第54話 一条愛の自宅&第3の女

 ショッピングは、駅前の百貨店の雑貨店を回った。


「へぇ、雑貨店って初めてきたけど、おもしろいな」

 さすがにお客さんは、女性が多いけど、男が見ても楽しめる。

 指のマッサージ器やフワフワのビーズクッションも試すことができるし、変わった入浴剤やお菓子なんかも置いてあった。


「ですよね。私も時間がある時は、こういうお店を回るのが好きなんです。珍しいものがたくさん見ることができるので」

 そう言って笑う一条さんは、入浴剤やかわいいメモなどをかごに入れている。


「普段見たことないものも多いから、新鮮でいい刺激になるな」

 海外雑貨のゾーンにはアメリカンなお菓子やジュースも並んでいた。試しに、チェリー味のコーラを買ってみることにする。こういう自分の世界を広げてくれるのが、いいよな。俺だけだったらこういうジュースがあるなんて知ることもできなかったはずだ。


「楽しんでもらえてよかった!!」

 彼女は嬉しそうに笑った。


 ※


 時刻は16時。微妙な時間だ。健全な高校生なら、そろそろ解散も考えた方がいい時間帯。一条さんの親御さんがどういう人なのか、ほとんど話に出てこないからどうしようか悩む。


「先輩、このあとどうしましょうか?」

 彼女も少し悩んだように、こちらに問いかける。


「どうする。いつものようにうちで夕食でも食べていくか? 母さんや兄さんも喜ぶぞ」

 

「魅力的な提案ですが、いつもサービスでご飯をいただいているので、さすがに悪いですよ。今日は遠慮しておきます」


「そうか……」

 実はもう少しだけ一緒にいたいと期待していた。


「そんな残念そうな顔しないでくださいよ。なら、私の家に来ますか? いつも先輩の家にお邪魔してばかりですし」


「ぐへ」

 急なお誘いに思わず変な声を出してしまう。


「ちなみに、今の時間なら、お手伝いさんもいませんよ。だから、家には誰もいません」

 一条さんは、いたずらにそう言った。


「いや、それはさすがにまずくいないか。間違いがあったら、どうするんだよ」


「もう、すこしからかっただけで、そんなに顔を真っ赤にして……センパイは面白いなァ。ちなみに、私は一人暮らしなので、親と鉢合わせする心配はありませんよぉ」

 どうやら、からかうのは継続中らしい。

 その言動に少しだけ、彼女の家の闇を感じた。


「じゃあ、お邪魔しようかな?」


「えっ!?」

 どうやら攻めは得意でも、守りに回ると弱いらしい。


「そういう一条さんだって、顔真っ赤だよ」

 俺がからかうと、少しだけ乙女な表情を作り、彼女は「からかわないでください」と抗議する。


「もう、行きますよ」

 そう言って、腕をひかれて、彼女は俺に自宅への道を案内してくれる。


「センパイなら、別に間違いが起きてもいいのに」

 小さな声で彼女はそう言ったように聞こえた。


 ※


―近藤視点―


 俺は、エリの家をあとにする。この女は、親から見限られて一人暮らしを始めている。腹が減ったら、この家に来て夕食を作ってもらうのが、いつもの俺の日常でもあった。ただ、エリはすぐに調子に乗って、メンタルの上げ下げも激しいので、かなりめんどくさいキープの女だった。


 まぁ、都合がいいからもうしばらく関係は続けてやるけどな。家に歩いているとスマホが鳴った。


「近藤君? 今大丈夫?」

 気になっているあいつからの着信だった。この女が、俺に美雪を紹介してくれた。


「ああ、どうした?」


「ううん、大した話じゃないけど……明日予定ある? もしよかったら遊ばない?」

 この女もやっぱり俺にぞっこんだ。


「いいよ。どうした?」


「だって、あなたに協力して、青野君を追い詰めたのに、何もご褒美がないから。少しは会って欲しいなんて、思ってしまったのよ」


「ふん。可愛がっていた部活の後輩を、裏切ったくせに面白いこと言うじゃないか」


「だって、あなたの頼みだから。いいでしょ、頑張ったんだから」

 甘えたような声を聴いて、俺は楽しくなる。


「わかったよ、じゃあまた明日な。文芸部の部長さん?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る