第5章 魔導学園

第83話 それぞれの進路

 帝国にはマジックキャンセラーと言うアイテムがあると言う。 それを踏まえても、魔法が使えるのと使えないとでは違うのだろう。


 確かにマダムの魔法を見る限りは、攻撃魔法と言うよりは補助魔法と言ったたぐいの魔法を多用している感じだ。 しかも非常に便利だと思える。


 マキナさんには簡単な魔法のスクロールはデバイスにインストールしてもらってはいるのだ。 しかし僕は限られた魔法をたまに使うのみで、しかもスクロールに魔力を流すだけの単純作業だ。


 この世界の魔法について、僕はもう少しる必要がある。



「マダム……」


「なにかしら?」


「服をお召になって下さいませんか? 目の遣り場に困りますので!」


「え? そなた、アタシを襲いに来たのではないのかしら?」


「こんな朝っぱらに夜這いの様な真似はしません!!」


「なんですか、紛らわしい!!」



 そう言ってマダムは……裸でペタペタと歩いて、ポールハンガーにかけていたガウンを羽織った。 ……腰紐もつけてくれ。



「それで? 寝込みを襲いに来たのでなければ、いったいどう言った御用かしら?」



 まるで他に用が無い様な言い方!?


 マダムはガウンの前をはだけさせたまま、手際良く紅茶を淹れ始めた。 ……頼むから腰紐を締めてくれ。



「マダムに是非お教え願いたい事がございます。」


「なるほど。 このアタシに教えられる事と言えば、何も申さずともよいかしら」


「その……、ガウンを脱がないでいただけますか?」


「脱がずに教えろとは……そうか、着せたまま、或いは破いてと言う……」


「いや、全然違いますからね?!」


「ではいったい何だと言うのか!? 勿体振らずに話せないのかしら?」


「話そうとしたらマダムが……いえ、申し訳ございません。 マダムに教えていただきたい事と言うのは、魔法の事なんです」


「ほう? この魔法が廃れつつある昨今、魔法に興味があるとは? そう言えば先日もアタシの魔法について何やら申しておったな……」


「マダムはとても魔法に精通していらっしゃるとお見受けしました! 何卒、その一端をご教授願えないだろうか?」


「ふむ……殊勝な心掛けかしら? しかし、こう見えてアタシ、タダで魔法を教えた事はないのだけれど?」


「勿論、タダだなんて言いませんよ?」


「そんな事を言っているのではなくってよ?」


「……と、言いますと?」


「アタシ、昼は魔法学校の特別顧問を引き受けておりますの。 どうしても教えて欲しいと仰るなら、魔法学校の門戸を叩くと良いかしら? 特待生として推薦状を出してあげてもよろしくってよ?」


「魔法学校……ですか?」


「クロ? 魔法学校って学校だよね? 学校に行けるの?」


「そう言えば、シロは教会で教育を受けたって聞いけど……?」


「うん、ペドロ神父様が色々と教えてくれたよ。 読み書きや算数、帝都教会の経典、神事、聖女が使う回復魔法や浄化魔法とかとか?」


「聖魔法が使えるとは見込みがあるわね?」


「そうなんですか?」


「ほえ?」


「魔法と言うのは適性ってのがあってね、属性によっては得手不得手があるものなのよ? 中でも聖・魔属性や無属性を扱える人は少ないかしら?」


「へえ、前から少し思ってたけど、シロってけっこう凄いんだな?」


「えっへん! どんなもんだい!?」


「はい、えらいえらい♪」


「ふふ〜ん♪」


「あんたたち、帰る?」


「す、すみません!」


「ごめんなさい」



 二人してマダムに頭を下げる。

 話を聞きに来ているのに確かに不謹慎だったな。



「こほん。 ちょっと自慢してもいいかしら? まああ?アタシは全属性適性持ちなんだけれどね?」


「「へぇ……」」


「……もっと驚いても良いのよ?」


「いまいち凄さが分からないので……なんかすんません」


「ふん、まあいいかしら……明後日、とあるお貴族様のご子息様がうちの学校に編入してくるの。 ついでと言っては何だけど、アナタ達も編入試験を受けると良いわ。

 推薦状は書いてあげるけど、試験に落ちたらそれまでよ?

 簡単な実技試験があるけど、その基準に達していない場合は編入する事は出来ないかしら。

 でもまあ、学科試験は無いから安心してちょうだい?」


「実技……ですか……自信ないですね」


「実技と言っても魔力測定と属性適性測定、そして簡単な詠唱試験と記述試験よ? はっきり言ってしまうと、魔力を持っているなら受かると思ってもらって大丈夫かしら」


「でもスクロールに魔力を流すくらいならやった事はありますが、詠唱とか記述とかまるで経験ないのですが……」


「指示通りにして、適性を見るだけなのだけど……まあ、嫌なら受けなくても構わなくってよ?」


「モモはやる!!」



 何故かやる気満々のモモ。 サムズアップを決めて、その目に灯ったやる気の灯火は大きそうだ。 モモだけ行かせる訳にもいかないし、その期待を裏切る訳にもいかない。 僕も覚悟を決めないと!



「モモちゃんは入学するとモテそうねぇ♪」


「モテる? 人気者ってこと?」


「そうねぇ。 主に殿方からね♪」


「ぼ! 僕も受けます!! 受けさせてください!!」


「やっとやる気になったみたいね。 わかったわ、午後には用意しておくから、入学の準備が必要ね。 学校へは通うのかしら? それとも寮に入る?」



 そうか……通学するとなると何処かに住居を確保する必要がある。 学生寮があるのなら、そちらを利用する方が通学のロスがなくて良いかな。



「マダム、寮に空きはあるのでしょうか?」


「そうね? あまり人気がないから空いてると思うけど、この後確認しておくわ?」


「分かりました! 宜しくお願いします!」


「マダムおねがいね〜!」



 マダムはニコリと笑顔を作ると軽く頷いて席を後にする。


 僕たちも明後日の試験の為に支度をしなければならなくなった。 まさかこの歳で就学することになるとは思わなかったので、マキナ姉さんに相談してみる事にした。


 城を後にした僕たちは街外れに停泊しているソロモンへと向かった。



◆◆◆



 パーティーの後、ヘレンさんは多くのメディアに注目を受けて、今や世界で時の人に成りつつある。

 ベノムさんは一晩でそのカリスマを発揮して、サムエルごとニヴルヘルのスターへと成り上がった。 

 しかし、そんな名声に奢らず、自らのスタイルも変えずにヘレンさんを影で支えつつ、護衛やバーテンの仕事も地道に続けている。

 身請け金は一年かかると言っていたが、たった二日で全て返済してしまった。

 ヘレンさんが元娼婦のディーヴァとあって、違う意味での注目もあったが、マダムの睨みでひと蹴りにして追いやった。 変な輩が手を出さない様にと、マダムはヘレンを養女として家族に迎え入れた。


 モカ・マタリはその名声に拍車がかかり、パーティー後トップアーティストとして冥王の使徒として世の音楽業界を牽引する存在となっていた。


 ガールズバー・ベラドンナは冥王のファンクラブの溜り場となりつつあった。 クロが先日のお礼として店で演奏して、大きなサインを書いたことにより、聖地として連日ファンが訪れると言う。 


 また、パーティーを皮切りに音楽業界に新たなムーブメントが起こりつつあった。 アイドルグループと言う新しいコンテンツだ。 今までもソロによるアイドルはいたのだが、ここに来てグループと言う新しいコンテンツが活発に動き始めたのだ。

 ムジカレーベルがプロデュースするユニットグループが次々と生み出されて、世の中の少年少女たちは夢中になっていく。

 のちに、その足掛かりとなったモモキッスは伝説のユニットアイドルとなった。


 コーラスをしていたモイラ三姉妹は平常運転である。

 今日は今日とてソロモンの一室で、お茶をしながらくだを巻いていた。



「ところで、ルカさん」


「はい、ラケシスさん。 何でしょう?」


「ハイモスさんがいらっしゃらない様ですけど、どちらかにお出かけになったのかしら?」


「ええ、何でも古いご学友が近くに来ているらしく、是が非でも会いに行くのだと飛び出して行きました」


「あら、ルカさんはご一緒しなくて宜しかったの?」


「え!? どうして私が……!?」


「あら、ハイモスさんの彼女として紹介があって然るべきではないかしら?」


「それは……」


「そのご学友さんとやらは殿方なんですの?」


「さあ……何せ、急いで出て行ったものですから、コレと言った人物像は窺っておりませんでした」


「あらあら、では女性と言うこともあるうるのですね?」


「まあ……そうなりますね……」



 ラケシスたちモイラ三姉妹はニヤニヤとした顔つきでルカの顔色を窺っている。

 ルカはソワソワと落ち着かない様子で、デバイスをチラチラと見始めた。


─ウィーーン…

 不意に部屋の自動ドアが開く。


 ハイモスが帰って来たのではないかと一同目を遣るが、立っていたのは城から戻ったクロとシロだった。


「ハァ……」


「あれ? ルカさんため息なんかいて、何かあったんですか?ハイモスさんと……」


「どうしてため息ついてたらハイモスさんと何かあったみたいに言うんですか、もう!」


「え、違うんですか?」


「ちがっ……わないけど、決めつけられると何だか腹が立ちます!!」


「じゃあ、何かあったんですね?」


「そんなにルカちゃんを虐めちゃいけないわ? ハイモスさんが他の女性とあっているかも知れないと言うだけのことですのよ?」


「違います!! ご学友さんと会ってるだけですもん!!」


「ハイモスさんが出かけるなんて珍しいですね!?」


「何でも大切ならしいのですわ?」


「大切な?」


「ただの古いご学友さんですからっ!!」


「学友って……ヴァルカンさん? かなぁ? でも、ヴァルカンさんは建塔師仲間だったし……違うのかな?」


「ヴァルカンさんだったらシロも会いたいなあ!」


「あら、お二人はそのヴァルカンさん?とか言うハイモスさんのお友達は顔見知りですの?」


「はい、以前ヨルムンガルド鉄道の車内で知り合いまして、彼にハイモスさんの事を教えていただいた経緯があります。 その人はハイモスさんとは建塔師仲間で、今もバベルに居ると思うのですが……」


「まあ、戻って来てから聞きましょうよ。 仮に女性だとしてもハイモスさんがルカさん以外の人に興味を持つとは……」



─ガチャリ

 ルキナがお茶の用意をして持って来てくれた。 皆の注目を浴びたルキナは頭にハテナが並ぶ。



「「「「「ロリっ娘!!」」」」」



 ハモった。 シロとルキナは理解に及ばず頭にハテナを増やしていた。

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