第14話ハイエナ都市ジェノサイド2

 オリビアは頭を抱えていた。ライが殺人ハイエナが蔓延る街に行ってしまった。いくら戦う力があると言ってもまだほんの8歳の少年だ。何千という敵に囲まれたらひとたまりもない。


「各隊員に通達して!」


 通信班にライが街に向かったことを現場の隊員達に通信するよう指示する。


「まったく余計なことを増やして…。」


 ハァと溜め息をつく。が、何故ライが動いたのか引っかかるところがあった。


「あの人…。」


 さっき保護された男性、彼を見てライの動きが止まったのがオリビアでもわかった。そして間もなくして走り出した。


(走り出すときに言った友達が危ないって、あの男性調べたほうが良いようね。)


 自分も追いかけたいが今は此処を防衛しなくてはならないため離れることが出来ない。


(どうか無茶だけはしないで…)


 ただただ無事を祈るしかないオリビアだった。



 ライの飛び出したという連絡はすぐに隊員達に回った。


「アイツ、こんなときでもやってくれる。」


 槍で何体もの敵を突き刺しながらネイルは呆れたように言う。


「何で保護される側に回ってるのよ、ったく!」


 リボルバーで撃ち抜き、真上からきたハイエナを剣で顔から真っ二つに斬って伊織は舌打ちする。



 黒部にも連絡は届いていた。


「まずい、一対一のタイマンでは勝てても、こう、数の暴力には彼でも無事では済まない!」


 広範囲に広がる敵の大群を疾風のような目にも止まらぬスピードで処理する萌衣も


「無鉄砲、あの子死んじゃう…。」


 ライの行動をそう評するのだった。



 街に入ってからどれだけ経っただろうか、ライは一人走り続けた。途中数時間前まで人であった血肉の塊を数え切れないほど見た。


「ねぇ、何かあいつらを探し出せる方法はないの?」


 白龍に尋ねる。その心は不安と心配でいっぱいだった。が、自分も心配されていることにライは気づいていなかった。


「一度会ッタ者ナラソノ気ヲ辿ッテ所在ヲ掴メルハズダ。落チ着イテ意識ヲ集中サセテミロ。」


 白龍の助言を実行するため立ち止まり意識を集中させる。その時、


「オオオォッー!」


 オークコング達が襲いかかってきた。


「邪魔だ!クソゴリラ共!」


 ライはオークコングの集団を蹴って殴って投げ飛ばして蹴散らして行く。


「ライ、ビルノ路地ヲ見ロ」


 白龍に言われ、ビルとビル間の路地を見る。


「グルルルルッ……!」


 そこには暗闇にいっぱい目を光らせるハイエナの群れがいた。


「コイツ等か、たくさんの人を殺したのは…!」


 ライは拳を振るう、が躱されてしまう。


(速い!)


 そしてあらゆる方向からハイエナ達が突っ込んで来て爪や牙の攻撃をくらう。

 

「ぐっ…チイィ…!!」


 絶え間ぬ数の攻撃にライは攻撃の手を止め、防御の構えを取ってしまう。


「これだけの数で連携を取られたら…!」


 背中に、足に、胴体に、体中に攻撃を受け、受けた箇所から火花が散る。


「ガアァァァァ!!」


 数匹が束になってライの体に噛み付く。振り払おうとするが強靭な顎の力でまったく持って引き剥がすことが出来なかった。

 徐々に体中に痛みが染みてくる。


「なんて力だ、全然離れない。イテテテッ…!」


「落チ着ケ、腹ニ力ヲ込メテソレヲ全身ニ流スヨウニ解放スルンダ、ソウスレバ体中カラエネルギーガ放出サレ振リ払ウコトガ出来ル。」


「よっ、よし…!」


 白龍の助言を受けライは言われたことをやってみる。


「むぅぅぅ…たあぁぁ!!」


 全身から青い色のエネルギーが放出される。そのエネルギーを受けた噛み付いていたハイエナ達は塵となって消滅した。


「や、やった!」


 ライは体の自由を取り戻した。しかし周囲にはまだ十数匹のハイエナがライを威嚇し、いつでも飛び出せるよう戦闘態勢に入っていた。


「よし、もう今のようにはならないぞ!」


 ライは手甲の爪を伸ばすと、走り出し、加速する。加速空間の中で敵一体一体に攻撃を当てる。


「どうだっ!」


 加速を解くとハイエナの群れは皆一斉にバタリと倒れる。一匹残らず全滅した。

 

「一匹では大したことないけど連携されると結構厄介だった…。」


「気ヲ引キ締メロ、コレガ後千単位デ居ルンダゾ。」


「うん、わかった。」


 白龍の言葉を肝に銘じライは先を急ぐのだった。


 そうして次々に襲って来るハイエナ達を倒しながらライは友人3人を探し走る。そこに白龍が警告する。


「気ヲ付ケロ、アノ獣ガ来ルゾ。」


「えっ?」


 走るライの頭上から何かが襲い掛ってきた。


「わっ!!」 


 ライは慌てて避ける。すぐに立ち上がり襲ってきた正体を確かめる。


「おっ、お前は…!」


 それは獣王装甲を纏ったティーグだった。


「また会ったな。御使い。前回派ちゃんと名乗れていなかったな。俺の名はティーグ、メガフィス帝国の者だ。」


「今はお前に構っている暇はない。その道通してもらう!」


 ティーグの挨拶を無視し、ライは道を開けるように言う。


「生憎それは無理だ。お前をここで倒すために俺はいる。」


 ティーグは右手で銃の形をとる。伸びた人差し指の先には銀弾丸が装填されていた。


「絶弾」


 指先から魔力で弾丸を飛ばす。


「クッ…!」


 ライは回避行動をとる。何発も弾は飛んでくる。


「このっ…!」


 ライは手甲の爪を発射する。


「フンッ!」


 ティーグは竜に対して強い力を発揮する剣アスカロンを取り出し、爪を全て叩き落とした。


「この矢はどうだ。」


 ティーグは左腕に装備された弓を展開しライに向ける。そこからなんの動作も無く光で作り出された矢が射出される。


「っ!!」


 1発目を爪で切り払うが、2,3発目には対応出来ず直撃を受けてしまう。ライは地面に膝を付ける。

 ティーグはその隙を逃さず矢を放つ。


「…!!」


 ライは咄嗟にバリアを張って弓矢を防ぐ。


「飛ベ!」


 白龍の指示でライは宙高く飛んだ。


「槍龍!」


 ライも空中で光で作った矢をティーグに放つ。が、それはアスカロンで弾き飛ばされた。


「まだっ!」


 ライは手から衝撃波を放ち加速をつけると両脚を揃え、ドロップキックでティーグに攻撃を仕掛ける。


「むっ!?」


 ティーグは盾を装備し、攻撃を正面から受け、防ぐ。


「グググッ…!」


 数十cm後ろに下りながらドロップキックを受け止めた。


「トオッ!」


 ライはティーグの盾を蹴り、跳び上がる。後方宙返りをし、地面に着地する。すぐに手甲の爪を伸ばすとティーグに飛びかかる。


「このっ!」


 ティーグは盾で防ぎ、アスカロンで攻撃する。


「っと!」


 ライはそれを避け後ろに下がると間髪置かずまた接近し攻撃を仕掛ける。


「ソウダ常ニ動キ続ケロ。相手ノ間合イニズット居テハ駄目ダ。」


 白龍の言葉通り2、3発攻撃しては後ろに下がり、また距離を詰めて攻撃する。その繰り返しをした。


「これでどうだっ!」


 手甲の爪がティーグの胸に命中した。鎧から火花が散る。


「グッ…!!」


「そりゃあっ!!!」


 回し蹴りでティーグを蹴り飛ばす。ティーグは3メートルほど飛び、地面にゴロゴロと転がる。


「今だ、雷龍波」


 ライは手から電撃光線を放つ。技は見事に命中しティーグにダメージを負わせた。そのまま追撃しようとするライに向けてティーグは腕を伸ばす。その5本の指全てに弾丸が装填されていた。


「っ…!!」


 そして弾丸は一斉に放たれる。


「おわっ!」


 逃げまくり、3発は躱せたが、残り2発を右肩と背中に受けてしまった。

 痛みで動けないライに向かいティーグは新たな武器を取り出す。

 それは長さ2メートルはある長剣だった。


「この剣はグラム、お前を倒すために探し出した秘宝の一つだ。」


 両手で構え、剣先をライに向ける。


「気ヲツケロ、アレモ龍二対シテ絶大ナチカラヲ発揮スル。」


「まだ新しい武器を持っていたのか…。」


 チッ!とライは舌打ちをする。


「覚悟っ!!」


 ティーグはグラムを構えて突撃する。


「グウゥ…よし!」


 体の痛みが引いたライはティーグが斬りかかる直前に高速移動を発動した。


「何!?」


 動きを止め、周囲を見渡し姿を消したライを探すティーグ。そこに、


「こっちだ!!」


 ティーグから見て左からライが現れ、ティーグの顔面を殴る。


「くっ…!」


「もう一回!!」


 ライは再び加速する。だが、


「同じ手は…喰わん!」


 ティーグは周囲を薙ぎ払う。すると強烈な衝撃波と突風が起きる。周囲の建物は崩れ、瓦礫は粉々になっていく。


「わあぁぁっ!!!」


 ライも衝撃波に襲われ、吹き飛ばされる。


「そこかっ!」


 加速の解けたライを見つけ、ティーグは跳び上がり、グラムを振り上げる。


「死ねぇぇぇっ!!!」


 渾身の一太刀を振る。


「ヤバイッ!」


 ライは痛む体を押して大慌てで攻撃を避ける。この攻撃を受けたら一溜まりもない、それはライでも見てわかるほど気迫に満ちたものだった。

 ライを逃したグラムの刃だったが、それでも刃が地面に着いた瞬間、亀裂が走り、クレーターが出来るほど強力なものだった。


「うわわわっ!」


 一撃で生じた突風でまたもライは吹き飛ばされるのだった。


「どこまでも運の良い奴…!」


 ティーグは渾身の一撃を避けられイライラとしていた。なんとか立ち上がったライに急接近し、斬りかかる。


「ハァ!テァ!ハァ!」


 態勢が整わないライの全身をグラムが斬り裂いていく。


「ぐぁっ!ううぅ…、ぐはぁ!」


 斬りつけられ、鎧から火花が散る。何の抵抗も出来なく一方的に斬りつけられる。


(あのアスカロンとかいう剣より一撃が重い!)


 それもそのはず長さ2メートルもあり、アスカロンより重量があるグラムの一撃は強力なものたった。

 しかしその重量を感じさせない華麗で軽々とした剣捌きをティーグはやってみせる。

 体中に痛みが広がる。体力が奪われて行く。


「クソぉぉぉぉ!!」


 超人的な反応速度でライは飛び上がり、グラムの一撃を躱す。


「なに!?」


 ティーグは宙に飛ぶライを見上げる。


「ファッッ!!!」


 空中から楔形の光弾を発射する。光弾はティーグに命中し、ダメージを受け動きが止まる。

 スタッと着地したライはその隙を逃すまいと接近する。


「剣は使わせない!」


 ライはティーグの両手首を蹴る。蹴られてティーグはグラムを手から離してしまう。


「アッ!!」


 ふと飛ばされたグラムの方にティーグは目で追いかける。


「今だっ!」


 ライは間合いに飛び込むとボディブローを見舞う。


「とああぁぁっ!!」


 腹部を押さえ痛みに耐えるティーグにライは休むこと無く何度も拳で殴る。


「トオォ!デァッ!ドアァッ!!」


 渾身の右ストレートがティーグの顔面に入り、ダウンしたと思われた。だが、


「…っ、勢いがついてきた!!」


 ティーグが反撃に出る。左手の爪を尖らせ、貫手でライを攻撃しようとする。

 ガッ!

 ライはティーグの貫手を掴み防ぐ。


「ダァァッ!」


 ドスン!

 ティーグの腹部に左膝蹴りを入れる。


「それぇぇっー!!」


 そのままティーグを真上に投げ飛ばす。


「トオォッ!」


 その後を追いライも跳び上がる。ティーグの頭が地面に、足が空に向いて上下逆さまになる。そこにライがティーグを捕まえ、逃げられないように腹部をホールドする。パイルドライバーのような体勢で降下する。


「ううぅ…このっ!チィィ…!」


 ティーグは脱出を図ろうとするが、ガッチリとホールドされ、身動きが取れなかった。

 そしてそのまま、

 ドンッ!!!

 ティーグは鈍い音を立て頭から地面に激突した。ライは地面にぶつかる直前に手を放し、着地した。周囲に土煙がたつ。


「あっ…あっ…!」


 ダメージでティーグは立ち上がれず、地面を這いつくばるように悶えていた。


「行ケ、ライ!」


「ああっ!」


 白龍の言葉でライは動き出す。ティーグの首を掴み無理矢理立たせる。そして体をホールドし、二人の体が垂直になるように頭上に持ち上げる。


「そりゃあ!!」


 ブレーンバスターで倒れながら後方にティーグを投げる。

 ドスンッ!!


「フッ!!」


 ライはすぐに起き上がる。


「ど、どうだっ!」


 すぐに構え!ティーグを警戒する。


「ううぅ…まだだ、まだまだまだだ!」


 全身に激痛が走る。だが、それを気合で抑えティーグは立ち上がる。


「……」


 ティーグは腰からあるものを取り、両手に持つ。それは刃で出来た円盤状の投擲武器だった。


「フンッ…!」


 フラフラになりながら、両手に持った円盤状の刃をライ目掛けて投げる。

 円盤状の刃は飛びながら、両側面が分離し、計6つの円盤刃がライに向かって飛んでくる。


「龍雷波」


 電撃光線で円盤刃を撃ち落としていく。だが2つ撃ち漏らし、ライの体を切り裂く。


「いっっ!!!」


 咄嗟に切られた箇所を押さえる。そこに


「うおおぉぉぉ!!!!」


 いつの間にかグラムを拾ってきたティーグが突撃して来た。


「うわっ!」


 突撃してきたあまりの気迫からライは回避することを選んだ。


「フッー!クゥッ!ウォ!」


 力の限り大剣を振り回す。だがその動きは徐々にライに見切られていく。


「テアァァ!」


「グフッ!」


 剣撃を避け上段蹴りでカウンターをティーグに入れる。


「ライ、余リコイツヲ相手スル時間ハ無イゾ」


「そうだね、よし。」 


 ライはティーグのグラムの剣撃を避けながら周囲に落ちているコンクリートの破片や石にエネルギーを注入する。


「ウオオォ!リャアア!」


 そうとは知らずティーグは攻撃を続ける。ライは攻撃を躱しながらティーグの周囲にエネルギー爆弾を設置完了した。


「死ねっ!」


 ティーグか一太刀を見舞おうとする。


「今ダ!!」


 白龍の掛け声と共にライは念を入れる。

 ドドドドドドン!!!

 爆炎、爆風がティーグを取り囲む。


「むぅ!」


「今のうちだ!」


 ティーグが怯んだ隙をついてライは闘いの場から離脱する。


「今はお前に構っている暇はない。」


 ライは大きくとびあがり、着地した後走り去る。


「くつ、逃げられたか…。」


 姿形が見えなくなり、何処に消えたか検討がつかないのかティーグは追跡をせず諦め立ち尽くすのだった。

 周囲の建物は戦闘でボロボロに崩れ、アスファルトは削れ、地面は抉れていた。


「なんとか撒けた…追ってくる気配は無さそう。」


 ライは走りながら後方を確認する。


「奴モ諦メタヨウダ。今ノ内二友人ヲ探ソウ。」


「うん。あっ!」


 そこでライはあることに気づく。


「ドウシタ?」


「さっきの闘いで通信機が壊れた…」


  それはEAGST隊員が携帯する通信機で飛び出していってからオリビアが煩いほど通信を入れていたがそれをずっと無視していた。


「マズイね。コレなかったら助けても援軍呼べない。」


「トニカク今ハ救助ガ先ダ。味方ガ来ルノハ後デ考エヨウ。」


「わかった。」


 ライはそのまま走り続けた。


「んっ?ここは?」


 足を止め、とある雑居ビルを見上げる。


「ドウシタ?」


「完全に透視出来ないけどこの中に人が2人いる。あっ、マズイ!ハイエナが近付いてる!」


 気配察知と不完全な透視能力で2人の逃げ遅れた民間人がハイエナの群れに襲われるのを察知する。


「ビルのええっと…5階か…よし、行ける。」


 ライは脚を曲げ脚力にエネルギーを集中させる。


「跳ぶ!!」


 地面を蹴り上げるとビル5階まで跳ねた。


「間に合えっ!!」


 そのまま窓に突撃し、ビルに入る。

 パリーンッッ!!ガシャーンッ!!

 窓ガラスは割れ、細かいガラスの粒は光るように宙を舞う。ライは綺麗に着地成功する。


「ふぅ、むっ…!」


 ライは180度周囲を見渡す。


「グルルルッ…!!!」


 ハイエナの群れに囲まれている。


「っ…!!」


 そして背後を見る。


「ヒ、ヒイィィ…」「ウ、ウウゥゥ…」


 そこには若い男女のカップルが身を寄せ合って怯えていた。


「良かった、間に合ったみたい。」


 ライは襲われる前に2人に会えたことにホッと胸を撫で下ろした。しかしまだ敵に囲まれているのも事実。


「さて、オイラが来たんだ。この人達を噛めると思うなよ。」


 ライは戦闘態勢をとる。ライとハイエナ達が睨みを利かせ合う。


「グルルッ…ウウゥワオォン!!!」


 先に飛び出したのはハイエナ達だった。一斉にライに飛び掛かる。


「ンッ!」


 ライは手甲の爪を発射する。数匹のハイエナが串刺しになる。仲間がやられても気にせずハイエナはかかってくる。


「このっ!!」


 拳で次々にハイエナ達を倒していく。一匹のハイエナを掴むと頭上に持ち上げ、群れに投げ飛ばす。


「それっ!」


 別のハイエナの後ろ脚を掴み、ヌンチャクのように振り回しながらバサッバサッと薙ぎ倒していく。最後の一匹を爪で切り裂き群れを一掃した。


「終わった…。」


 倒したハイエナの山を見て呟く。そしてカップルのもとに行く。


「「……っ!!」」


 2人は尚も怯えたままだった。人を喰い殺すハイエナに襲われそうになり、それをたった一人で倒した得体のしれない者がそばによって来たのだから、怯える要素は絶えまないはず。


「大丈夫ですか?お怪我はないですか?」


 そんな2人にライは優しく声をかける。


「あ、あっ、あの…」


「オイ…、私はEAGESTの者です。あなた方を助けに来ました。」


「わ、私たちを?」


「何時までもここにいては危険です。さあ、いきましょう。」


 2人を誘導し階段を駆け降りる。


「待テ、出口付近二数匹イル。」


 白龍の言葉でライは立ち止まる。後ろの2人にその場で待つように指示し、呼吸を整えビル出口から飛び出し、外に出る。


「グオォォッ!」


 外に出るや否やすぐに数匹のハイエナに囲まれる。


「そりゃあぁッ!」


 蹴って、殴って瞬く間にこれを倒す。


「さぁ、行きましょう。」


 安全と判断し、2人を外に手招きする。このカップル男性は怜樹、女性は杏樹というそうな。

 そんな2人を連れ、街中を移動する。EAGESTの部隊が対処したためかそれほど多くのオークコングやハイエナ達と遭遇することはなかった。


「トオォォッ!!」


 遭遇したオークコングを蹴り飛ばし倒す。まだ友人3人がいると思われるショッピングモールまでたどり着けない。

 そこでカップルに話しかける。


「あなた方ををすぐに安全なところに連れていきたいのですが、仲間と連絡が取れない状況。なので安全地帯に向かいつつ、他の生き残りの人を探します。私に付いて来てくれますか?」


「は、はい。」


「今の状況じゃ仕方ないよね…よろしくお願いします。」


 2人から了承を得る。


「ありがとう…!」


 ライは心から感謝する。それと同時に罪悪感と自分の身勝手さに嫌悪する。

 2人を今すぐにオリビアの待つ待避所に連れていくことはすぐにでも出来る。それだと友人3人が何時襲われるかわからない。若いカップルを危険な場所に連れ込んでまで友達を助ける選択を取ってしまった自分を情けなく思った。


(オイラは正義の味方失格だ…!!!)


 自分に対する嫌気が最高潮になる。


「ナラバ全員守リ抜ケ。」


 白龍が呟く。


「えっ…?」


「自分ヲ嫌悪スルコトモ駄目トハ言ワナイガ選ンダ選択肢デ最善ヲ尽クセ。今ナラ全員、誰一人、犠牲二スルコトナク守リ抜ケソウスレバ誰モ文句ハ言ワナイ。」


 白龍の言葉で気持ちを切り替える。


「よしっ…!」


 2人に聞いてみる。


「この街で1番大きいショッピングモールはどこですか?そこにならまだ生き残りがいると思うのですが…。」


「それならあっちの方向に出来たばかりのモールが…」


 怜樹が該当するところの方向を指差す。


「こっちか…行きましょう。」

 

 ライは警戒しながら移動し始める。その後を追いカップルも移動する。

 移動してしばらく経ったとき


「オグッ!!」


 ステッキを持ったオークコングの部隊が襲い掛ってきた。


「2人は下がって!!」


 後方の2人をさがらせ、オークコング軍と対峙する。


「オオォォッ!」


 2体のオークコングがステッキを振り下ろす。


「ぬうぅっ!」


 それを両腕で防ぐ。そのままステッキを弾き飛ばすと拳を顔面に叩き込む。

 今度は両サイドから攻めてくる。それを身を低くし、前転で躱し、回し蹴りで倒す。

 その次は前後左右4方向から攻めてくる。左手でステッキを受け止め、右手で攻撃を捌き、前方のオークコングの顔面を狙った突きを首を動かし避けながら、後方の1体に対し背面からの突進で攻撃し倒し、残りの3体もアッという間に片付ける。

 その他の残り大勢も流れ作業のように倒す。

 バババババッ!!

 マシンガンを装備した数体が発砲して攻撃するが龍王装甲に通用する訳なく、


「お返し!」


 手甲の爪を発射しこれを全滅させる。

 終わった、先を急ごうとしたそのとき。


「シザシザシザシザシザ!!」


 どこからとも無くハサミが襲って来る。


「オオォッ!?」


 ライは瞬時に躱す。ライに当たることなかったハサミは建物を切り裂く。


「俺は刃族、シザワーム!」


 そしてシザワームが姿を現す。


「出たな化け物!あの獣達を操っているのはお前か!?」


 シザワームに問いただす。


「いいや、俺とは別の存在が操っている。我々はこの都市をメガフィス帝国の日本征服の前進基地とするため邪魔な人間共を排除しているのだ!」


「基地…?そうかだからあんなに物を運んでいたのか…。」


 ライはここで合点がいった。


「こっちが聞いてもいないのにわざわざ目的を話してくれてありがたいね。でもそんなことは絶対にさせない!!」


「黙れ!お前はここで死ね!」


 シザワームは先端がハサミになっている尻尾を伸ばして攻撃にしてくる。


「おっと!!」


 それを躱すが休むこと無く尻尾の攻撃は連続して続く。

 ズサッ!!


「今だっ!」


 尻尾が地面に突き刺さったタイミングで地面を蹴り、一気にシザワームとの間合いを詰める。


「タアァー!」


 拳を振りかざし、それをシザワームの顔面に叩き込もうとした瞬間、


「シザシザシザ!」


 シザワームが口からスプレー状の液体を噴射する。


「っ!!」


 ライは高速移動を利用し、スプレー状の液体を避ける。

 サッ!

 すぐにシザワームと距離をとる。ライに命中しなかった謎のスプレーはアスファルトやコンクリートを少しずつであるが溶かしていた。


「何だ?溶けている?」


「アレハ酸ダ。」


 白龍が首を傾げるライに謎のスプレーの正体を話す。


「確か酸って危険な液だっけ?」


「アア、奴ノハ物ヲ斬リヤスクスル為ノ弱イ補助的ナ武器ダガ用心スルコト二越しタコトハナイ。」


 酸のスプレーを吹き放し、尻尾を振りわますシザワームに接近する隙がなかった。


「なら遠距離攻撃だ!龍雷波!」


 ライは電撃光線を発射する。


「ムッ…!」


 シザワームは両腕のハサミを交差し、龍雷波を防ぐ。


「今近づける!」


 動きが止まった瞬間を逃さずライはシザワームに接近する。


「近づけるさせるか!」


 シザワームも尻尾を伸ばし迎撃する。

 ズサッズサッズサッズサッズサッ!

 尻尾の攻撃を避けてライは確実にシザワームに接近する。


「ちょこまかと!!」


 シザワームは酸を噴射する。


「イィッ!」


 ライは加速し酸のスプレーを躱す。一瞬にして

シザワームの背後にまわり、


「デアァッ!!」


 背中にタックルを噛まし、シザワームは顔から地面に倒れた。


「グッ…よくも!」


 怒ったシザワームが尻尾で薙ぎ払う、それをライは飛び上がり回避する。着地と同時にシザワームの目の前まで急接近すると手刀を何度も叩き込む。


「デァッ!デァッッ!」


「うっ…!」


 右手刀を高く掲げ振り下ろす動作をするとシザワームは両腕で防御の体勢をとる。

 ライは右手刀を振り下ろすことはせず、膝蹴りで腹部を蹴り上げる。


「グボォ…!」


 予想外のダメージにシザワームは腹部を抑える。ライは手を止めること無く、シザワームの肩を掴むと背中から後ろに倒れ、シザワームを投げた。


「こ、このぉ!調子に調子に乗るな!!」


 やられっぱなしのシザワームは先ほどよりも素早く尻尾での攻撃を仕掛ける。ライはそれを避けるのに精一杯な様子だった。


「!!」


 真上から尻尾のハサミが襲って来るのを捉え、既のところでハサミを掴み、攻撃を止める。だが、まだシザワームには両腕のハサミがあった。


「喰らえ!」


 両腕のハサミでライを斬りつける。

 ズシャァ!ズシャァ!


「くっ…!ぐぅぅ…」


 斬りつけられ鎧から火花が飛び散る。咄嗟にライは後退りする。しかし今度はシザワームが攻撃の手を緩めない。


「逃がすかあぁぁ!!」


 尻尾をライの首に巻き付け、動きを制限する。


「シイィィィザァァァ!!!!」


 絶え間なくライの体をハサミで斬りつける。


「言っただろう!?お前はここで死ぬって!!!」


「ぐっ!ぐっ…!うっ!ううぅ…うわぁぁぁぁ!!!」


 渾身の力で切り裂く。これにはライも堪らず悲鳴をあげるしかなかった。

 ドサッ…

 両膝が地面に着く。だがそれをシザワームが腕のハサミで首を挟み無理矢理立たせる。


「他愛も無い奴め…!」


 シザワームはライを頭上に投げると尻尾のハサミで左足首を挟み、地面に何度も叩き付ける。


「さぁ!さぁ!さぁ!どう殺してくれようか!!」


 ライの体はアスファルトやコンクリートに激しく打ちつけられる。

 それを遠くから観ている怜樹と杏樹は恐怖で震えていた。


「ライ!ライ!シッカリシロ!今ノオマエハコンナトコロデ負ケルワケニハイカナイハズ!」

 

 白龍の呼びかけに薄れ行く意識がふと戻る。


「うっ、ううぅぅぅ…!このぉぉぉっ!!!」


 ライは破れかぶれに手甲の爪を飛ばした。

 グサッ、グサッ、グサッ、グサッ!!

 

「ギャアァ!」


 運良くそれはシザワームの背中に全弾刺さった。

 痛みで悲鳴を上げたシザワームは悶える。それと同時に足が挟んでいたハサミから解ける。

 サッと着地しシザワームに反撃を仕掛ける。


「ナックル・ビーム」


 拳から光線を発射する。


「うおっっ!!」


 光線の直撃を受けたシザワームは吹き飛ぶ。


「まだまだ!」


 ライは倒れるシザワームの尻尾を掴むと


「それぇぇぇぇいっ!!」


 振りまわし、建物に投げつけた。


「それ、もう一撃だ!ナックル・ビーム!!」


 両拳から光線を放つ。


「おおおおぉぉぉっ!!コイツ!」


 シザワームはなんとか抵抗しようと尻尾を動かす。それをライは逃さず、


「槍龍!」


 光の矢で尻尾を貫き、壁に張り付けにする。


「さて、お前の相手はここまでだ!!」


 両手いっぱいに石を持つとエネルギーを注入し石爆弾を作る。それを全て宙に投げる。

ババババババババッ!!!!!

 爆発を目隠しにし、ライは離脱した。


「くそっ、逃したか…。」


 ようやく体の自由が利くようになり、爆風と煙が収まった頃シザワームは辺りを見渡すが既にライの姿を見失っていた。




 3人はショッピングモールへと駆けていた。そしてショッピングモールの入り口までたどり着いた。カップル2人はライが先ほど倒したオークコングの持っていたステッキを持っていた。 

 自分達にも何か出来ることがあるはずと離脱の際持ってきたそうだ。


「その心意気買います。」


 ライは2人の決意を尊重しそう言った。だが、


(さっきの戦いで頼りないって思われちゃったかな…?)


 先程のシザワームに苦戦したところを見られ、失望されたのではと不安になる気持ちがあった。


「透視能力でっ…いた!3人の影が視える!」


「ヨシ、慎重二行コウ。」


 動かなくなった自動ドアを開け、恐る恐る建物の中に入る。屋内は電気が通ってない為当然暗く。吹き抜けの天井窓から月光が差してなんとか周囲が見渡せる状況だった。

 血なまぐさい臭いがする、ここでも虐殺があったのがわかる。

ガタッ!!

 

「アッ!」


 物音が立つ。それは怜樹が暗さで分からなく足にものが当たってしまった。それで咄嗟に声も出てしまった。

 ガルルルッ!!

 屋内の暗闇の奥から無数の唸り声が聞こえる。暗闇の中から十数匹のハイエナ達が姿を現す。


「ムッ…!」


 ライはすぐさま構える。が、2人が身を隠せる場所がないことに気づく。身を隠せなければ2人は確実に狙われる。ライは周囲に隠れる場所はないか探すが今からでは隠れたとして、丸見えで意味のないこと、


「2人とも走って!!」


 ライはカップルを連れ、ハイエナに背を向けて走り出す。ハイエナたちもその後を追う。

 向かった先はスーパー、食品販売エリアだった。食品棚に挟まれた狭い通路に入る。


「…!」


 そこで棚に並んであるものが目に入る。ここは飲料物が陳列してあるエリアだった。

 右が常温で陳列してあるのも左が冷蔵で冷やして陳列してあったものだった。

 後方を見る。ハイエナたちも狭い通路で追いかけて来ている。


「先に行って!」


 ライは走る速度を落とし、カップルを先に行かせると、両手を水平に伸ばす。そして弱い衝撃波を放つ。衝撃波によって左右に陳列してある飲料物が次々に破裂し、中身が床に飛び散る。狭い通路を抜けた先、精肉商品が陳列している棚で行き止まりになっている。ライは通路を抜けるとハイエナ達の方を振り返る。

 飲料物でビチャビチャに濡れた通路を平然とハイエナ達は走ってくる。


「ムンッ…!」


 ライは濡れた床に手を触れると指先から放電した。

 バチバチバチバチッ!!

 液体を伝ったて電撃がハイエナ達を襲う。


「アウウウッ!!!」


 ハイエナの群れは黒焦げになった。だがまだライたちに向かってハイエナ、オークコングは襲って来る。


「仕方ないっ!」


 ライは2人を抱え、商品棚の上に跳び上がる。


「ここから動かないでください。」


 そう告げるとライは残りの敵を片付けに行く。

 商品棚が陳列する列の1番端の商品棚を押し倒す。棚はドミノ倒しのように次々と倒れて行く。間の通路にいた敵はその下敷きになっていく。続いて買い物カートをサッカーのシュートのように思い切り蹴る。

 常人を遥かに超えるライの脚力で蹴られたカートは車以上の速度で駆け、敵の群れに突撃、これを蹴散らして行く。

 敵を全て撃退し、2人を棚の上から降ろし、友人の捜索を再開する。


「いた、3階だ。」


 上を見上げながら透視能力を使い、3人のおおよその居場所を把握する。そこは3階の最奥だった。ライはカップルを連れ周囲を警戒しながら速やかに移動する。止まったエスカレーターを静かに登り、途中襲って来る敵を倒しながら3階まで来た。

 3人の居場所それは小さな子どもが遊ぶキッズエリアだった。

 ライはカップル2人を1番近くの専門店のレジカウンターに隠れさせると救出に向かう。


「グルルルルッ…!」


「わっ、わわわわわわ…!!」


 リュウ、ミク、リキの三人は身を寄せ合って怯えていた。周りはハイエナ達に包囲されていた。

 メガフィスの襲撃に遭い、父親とはぐれた3人はキッズエリアそのボールプールに身を隠していた。運良く今まで見つからなかったが、次に発見されてしまった。

 もうだめだ…3人が思ったそのとき、


「トオオオォ!!」


 ライが間に合い、ハイエナ達を蹴散らして行く。全て倒し終えると3人に歩み寄る。


「大丈夫か!?」


 焦りと緊張から声が若干甲高くなる。


「あ、ありがとう。」


 ミクが礼を述べる。


「僕たちは怪我はないよ。」


 リュウも自分たちは無傷だと告げる。


「良かった…。」


 ライは目的を達成しようやく安堵した。


「この街は今のとおり、大変なことになっている。ここにいては危険だ、さぁ、オイ…私に付いて来て。」


 3人を連れて動こうとする。そこに、


「待って!」


 リキがライに呼びかける。くるっとライは振り向く。


「ねぇ、名前はなんていうの?」


「えっ?」


 リキからの問いにライは思考が停止する。名前、それはどの名前か、自分自身のそれともこの姿のことを言っているのか。

 目の前の3人は目を輝かせている。それもそのはず普段自分達が観ているヒーローっぽい見た目の人物が助けに来てくれた、色々知りたくなるはず。


(困ったなぁ…。)


 ライは悩む。君たちがよく知っている人ですよっと正体を明かすのは簡単だが、正体を知ったことにより、後々彼らに危険が及ぶかもしれないと考えると正体は明かせない。

 かと言って龍王装甲と名乗るのも人の名前でなく物の名であり、おかしい。


(まいった、まいった、なんて名乗ろう…。)


 即席で名前を考えることにした。


(見た目が黒いから…。)


「わっ、私はゴッドバロン…!」


 ライはそう自らを名乗った。


(うわっ…これはダサいかな……。)


 名乗ってすぐに後悔する。黒い外見と今まで観てきたヒーロー番組で覚えているかっこよさそうな言葉を組み合わせたが、口にしてみて恥ずかしさが込み上げてくる。

 だが、


「うわ!カッコイイ!」


「ヒーローって本当にいたんだ!」


「その格好イカス!」


 3人の反応は悪くなかった。年相応に喜んでいた。


「ほっ、本当に…?へへっ…!」


 友達に褒められてライは照れながらも嬉しく思った。


「さぁ、早く出よう!」


 ライは3人を連れて移動する。隠れさせていたカップル2人と合流し、ショッピングモールからの脱出を試みる。


「透視」


 3階の吹き抜け部分から透視能力を使い敵の数と居場所を特定する。透視能力も回数を重ねるほどその精度も上がっており、姿形、色までわかるようになっていた。


「主に1階にまだ結構な数が残ってるか…」


 1階フロアを徘徊するオークコングやハイエナ達が確認できた。


「人数が少なければ壁を壊して、3階からでも抱えながら飛び降りれるけど、この人数だと2〜3回はその作業をしなきゃいけないし、その間に来られたら大変だ。」


 ライは他の場所にも敵がいないかあちらこちら視る。そして、


「ーー!」


「んっ?」


 何か聞こえ、周囲を透視で見る。そして見つけそれを見た瞬間困惑と焦りを見せる。


「ああっ!いやこれは…あっ!参ったな、どうしよう…。」


 迷いながらも5人を連れある場所に移動する。そこはトイレスペースだった。


「どうしたのブラックバロン?トイレ?」


 リキが素朴な質問する。


「いや、そうじゃなくて…。」


 リキの問いを冷静に否定し、ライは多目的トイレの前に立つ、扉を引こうとするが鍵が掛かっている。

 それを力尽くで開ける。


「この人連れてどう脱出するか考えないと…」


 ライはここに来た理由を5人に見せる。そこには若い女性が1人身を縮こませ震えていた。その容姿はゆったりとした服を着ており、細い身体に対し、そのお腹は大きくなっていた。


 









 

 

 

 


 

 






 


 



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