第39話 母親に詰め寄られる幼馴染
―美雪視点―
背中の汗が止まらない。お母さんがエイジのお母さんと話してしまった。いつか来るとは思っていた。その日が来る時が怖くて、ずっと目をそむけていた。私は逃げ続けていたんだ。
「……ごめんなさい」
怖くて情けなくて、言葉をしぼりだす。
「なんで、謝るの。本当に悪いことしたって思うの?」
お母さんはどこまで知っているんだろう。私はまだ逃げることができるの? それとも、全部知られてしまっているの? 怖い、怖い、怖い。
私が浮気したこと。エイジにえん罪を背負わせてしまったこと。そのせいで、彼は学校で孤立してしまったこと。
全部、私のせいだ。私がやってしまったんだ。
「エイジ君のお母さんから、もう二度と関わらないで欲しいって言われたわ。詳しくは、美雪に聞いてって言われた。ねぇ、あなたどうして、恋人のはずのエイジ君じゃなくて、私の知らない男とラブホテルなんか入ったの。家を出る前に呼び出されたのって、この男の人よね?」
そうか、まだ知らないんだ。エイジのお母さんは、私に対して一番の罰を与えたんだ。娘の方から母親にすべてを話すか、隠し通すか選べって。
「お母さん、落ち着いてください。うちのバカ息子がいけないんです」
先輩のお父さんが仲裁に入ってくれようと口を開いた。
「あなたは黙っていてっ!! 私は娘と話しをしているんです」
普段は優しくて温厚なお母さんが、有無を言わせずに怒鳴りつけていた。
「すいません」
目の前のふたりは黙ることしかできなかった。警察の人も心配そうにこちらを見つめている。
「どうなの、美雪。あなたの口から聞かせてよ。私、こんなことをするために、ひとりであなたを育ててきたんじゃないのよ」
悲痛な叫び声が待合室まで反響した。
「私は、英治と別れたの。そこにいる近藤先輩が、今の私の彼氏」
嘘をつかないように、事実だけを隠そうとするずるいもう一人の自分が出てしまった。そんな風に取り繕っても、実の母をだませるわけがないのに。
パチ。
私の左頬が、急に熱くなった。何が起きたのかわからない。衝撃で、顔が動いたことで、少しずつ状況を理解する。叩かれたんだ、私。
お母さんは、いつも優しくて、どんなに怒っても私を叩いたことなんてなかった。
その優しい母が、みせた初めての怒り。
そして、私は理解する。
「(あっ、完全に見限られてしまったんだ)」と。
もう、仲の良い親子には戻れない。そう理解する。悲しくなって、自分のことを責めて、そして、後悔する。
「ごめんなさい」
「どうして、浮気なんてしたの。エイジ君は、あなたのことを一番大事にしてくれていたのに。どうして、どうして、どうして、一番大事な人を裏切っちゃうのよ、あなたは!! あなたが謝るのは、わたしじゃないでしょ!!」
あまりの怒気でしゃべったからか、お母さんは苦しそうに胸を抑えて倒れ込んだ。
「お母さん、大丈夫?」
慌てて、私が抱きかかえようとするも、母はそれすら拒否した。
「もう、私あなたのことがわからないの。お願いだから、一緒に青野さんの所に謝りに行こう?」
そう言って、母は倒れた。慌てた警察官の人が駆け寄ってきて、場は騒然となっていった。
※
―近藤視点―
ちっ。面倒なことになったな。これであの女の母親が青野の所に美雪と一緒に行ったらすべて露呈しちまうかもしれない。
だが、俺の優秀なオヤジはすぐにそれに気づいていた。
「どうやら、貧血らしいな。安心しろ。少し落ち着けば、どうにでもなるはずだ。最悪は口止め料を支払ってもいい。たいていの大人は、金で転ぶからな」
本当に合理主義者で助かる。美雪の母親みたいにヒステリックにならないのが最高だな。
さて、美雪の件が片付けば、あとは学校側に漏れないように細心の注意を払って、卒業まで大人しくしておくか。ここまで悪評をまき散らしたんだから、青野は勝手に転んでいくし。
美雪は、この後さらに俺に依存させればいい。だって、最大の理解者の母親すらあいつを拒絶するようになったんだ。幼馴染の青野と一緒に立て続けにいなくなれば、残されたのは俺しかいない。
はい、これでドレイだな。あのサッカー部の後輩と都合の良い女1号と一緒に永遠に俺に
さーて、学生時代に何人のドレイを作れるのか楽しみだなァ。
俺の人生は、バラ色だぜ。
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