第57話 用意周到でも漏れはある。後藤不動産の失敗
後藤不動産の話は半年前までに遡ります。
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後藤不動産にて
俺、後藤隆。丸山大学で英文を学んだが、別にこれで食おうと思ったわけではない。俺の父親は、昔から不動産会社を経営している。
普段は真っ当な取引をしているが、偶に美味しいネタが入ると上手く手に入れて転売する。
だけど、ちょっと無理する所も有って、その辺をもっとITを使って上手くしようというのが俺の考えだ。父親はその辺は疎い昔ながらの不動産屋だ。
俺の就職先は最初からここだ。サラリーマンなんかする気なんて毛頭ない。大学は遊びで行っていただけだ。成績は卒業すれすれだったが、父親の会社に入るのに大学の成績は関係ない。
そんな俺が大学の近くにいつも空いている空き地があるのを知っていた。こんな一等地を遊ばしておくなら俺が役に立ててやろうという訳だ。
「隆、分からないだろうな」
「大丈夫だよ父さん。登記簿謄本の電子記録まで更新しているんだ。バレる訳がない」
「でも、お前の知合い榊原悠馬とか言う奴は凄いな。そんな事まで出来るんだから」
「ああ、あいつは丸山大学時代、理工学部では出来る人間で通ってからね」
「後は、買い手先と早く話しを進める事だ。なにせ二十五億もの取引だ」
「分かっている。売買契約書ももうすぐできる。これは役所相手だからしっかりと作らないと」
「そうだな」
次の日、俺と前田弁護士それに金田さんと一緒に早乙女産業を訪れた。契約の為だ。その時、
「早乙女さん、お聞きしたいのですが、転売先からどうしてあなたの所に連絡が有ったんですか?」
「はい、私も始め何の事か分からず、新手の詐欺かと思っていたのですが、転売先の中に今回問題になった土地がうちの土地だと知っている人がいまして。
ただ、登記簿謄本を見る限り後藤不動産名義になっているので、私が後藤不動産に売ったのか確認の電話でくれたそうです」
「そうですか。分かりました。早速登記簿謄本の原本を確認しましょう」
契約が終わると俺と前田さんは、その足で土地の管轄の法務局に行って登記簿謄本を確認した。
「確かに後藤不動産の所有になっている。それと早乙女さんとの売買記録も無い」
「前田さん、この原本になる電子データの改竄という事は無いですか?」
「それは、無理…。確か登記簿謄本は更新する時、前の記載をアーカイブするはずだ。それに法務局としても万一の為にアーカイブを持っているはず。早速その線で調べてみるか。
後、転売先には契約を先延ばしするように早乙女さんから伝えて貰おう。転売先で後藤不動産と懇意にしている人間がいるかもしれない。私達が動いている事を知られるのは不味い」
前田さんからの指示で早乙女さんは、後藤不動産が考えている転売先の電話をくれた人に先延ばしするように頼んだ。だが、伸ばしても一ヶ月が限度だと言われたらしい。
前田さんは、法務局に早乙女さんの土地のアーカイブ記録を見せる様に依頼したが、事件性でもない限り、紙ベースならともかく電子データの個人資産に関わる情報は公開出来ないと言われ仕方なく、東都地検の知合いに事の次第を話した。
地検の人とは普段から仕事で関わっているらしく、直ぐに法務局に対して事件性に鑑み電子データの個人資産の公開を要求した。ここまででも三週間かかっている。
アーカイブ情報を調べたところ、その土地は早乙女総一郎の所有となっている事、現在まで早乙女総一郎から後藤不動産に売却した記録がない事等が判明したが、どうして今、後藤不動産になっているのか分からず、明確な証拠がない限り後藤不動産に対して家宅捜索や逮捕状の請求は出来ない事となった。
だけど、アーカイブと現在の電子データの差分に問題がある事や早乙女総一郎と後藤不動産との間に売買記録が無い事から、後藤不動産から転売先への土地の売買差し止めを裁判所に要求する事が出来た。
「隆、どういうことだ。バレないはずじゃなかったのか?」
「分からない。ここにもある土地の登記簿謄本はうちの所有になっている。これは電子データからの印刷だから本物として扱われるのに、売買の差し止めが裁判所から来るなんて」
「榊原とか言う奴がばらしたんじゃないだろうな?」
「そんな事はない。ばらしてあいつにメリットはない」
後藤親子が裁判所からの売買差し止めの話をしている時だった。数人の男と女が後藤不動産に入って来た。受付の子が
「何ですか、あなた達は?」
「東都地検特捜部だ。一切の資料から体を離して壁に立って居ろ」
「えっ?!」
後は、東都地検の動きは早かった。俺は詳しくは分からないが、法務局の電子データにアクセスすると足跡が残るらしい。
その足跡からアクセス元が割り出され、榊原悠馬がハッキングや電磁的記録不正作出罪で逮捕され、芋づる式に後藤不動産の社長や後藤隆が逮捕された。
後藤不動産に付いている弁護士もこの事実を知っていたとして逮捕された。
これで、この事件は解決に向い、早乙女さんからは凄い金額の報酬が前田法律事務所に支払われた。
前田さんからは、俺がとてもよく働いてくれたからという事でインセンティブを頂けることになった。
金田さんや他の弁護士達からも入って間もない若い子がこんなに大きな事案を解決できるなんて凄い、凄いの嵐だった。
俺、何もしてない気がするんだけど。
だけど、とんでもない所からクレームが来た。千佳からだ。
「雄二、なんで私に教えてくれなかったの?詐欺事件は警視庁捜査二課の仕事よ。いきなり地検に持ち込むなんて。警視庁の面子丸つぶれだわ」
「そんな事言われても、前田さんが主導で動いていた事件だし、俺が千佳へ言える訳無いだろう」
「それはそうだけど。せめてチラッと位言ってくれても良かったのに」
「千佳に何か不都合な事でも有ったのか?」
「無いけど。関わったのが前田法律事務所って聞いたから雄二の所だと分かって」
「千佳に何もないならいいじゃないか。君だって知っているだろう。いくら警察官だからってクライアントの情報は機密だ。令状でもない限り教える事は出来ない」
「分かっているけど…」
「千佳も警察官としての自負が出て来たってところ?」
「まあ、そう言われてみれば、そうだけど。ところで…。ねえ、覚えている。今年の夏休みに子作り旅行するって言っていた事」
そう言えばそんな事言っていたな。
「ああ、覚えている」
「でも雄二が仕事忙しくなってしまって、夏休みも取れずに旅行も行けずだったでしょ。仕事の区切り付いたんだから旅行行こうよ。子作り旅行」
「あははっ、でも俺今年事務所に入ったばかりだし」
「駄目、約束だよ。ねえ、雄二。行こうよ」
千佳が俺の肩に手を置いて俺の体を揺さぶっている。千佳の奴段々力が強くなって来たような?
「わ、分かった。前田さんに聞いてみる」
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本話における法律事務所の動き、法務局や地検の動きに関しては、あくまで小説の中の話であり、現実と異なる事も多く含まれますが、ご理解の程宜しくお願いします。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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