかる。

 だが、その拳は真愛まなの顔面へと届くことはなかった。


 「い……痛てて!?」


 「これをどうするつもりだった?」


 止めたのはセシリア。

 手首を潰さんほどに強く握りしめ、リーダー格の男を威圧する。

 威勢がいいとは言っても、所詮は街の不良。

 本物きしの迫力に、完全に気圧されて情けなく地面へとへたり込んでしまう。

 取り巻き共も、一睨みしただけで皆、一目散に逃げていき、リーダー格の男もサル山を追われたボス猿のようにヘコヘコと去っていった。


 「なんと情けない奴だ」


 「セシリーにかかっちゃ、全部のオトコが情けないんじゃない?」


 そんな会話から、歩くこと二〇分ほど。

 こじんまりとした商店にたどり着いた。

 看板に書かれている文字は相変わらず読むことはできないが、意味は理解できる。


 ――レデ衣類店


 どうやら、ここが目的の店舗らしかった。

 セシリアは、扉を開けて中へと声をかける。

 

 「レデ、いるか?」


 薄暗い店内。

 昼間だというのに、ぼんやりとしたオレンジ色の灯りに頼らなければならないほどで、とても営業中とは思えなかった。

 そんな店内の、一層暗いところでモゾりと蠢く小さな影があった。


 「また寝ていたのか……?」


 「なんだ……オマエか。珍しいな、一人で来るなんて」


 暗がりから現れたのは、身長一四〇センチほどの女性だった。

 しかし、子供ではない。そのしわが刻まれた顔は明らかに老齢のそれだった。

 いかにも、といった杖をつき、ゆっくりと歩いてくる。

 そして、やっと気が付いたようにセシリアが一人でないことに、驚く。


 「んぉ? なんだ、ツレがいたのかい。王族とは違うようだねぇ」


 「ああ、今日の客はコイツだ。私は案内をしただけ」


 「こんにちは、オバーちゃん。あーしは真愛まな。ボロいけど、ケッコーいい店だね」


 別に、普通に挨拶をしただけ。

 なんなら、むしろ態度がいい方であった真愛まなだったが、レデと呼ばれた老齢の女性店主は鋭い目つきで睨みつけ、吠えた。


 「アタシがババァだって!? オマエさん、ふざけんじゃないよ!! アタシのことはおねーサンと呼びな」


 「う……、なんてパワフルなヒトだ……でも、むしろイイ感じじゃん。オッケー、レデおねーサン」


 迫力に気圧されながらも、その年齢を感じさせない若々しい迫力に尊敬の念を覚えた真愛まなは素直に従った。

 何よりも、レデの恰好に自身と同じ『オシャレ』への拘りを強く感じたのも大きかった。

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