第43話 復讐者の計画
―通報者視点―
俺は、3時には高校の最寄りの駅まで帰ってくることができた。
駅のコインロッカーに入れておいた制服を取り出して、トイレで着替えて、何食わぬ顔で学校に向かう。すでに、授業は終わっていて、部活が始まっていた。ちゃんと、学校には連絡しておいたので、俺が休んでいるのを怪しんでいる人間はいない。
ここで知り合いにばったり会っても、調子が悪いけど、忘れ物を取りに来たといえば、問題はないはず。
何よりまずは、復讐を優先する。
誰にもバレないように、サッカー部の部室まで近づく。別に放課後、学生服をきた俺がグランド付近をブラブラしているのは怪しまれないだろう。そもそも、うちの学校は、部室がグラウンドから離れていて、運動部のそれが密集しているからな。
あとは、何食わぬ顔で、コンビニで現像してきた写真が入った封筒をサッカーの部室にうっかり落としておけばいい。
近藤に心酔している奴らだ。青野君のいじめにも、自分なりの正義を振りかざして、積極的に参加したという話はもう裏取りができている。だから、悪党にかける温情はない。
「この写真が原因で、サッカー部は間違いなく空中分解する。たとえ、ここをうまく乗り切ったとしても、大事な大会は乗り越えられない。あとは勝手に、部員たちが物語を膨らませてくれるだろうからね」
サッカー部の満田は、近藤の威光を借りるコバンザメみたいな存在だ。青野君へのいじめも2年生のサッカー部員が動いていたのは、SNSで調査済み。あいつらはばかだ。SNSをたどれば、サッカー部がいじめにどこまで関与していたかなんてすぐにわかるはずなのにな。
すでに、学校の調査も始まっているだろうから、大方バレているはず。
だが、学校側があえてやつらを泳がせているのは、なにかあるということだろう。
仮説①「学校側は、今回の騒動の主犯であり、卑怯な手を使って、他人に罪をなすりつけようとする可能性がある近藤を確実に仕留めるために、確かな証拠を探っている」説だ。
これなら、俺も楽でいい。近藤に不利な写真データを持っているからね。こちらからも先生たちに積極的に協力すれば、近藤を追い詰めることができる。
だが、次の仮説②「学校側も積極的に隠ぺいに関与しようとしている」立場だったら、話がややこしくなる。
俺の写真データだけでは、ただの不純異性交遊の証拠として軽い処分で終わらせられてしまう危険性もある。
あいつの親が地元のゼネコンの社長で市議会議員という立場なのが話をややこしくしているんだよな。
仮説①なら、そこそこ大物の親が動く前に決定的な証拠を押さえて、ぐうの音もでないように完全に論破して処分するタイミングを見計らっている可能性が高い。
仮説②なら親の威光を恐れて、学校側も積極的に隠ぺいに関与していると考えて、他の市議会議員や教育委員会を頼った方がいいかもしれない。
暴露系配信者にタレコミをすることも考えたが、確実に取り扱ってくれるかわからないうえに、青野君の件をおもしろおかしく編集されて、二次被害に合わせてしまうリスクが高いから断念した。
「サッカー部が崩壊して、大事な大会に惨敗したとしても、近藤の経歴に多少傷がつくだけで、あいつはすぐにノウノウと生きていくはずだ。そして、これからも多くの人を傷つける、今回の青野君の時のようにっ」
正直に言えば、俺は自分のことが許せなかった。あの時、なにかしらの行動ができていたら、近藤が増長することもなかったはずなのに。あいつらのことを止めることができたのは俺しかいなかったはずなのに。
もう、恨みしか持ち得ていないかつての幼馴染の顔を思い浮かべる。今回の件で、不安定なあいつのメンタルは確実に崩壊する。だが、そんなこと知ったことではない。俺を捨てたやつより、苦しい時に一緒にいてくれた友達を優先するのは当たり前だ。
俺は心が壊れて引きこもってしまったから。1年高校浪人をして、何とかこの学校に入学できたけど、結局、近藤の悪事の被害を拡大させてしまったのは、俺の責任でもある。
「あれ、遠藤じゃん。どうしたんだ、今日は体調不良で、休みのはずだろう?」
急に背後で呼びかけられて、思わず振り返る。そこにいたのは、弓道着姿のクラスメイトの今井君だった。
その偶然の出会いに、俺は感謝する。今井君は、青野君のもう一人の幼馴染で親友。青野君のつながりで、高校時代にできた2人目の友達。彼ならきっと何かを知っているに違いない。
これで、俺の復讐はひとつの峠を越えることになるだろう。
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