第44話 友情&クズの本性&近づく二人

―通報者(遠藤)視点―


「ああ、少し忘れ物があったからさ。週明け小テストあるだろ、英単語の。単語帳置き忘れちゃったから、取りに来たんだ」

 用意しておいた言い訳を使った。いくら頭がいい今井君でも、さすがに怪しまれるわけがない。


「そうか。でも、体調悪いのに無理するな。言えば、家まで持って行ってやるのに」


「それは悪いし、鍵かけたロッカーに入れちゃったからさ」

 とりあえず、納得してくれたようだったので、俺は本題に入る。


「ところで、青野君は大丈夫。心配してラインしたんだけど、既読つかなくてさ」

 たぶん、あえて見ないようにしているんだと思う。俺でもそうしている。

 ここまで学校中の悪意が集中している状況なら、怖くてSNSなんて開くことできない。


「ああ、なんとか。そうか、遠藤も心配してくれていたんだ。よかったよ、俺たちだけじゃなくて、まだ、心配してくれる人がいるんだな」


「当たり前だろ。青野君は噂みたいなことをする人じゃない」


「なら、休み明けにでも一緒に会いに行こう。今は保健室登校しているんだよ。高柳先生たちのおかげでかなり回復しているみたいだ。遠藤が来てくれたら、絶対に喜ぶよ」

 ありがとう、今井君。その話は、僕の復讐に一番大事なものになる。

 学校が、おそらく頼ることができることが分かった。つまり、俺が考えた仮説1の可能性が高くなった。


 とりあえず、学校側にも写真データを渡して様子を見よう。

 学校のホームページに、たしか連絡用のファックス番号が書かれていたはずだ。この時代にファックスは時代遅れすぎるけど、コンビニで送れば誰が送って来たかはわからないだろう。


 それだけでは、いたずらと判断されるかもしれないので、学校の郵便受けにも現像した写真を入れた封筒を高柳先生宛てに入れておく。


 これで、俺の復讐の第一段階は完成する。


「じゃあ、今日は帰るわ。また、週明けだね」

 平静を装いつつ、手短に話を切り上げる。ここで、俺の復讐に今井君を巻き込むわけにはいかない。下手に、俺に味方して、近藤たちに逆恨みの対象にされるのはダメだ。


「ああ、お大事にな。そうだ、遠藤。もしかしたら、大きなお世話……いや、ただの妄想かもしれないけど……」

 普段はさっぱりしている彼が、珍しく言いにくそうにしていた。


「ん?」


「あんまり無理はするなよ。本当に大変だったら、俺でも先生でもいいから誰かに頼ってくれ、頼むよ」

 一瞬だけ、時間が凍りついた。

 まさか、バレているのか。どうして、気づいた。俺はすぐに自分が苦い顔をしていることに気づいて、慌てて作り笑顔を浮かべる。


「えっ、ああ、風邪の話だよな。心配してくれてありがとうな」

 ギリギリのところでそれをしぼりだすと、彼も笑う。


「そうそう、風邪の話だよ。単語帳をわざわざ取りに来るなんて、大変だからな」

 肯定も否定もせず、あえて、話を合わせるかのように笑いあう。


 俺たちは笑って別れた。


 ※


―近藤視点―


 俺は、いろいろあって家に帰って来た。親父は、あのあとしばらく美雪の元に連れそうみたいだ。俺は話がややこしなりそうだから、家に帰された。


 しっかし、せっかくストレス解消したのに、後味悪いな。


 俺は、スマホのスケジュールをパラパラと確認する。

 そういえば、明日は練習試合だな。他県の中堅校がこっちに来てくれるそうだ。なら、そいつらをボコボコにして……


 応援に来ると言っていた都合の良い女1号と遊べばいいよな。


「はぁ~、人生って楽しいぃ」


 ※


―エイジ視点―


 南のおじさんが、母さんに話したいことがあるということなので、俺たちは近所の公園を散歩して時間を潰す。帰ったころには、兄さんが特製のカキフライを揚げてくれているだろうな。


「とりあえず、1週間終わりましたね」


「そうだな、おかげさまでなんとか乗り切れたよ」


 激動の一週間が終わった。

 夏休み明けだから、登校日は3日間で、すぐに土日になる。


 高柳先生からも、「どこかで1日分の補習が必要になるけど、さすがに今週末の休みは、ゆっくりしたほうがいい。疲れは緊張が解けたら、一気にやってくるからな」と言われた。お言葉に甘えて、そうさせてもらおう。


 一条さんと会えなくなるのは少し残念だけど。


「ねぇ、先輩? ひとつだけ、わがまま言ってもいいですか?」


「もちろん」

 ひとつと言わず、いくらでも叶えるつもりなんだけどな。こっちは。だから、即答する。


「頼もしいですね。じゃあ、言っちゃいます」

 彼女は、少しだけうつむきがちに笑う。そして、立ち止まった俺の前に立って、夕日を背にこちらをじっくり見つめる。


「週末、デートしてくれませんか、私と?」

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