第48話 逃走と敗戦後の人類
店の外に出て即座に街の出口を目指す。使い慣れていない謎スキルを使うより自身の健脚の方が何十倍も速い筈。幸いにも検問は無いから街から逃走する事はできる筈。前に鬼ごっこが成立した時点で走る速さは同等か向こうが少し速いぐらい。森の中にでも逃げ込んで隠れればバレようが無いだろうし、隠る事ができる時間は余裕である筈。
「冗談じゃない。誰があんな奴らの本拠地にのこのこ乗り込むかよ。こっちはロマンに魅力を感じても戦闘にも死にも魅力は感じてないんだよ!!」
街を出て三歩進んだ所ぐらいで腹に衝撃を受けた。
「はぁ?」
薄れ行く意識の中で私が目にしたのは魔王の姿だった。どうやって?こっちは減速なんてして無いのに…。
実際、グレースと魔王の足の速度であれば魔王の足の速度の方が速いが、そもそもの前提が間違っている。前回鬼ごっこが成立したのはグレースの足が速かった訳ではなくグレースの空中機動が魔王を遥かに上回っていたためである。ここは森の中では無いため魔王の速度の方が速い。しかし、ここまで早く追いつく程の初速は魔王には無い。では、どうやって魔王が追いついたのかと言うと魔王は店を出て空から真っ直ぐ街の外に出たのに対してグレースは迂回してちゃんと入り口から出て行ったため移動距離自体が違い、魔王の初速でも先回りすることを可能としたのだ。
「いや、お前に拒否権は無い。」
私が意識を飛ばす前に聞いたのは実に魔王らしい言葉だった。
ーその頃人類ー
魔族との戦争が終わり甚大な被害を受けた人類は未だに復旧作業に勤しんで居た。
「くそ、誰だよ魔王に喧嘩売った馬鹿な人間は。」
「黙って手を動かせ。瓦礫が無くならないと何も出来ないだろ。」
「なんで俺たちがこんな事を…。」
「仕方ないだろ。魔族に抵抗せず土地を開け渡した所はまだしも、魔族に抵抗して勝てもしない戦を挑んだ街な被害なんて魔族が補填する訳ないんだから。」
「それに何で他種族は支援をくれないんだよ。これこそ助け合いだろ。」
「無理だろ。他種族からしてみれば異世界人も含め魔族と言う爆弾を刺激する愚かな種族として見られてるんだから。なんなら、魔族より人間に滅んでほしいって思ってる所もちらほらありそうだし…。」
「それに何だよあの魔王の声明。あぁ、腹立つ!!」
「馬鹿やめろ!!聞かれたらどうするんだよ。同僚までも連帯責任で処刑されるかもしれないのに過激な発言はするな。」
因みにその声明というのは下記の通りである。
“愚かなる人間共、今回は四天王の一体を宣戦布告も無しに倒された事による報復として開戦させて貰ったが我々を舐め腐った結果は如何だったかな。一応、ケジメとして各国の王族は8等親全て処刑させてもらい我々が貴様らの国から選出した比較的まともで対話が可能な者を統治者として据えた。更には今までの様に自由統治を認めていては今回の様な悲劇を生むと言う事を我々は理解したため、人間領の6割を押収、3割を我々が直接統治、残り1割を貴様らの自由統治とする事にした。文句があるのなら力をつけ、今度は正面から宣戦布告をしてから開戦する事を勧めるぞ。自覚しているだろうが我々はそこまで優しく無い。今度宣戦布告も無しにこちらに甚大な被害を出した場合貴様らが生き残れる確率はないと思え。そう、それとここからは魔王である我個人の声明であるが我自身はいつでもどこでも殺し合いを歓迎するぞ。もういい加減勇者に期待するのはやめた。可能性がないと判断した場合次からは勇者でも殺すから覚悟しておくように。今後は慎重に勇者の人選をし、スキルに驕らずしっかり鍛えてその勇者のスペックを最大限引き上げてから殺しにくる様に。以上。”
「そんな事を言ったて俺最強みたいで腹立つじゃないか。」
「実際最強なんだから仕方ないだろ。今回の戦争の被害だって魔族はほぼ無しで、人類側は魔族に立ち向かった勇敢な兵士達は皆殺しにされてるんだぞ。人間と違って魔王は戦の最前線に居たのに無傷だし、今回の戦で死んだ魔族はいないって言うし勝負、いや、同じ殺し合いの土俵にすら人類は立つ事ができなかったんだから。」
「あぁ、腹立つ…。」
「そこの二人!!駄弁ってないで手を動かせ。サボってるなら給料出さねぇぞ。こっちだって経営厳しいのに穀潰しはいらねぇぞ!!!」
「チッ、あいよー。」
人々に確実に魔族に対する不満は募ってはいるが復旧は進み一応最低限の人間らしい生活は保証されていた。人間が勝った場合異種族や異民族は皆奴隷にされ人権は無いと言うのに…。
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