第173話 くずとお嬢様【side立花望】

古今東西、西洋東洋問わず、剣術やそれに類する攻撃方法は概ね縦横の四方向からの斬撃にその間に当たる斜め四方向。それに加えて真っ直ぐ刺突。

概ねこの9種は絶対にどんな流派でもある技な訳で。

当然どんな防御術も回避術もこの九つをベースに対策として編み出された技であるため、これらを神速でほぼ同時に前に突進しながら放つ事により、一度技が発動してしまえば防御も回避も不可能になる、という理屈なんでしょ?って。兄ちゃんがるろうに見ながら言ってた。なるほど。

これを破るには技が発動する前に攻撃して相手を倒すしかない!


『何それ!かっこいい!』


あたしはそれに1発おまけする事にした。

兄ちゃんのバトルマンガ参考にして、

足指、足首、膝、股関節、腰、背中、肩、肘、手首、指の9箇所同時加速により10発を叩き込む!

威力は凄まじいけど兄ちゃんにあんまり効いて無かった。

本気で打てないでしょ?兄ちゃんは十分痛かったらしく、


承『お前!絶対人にそれ使うなよ!

お前相手が悪いやつとかくずな男とかだったら躊躇わずに振り切るだろ?』


兄弟相手には使えない技もある…。

いつか屑にわからせる為の技として、『屑龍閃』と名付けた…。

まあ使うことは無いかもなぁ…。



☆ ☆ ☆

『屑龍閃ッ!!!』



一、二、三、四、五、六、七、八、九、十!!


上下左右斜め四方向…!

大丈夫手加減出来てる!8割位の力!

※明らかに手加減足りません。


刺突はマズイ…。

突進の勢いで横をすり抜けながら!刺突の代わりにお尻をスラッパーちゃんで2発殴打するよっ!!!

※勢いがついて殴打ってより強打でした。


ばばばちぃぃん!!!


手ごたえ十分!

※手加減した人の言う事では無い。


だってこいつ?あたしの顔見て目を輝かせたのに?

目線下げて胸元見てがっかりしたからな?

許せないでしょー?



くず『…うおおぅ…。』


勢いつき過ぎて手加減出来なかった2発叩き込んだお尻を抑えて悶絶するくずとか自己紹介しかけてた男をどうしようか一瞬迷う。

…介抱するか…?トドメさす?


トドメ刺すに傾いてしまったけど、

兄ちゃんや宏介くんにトラブル厳禁って言われてた…。

これトラブルに入るのカナ?

※間違いなくトラブルです。むしろ初手暴力…って将棋の解説に呼んで欲しいほど清々しい暴力です。




『…インガオホー。』

※因果応報



私は苦悶する男に一声かけてその場を足早に立ち去る。

…絶対急に腕掴んだ男が悪いから正当防衛だよねっ♪

そう言い聞かせながらテニス部屋内練習場へ辿り着いたんだね。



☆ ☆ ☆

練習参加招待には8人女子中学生と7人男子中学生が来ていた。

色々書類にサインさせられて、持参した保護者の了承書類を提出して軽く説明を受ける。ふむふむ、面倒くさいな…ここに居る全員倒すからあたしが特待生でよくない?


そんな妄想しながら顔だけは真面目に話を聞いてウェアに着替えていよいよ練習開始!

…って時、あいつだ!さっきヤったあいつが居たの!

テニス部だったのかー。



更衣室で着替える時ひとり呟いた。


『用意はしておくモノだね…。カラコンとヅラ持ってこれば良かった…!』


あたしはウェアに着替えながら、そっと胸パッドを装着した。



…。



…。


横の女の子が不審そうにあたしを見つめる。

…なんかお嬢様っぽい…なんでかって?

髪が縦ロールなの!初めて見たよ…!


お嬢様『…ねえ?貴女さっきと随分印象違わないかしら?』


『気のせいだよ?』


くずがその辺をうろうろしてるからさ?あたしは印象を変えようと髪を後ろで束ねてポニテにして?さっきまでの普通顔から笑顔120%にして?

胸パッドを装着した。

いつも変装時(ウロヤver)のバストボリュームを10とするなら今は5くらい。

※素の望は1。


流石に2枚パッド付けてテニスしたら大惨事!

今日は一枚だけ着用。ウロヤの時は2枚入れてるんだね。

それより…!笑顔120ぱ超しんどい…!

表情筋が死んじゃうよぉ!


笑顔を維持するマシーンと化して私は北翔高校テニス部のトレーニングを言われるがまま始めたんだよね…。


さすがに高校だけあって練習強度は高く、基礎にかける時間と柔軟などのウォームアップはがっちりやるね?


午前の練習が無事に終わった。

まあキツイ。一年生と同メニューで?2、3年はもっと強度の高い練習をしているらしい。

あたしが見て女子内で1番動きが良いのはさっきあたしの胸を指摘してきた女子だった。

黒髪だけど縦ロールでなんかお嬢様ぶってて?

午後は試合が組まれてるから?

世間知らずそうなお嬢様にガツンと世間の厳しさを教えてやろうかな?

そう思いながら舌舐めずりしてると、

※完全な悪役ムーブです。



くず『…。』


いけない、いけないくずがこっち見てる!

あたしは笑顔全開で目が見えなくなるほど目を細めて恵比寿顔。

くう、これじゃあたしの魅力が…!


コーチ『じゃ!ランチだよ!

今日は学食のスポーツ科特別ランチ食べて行ってね?』


『わーい!』


細けぇことは良いんだよ!

ごはん♪ごはん♪ただごはん♪


あたしは小躍りしながらコーチの先導に着いていく…

ところをバッチリ宏介くんに見られた…!


やっべ、行儀良くしないと兄ちゃんに報告されちゃう!

あたしは斜め後ろを歩いていたさっきのお嬢様っぽい女の子と仲良くなったフリをするよ!

仲良くしよっ♪

…お嬢様はすっごい嫌な顔して、


お嬢様『なに?気安く近寄らないでくださる?貧乏人が感染るわ?』


『お高くとまりやがって…めちゃくちゃにしてやるぜー?』

※完全な悪役ムーブです。


ごはん食べ終わったら絶対こいつぶっ潰す!

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