第24話

踏んづけたのは、チラシ数枚だった。


「……?」


なんだか不思議なオーラを感じたが、きっとあのお祖母さんの残り香だろうと思って、チラシをそのまま棚の端に挟んだ。


「……じゃあ、俺そろそろ帰るわ」

「うん、また明日」


薄暗く寒い廊下で海辺くんを見送った。

何も思い出せない、何も出来なかった自分を恨んだ。明日の朝、獅音さんが無事登校してきたら聞いてみよう、そんなことを思って一日を終えた。



……が。


「……おっはー。」


翌朝……いや、深夜3時のことだった。

ありえない時間に呼び鈴がなり、扉を開けたら彼女がいた。

まだ起きたばかりのみすぼらしい私に対し、深夜でも彼女はいつも通り派手にカスタマイズした制服を着ていた。


「……何時だと思ってるの?とりあえず、寒いからはいってちょうだい」

「あざーっ」


何となく招き入れながら、魔力で髪型や容姿を整え、瞬間着替え魔術まで使ってしまった。


「その力マジすごいね〜、アタシのよりも便利そう」

「あなたが持ってるのは霊力……だったかしら」

「そーだよん」

「……霊力、羨ましく思うけれどね」


霊力さえあればレーをすぐ見つけられるのに……なんて思いながら注いだコーヒーは、薄くて美味しくなかった。


「体の調子は大丈夫?」

「ん〜…………正直に見せるか!!」


そういって、彼女は自分の足の皮膚を捲ろうとした。「ちょっと、何してるのよ」なんて言おうとした瞬間、皮膚――いや、何かがめくりあがった。


「これ、札。御札を皮膚に同化させて、霊力由来の傷を隠してたカンジ。普通の傷には使えない技だよ〜」


札が剥がされた部位の皮膚は、ドがつくほど深い紫に染まっていた。


「今は痛くないから安心〜!」


にこやかにピースする獅音さんと対照的に、あまりのグロテスクな光景に、私は黙り込んでしまった。人生でこんなにも困惑したのは初めてだ。

再度札を足に貼り直した彼女は、食い気味な笑顔でわたしの手を掴んだ。


「ね、おばあちゃんに変なこと言われたでしょ」

「あ………………まぁ。」

「おばあちゃん時々変な事言うからさ、私もいつも気にしてなかったんだよ。でももしかしたら……って思って。」

「……?」


獅音さんは私の手を更に強く握り、顔を覗き込んできた。あまりの気迫に、のけぞってしまう。


「……持っていない?ちぎられたような和紙を。」

「ちぎられたような和紙……?」


[ らは御 の 手 久音一族。]

[きみへの 忘れず]

[定めて君 消す。]


「あれか!!!」


寝る前に閉まったチラシを取り出し、山の中から探し出すと、はらりと落ちてくる。


「それ、それそれ!アタシの先祖、字書くの苦手だったみたいだから気味悪いけどさぁ、許してやって!」

「いや、そうじゃなくて……これは何なの?」

「あー……やっぱ、覚えてない?」

「覚えてないも何も……わからないわよ。紙なんて、数万年の間に腐るほど貰ったから」

「ゲ!言い伝え、ガチだったんだぁ」

「言い伝え……はあ?」


イライラが足元から湧き上がるのを実感している。謎だらけなのも、のらりくらりとした話し方も、何もかもが。


「……1から説明しなさい。もししないなら、ここで消すわよ」

「うげげぇ!?この状態で何かされたらさすがに死ぬって!!」

「うるさいわね、殺すなんて言ってないわよ。消す、って言ってるの。」

「もっと怖いじゃん!!!!!!!」

「早くしなさい、どうするの?」

「は、話す!話すけど、もし話したことでおばあちゃんにキレられたら……」

「その時は守るわよ」

「……わかった。じゃあ、私が知ってる限りを伝えるね。」

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