第61話 長い戦いの中で

 

 大頭美代の事件は、予想以上に長引きそうだ。警察の捜査もあるが、検察が美代を殺人犯として起訴する為の立証にてこずっていると聞いている。



 前田さんより

「雄二君、今回の事件長引くぞ。大頭美代の殺人の動機と現場の状況が不一致だからだ。検察も起訴するまでの証拠集めに必死だ」

「大頭さんが殺人を実行する動機、その動機を作った状況と環境そしてその状況を生み出した大頭さんの過去の事まで調べないと、殺人罪として成立できないという事ですか」


「その通りだ。今回の事案。青山祐樹と大頭美代それに警視庁の人事部の女性から深く聞く必要がある。雄二君、君の本領を発揮する時が来たな」

「俺はまだ弁護士になって一年も経っていない人間です。どういう意味か分かりません」

「君が調査を始めれば直ぐに分かる事だ。期待しているぞ」

「はぁ」


 どういう事なんだろう。だけど俺が経験を積むチャンスだ。全力で取り掛かるか。




 俺がそういう仕事状況の中で千佳が食事を作ろうとした時


 オエッ。


 キッチンのシンクに顔を埋めた後、トイレに駆け込んだ。


 十分位して落着くと

「昨日悪いも食べたかな?」

「そんな事は無いと思うよ。食べる物いつも同じでしょ」


 私はその時は初めてだったので気にしなかった。でも


 オエッ。


 昼休みになり庁内の食堂に行こうとして近付いた時、昼食の匂いが鼻についただけで気持ち悪くなった。


 もしかして…。私は仕事途中で有ったけど、警視庁の近くにあるドラッグストアに行って妊娠検査キットを購入した。


 庁内に戻ると直ぐにトイレに駆け込んでテスタを使った。


 +プラス。


 プラスだ。やったぁ。ついに雄二の子がお腹の中に。私は体調不良を課長に行って早退すると雄二の帰りを待った。


 遅い!でもまだ午後五時半。帰って来る訳無いか。


 午後七時。まだ帰ってこない。


 午後七時半になって


「ただいま、千佳帰ったよう」


 雄二だ。


 私は、ゆっくりと廊下を歩いて玄関にいる雄二に飛びついた。


「雄二、雄二。やったよ。やったよ。出来たよ」

「あははっ、それは良かったな」

 なんだ?出来たって。


「雄二の子供がお腹の中にいる」

「え、ええ、えええーっ!!!本当に!」

「うん」

「やったな千佳。頑張ったな」

「頑張ったのは二人でしょ」


 俺は下を向いてしまった。


「千佳、とにかくおめでとう。ご両親には話したの?」

「する訳ないでしょ。雄二が一番に決まっているし」


 もう十二月も押し迫った時期だった。



 千佳は、翌日は休まずに出勤した。だけど、日が経つにつれて段々つわりが酷くなり、仕事に行くのも苦しそうにしている事がある。


 俺と前田さんは大頭美代の殺人事件の情報収集で忙しい。水戸に二泊して聞き取りをする時も有った。

 大頭美代と何度も会い、その都度に現場に出向いたり、現地の聞き取りもしている。


 だから、仕方なく、千佳が落着くまでは、実家に戻って、そこから仕事に行くように言ったが、

「嫌よ、雄二と離れるなんて絶対に嫌」

「でも、その体調じゃぁ。それに俺がずっと傍に居れないし」

「それでもいい。ここにいる」



 私の妊娠が職場の人にバレてしまった。でも課内の人は優しくて、私がきつそうな時は、なるべく休む様に声を掛けてくれるけど、仕事の代りは出来ない。

 後、一ヶ月もすればつわりも終わるかもしれない。それまで我慢だ。



 そして、直ぐに正月を迎えた。千佳の実家では、大変な喜びようだった。

「雄二君、ついに出来たな。去年言った事、まさに有言実行だな」

「そうじゃ、名前は決まったか?」

「お爺ちゃん、何言っているの。まだどっちかも分からないのに」

「あなた、気が早すぎますよ」

「そうかのう」


「千佳、いつから実家に戻るの。もう家の増築も終わっているわ。いつ来ても大丈夫よ」

「お母さん。つわりがもうすぐ収まるだろうから仕事はそのまま続ける。出産は七月の予定だからその後にする」

「それでいいの?お腹が大きいと大変よ。ここに帰って来た方がいいわよ」

「だめ、雄二の食事や洗濯が出来なくなる。掃除だってある」

「千佳、俺一人なら何とかなるよ。昔はそうだったし」

「またコンビニ弁当やレトルトに戻るつもり。絶対に駄目だからね」

「……………」

 何も言えません。


「あら、雄二君もここから通えばいいじゃない。何の問題も無いわ」

「いえ、夜遅い時もあるので、それは出来ないです」

「構わないわよ。お父さんだって、年中遅いんだから」

「そうか、そんなに遅いかな?」

「遅いでしょ。三十日だって午前様でしょ」

「いや、あれは…」

 警視監の集まりなんだから仕方ないじゃないか。


「とにかく、千佳も雄二君も六月にはここに来なさい。良いわね」

「「はい」」

 やっぱり女性強し。



 二月になり千佳のつわりも無くなった頃、十月半ばに起こった事件は、検察からの要望で三月中旬に第一回公判が行われる事になった。


「雄二君。今回の事案、大頭さんが事に至った心情を裁判官と陪審員に訴え、あくまで事故だったという方向で行く。

 検察側は、大頭さんの殺意を強調してくるだろうが、今回は被害者の行動に大変問題がある。執行猶予付きが落し所だ」

「分かりました」


 俺は、水戸で大頭さんの交遊関係を当たった。高校時代に遡って二人がどんな関係にあったかも調べた。何故か女性は熱心に答えてくれたけど、男性は淡々と答えた。


 また、大頭さんの職場での状況、人となりも調べた。彼女は本当に優しくて被害者青山祐樹の事を一番に思っていた事、毎日献身的に彼の生活を支えている事も近所からの聞き取りで分かった。


 問題は警視庁の人事部の女性が最初の内、あまり話してくれなかった事だ。だけど熱心に何度も会って聞いている内に、状況がつかめた。


 被害者は警視庁に異動する為、彼女を利用したという事だ。だが、被害者が警視庁に異動したい動機は、被害者が死んでしまった為、聞く事は出来ない。人事の女性の傍に居たいというのは嘘だと分かる。


 だとしたら…。まさかと思うがそんな事はないだろうと思いたい。でもそれが原因だったとしたら…何とも言えない。



 三月に入り、六か月を迎えたお腹が何となくだけど膨らんで来た千佳がお風呂に入り終わった後、

「ねえ、雄二。もう二ヶ月以上してないでしょ。大丈夫?」

「何が?」

「ここ」

「えっ?!」

 いきなり千佳が俺の大事な所を掴んで来た。


「ここよ。ここ。ねえ、心配。溜まっているからって他の女で消化しちゃ駄目よ。したいなら言って」

「で、でも」

「いいから」

「うわぁ」

 いきなり、彼女が俺の大事な所に噛みついて来た。


 はあ、スッキリとさせられてしまった。千佳、もうあっちの欲は薄くなったと思ったのに。

「ふふっ、ほらこんなに溜まっていたじゃない。もう一回出すわよ」

「え、ええ、ちょっと」

「だめ」


 久々でどっと疲れが出てしまった。

 

 ふふっ、雄二だって、あれだけ毎日の様にしていたのに急に止めたら我慢出来ないはずなのに。だから、二回目だって簡単に出来たなじゃい。やっぱり一週間に一回はしてあげないと。


 雄二の事だから浮気なんかしないと思うけど、我慢出来ない時ってあるからね。雄二が素敵な顔で寝ている。私も寝よう。


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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