第十五話 ある結託者達
カンさんと一緒に家に帰る。今は一人にして欲しいと言ったものの、何故だか執拗に一緒に帰りましょうと積めてくるもんだから、手早めに覚悟を固め、一緒に帰ることにしたのだ。カンさんは安心してくださいと優しく、何度も言ってくれた。だけど、それ以外何も言わないもんだから、逆に怖い。
家に着くと、玄関には四人分の靴があり、コンさんとゴンさんの他イヌイさん、あの少女のものと見られる靴がある。緊張感を出来るだけ抑え家に上がれば、自然と皆の視線が僕に集まる。
「…僕は、照葉君を信じます。やったのは彼ではありません。」
「そうかもしれないが、今はまずこの子の様態の方が大事だろ。かなりの重症だ、脈が浅い。」
「八卦の中で救護にたけた人っていなかったカイ?」
「いた気がするな。そうだ、ソンだ。」
「ソン?そうなノ?」
「やめましょう!ソンさんを此処に連れてくるのは止めた方がいいです。」
「何故だ。」
「僕が照葉君から話を聞く限り、ソンさんが何かしら関わっていると思うのです。此処に呼んでしまえば、」
「じゃあお前ならどうする。」
「それは…、」
「僕が見てみます。」
僕は皆を横切りその少女の元まで歩み寄る。これは僕の責任だ。僕が人影を追わなければ、僕が此の世界に来なければ、此の少女はあのソンという人に助けて貰えたのかもしれない。僕がいたから、ソンさんはああいった判断をしたのかもしれない。
「向こうで救護経験があるのか?」
「少しなら。」
本当の事を言えば、直接は無い。図書館通いの子供が、偶々救護系の本を手に取っていたというだけだ。小学校の頃、運動会の役割分担で救護係というものがあった。そこに属したからには知識はいるだろうと、読んだだけに過ぎなかった。結局その知識は使わずじまいになった訳だが、これは子供の運動会での怪我と一緒にしていいものではない。とてつもない責任感とプレッシャーで、僕の身体は今にも崩れそうだった。というかいっそ崩れて欲しかった。何故僕は立てているんだ?何故人体の形を保てているんだ?
あの時は強風の所為で気付けなかったけど、彼女の身体にはナイフをかすめたような傷が大量にあった。しかし決して刺されてはいない。あくまでもかすり傷だ。じゃあ何故こんなにも重症なのか。それは傷の数が多すぎ、出血量が多すぎるからだ。
「こんな傷の量、どうやったらつくんでしょうか。」
「何重にもナイフを重ねたとか?」
「いえ、違います。この傷の原因は…風です。」
「え?」
「そんな事無いだろ、風で肌が切れるのか?」
「はい。これは滅多に無い不思議な現象で、僕らの世界では"かまいたち"という妖怪が風に乗って人々を切りつけていくという都市伝説なんかもあります。」
「妖怪?」
「はい。僕らの世界では、昔は今より文明が進歩しておらず、原因が分からない不思議な現象は全て妖怪というこの世に存在しないモノの仕業だとしたんです。これでいうと、風が吹く中、唯歩いているだけでいつの間にか切り傷がある、そう言ったときにかまいたちの仕業だ、何て言います。」
「じゃあ俺らが地面を動かしているのを人間が見たら、それは不思議な現象として妖怪の所為になるのか?」
「まぁそんなところです。でも、この件に関してちょっとおかしな点があって、かまいたちによる傷というのは、血は出ないし痛みもないんです。」
「じゃあ違うじゃないか。」
「そうなんですよね…」
何なのだろう。もし僕が探偵なら、一発で見抜けるもんなのだろうか。いくら傷を眺めても、原因が何も思い浮かばない。イヌイさんはもう一度現場を見に行ってみる、と言って家を出ていった。僕は応急処置として、彼女の身体にカンさんの水を染み込ませた布で傷を拭いてから、乾いた布で止血をした。
それから一分程沈黙が続いた。
「僕分かったヨ。」
ふとそう言ったのはコンさんだ。
「兄貴、分かったのか?」
「ウン。簡単な事ダヨ。あってるかは分からないけれどネ。」
「構わない、言ってみてくれ。」
「…照葉君は分からない筈だヨ。この人は"兌"という人でネ、沢を操る力を持ツ。沢って言っても分からないかもしれないけど、要するに葉を操るんだヨ。実際の役目としては水も少しは操れる。けど、これに水は関係無イ。」
「あ、成る程!」
カンさんも気付いた様子だ。僕も、そう言われてはじめて分かった。
「何が成る程なんだ?」
「ダさんとソンさんが戦ったって事ですか?」
「きっとそうです。何かしら二人の間に抗争があって、ダーさんの葉の攻撃を、ソンさんが風で返すと、今度は風に方向転換させられた葉達がダーさんに向かって飛んでいく。ダーさんの操る葉は鋭いですから、このような傷がつくのも納得がいきます。」
「でも全てかすり傷だぞ?普通刺さるもんじゃないのか?」
「それはあくまで葉だからですよ。正面から刺したって、柔軟性に負けるでしょう?横にかすれた部分だけ、傷つくんです。」
「そうだネ。もっというと、彼女達はリーに関係がある気がするんだヨ。」
「どうしてリーさんが?」
「君は濡れ衣を着せられたんだろウ?初めてあった筈の奴に、身元も聞かれないデ。つまりソンは君のことを知っていル。でも僕らは教えた覚えがないし、教える筈が無イ。」
「そう言うことか。」
やっと理解したように、ゴンさんが相づちを打つ。
「リーから情報を聞いたソンが、自分がダーを傷つけた罪を照葉に擦り付けたんだな?」
「ンー、ちょっと惜しいカモ。僕の予想では、リーとソンが照葉君を狙う組織を結託して、それにダーが参加を断ったんじゃないかナ。じゃなきゃ何時も目の前で誰かが悪さをしようとあまり介入しない主義のダーと、ソンがぶつかることなんてないヨ。」
「確かにそうですね。それで、都合よく来た照葉君に濡れ衣をきせた。あの人達は…本当に懲りないですね。」
「待っテ、早まらないデ。これがあってるとは限らなイ。こういう場合の一番の敵は勘違いだからネ。」
それはそうだ。此処はそもそもの人数が少ないし、皆平等にそれぞれの力を持つからあまり感じることはないのかもしれないけど、僕らの世界では勘違いまみれだ。それによって起こる争いもあるし、奇跡もある。それをこの人はよく分かっているんだな。と改めて尊敬の意を抱いた。
「兎も角…照葉君。君は次の会議に参加しなさイ。」
「えっ!?」
「そんな事をしたら、照葉君の命がっ」
「そんな事は分かっていル。何かあったら僕が何とかすル。この件については、きっとあいつは何かしらを報告するだろウ。それを黙って見ていられるような性格ではないことは、カン、君が一番知っているだろウ?」
「…そうですね?」
凄くかっこいい台詞の筈だけど、カンさんはいまいち腑に落ちない顔をしている。
「あれだ、兄貴は自分が興味のない事は他力本願だが、興味のある事は真剣だもんな?」
「そーゆうことだヨ。」
コンさんといれば、とてつもない安心感があるんだけど、今は安心しないほうが良いのかもしれない。八卦の会議に参加する。人間の僕が?
何時も盗聴している割には全く別の場所へ行くようで、恐い。果たして僕はこの先生きていけるんだろうか。
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