第14話 ルルナ奔走!!

 黒猫黒子には本人も知らぬ熱心なファンがいた。

 蔵前ルルナ。駿河の同級生で、偶然目にした黒子に一目惚れした女の子である。


 彼女の日課はネットの『黒猫黒子スレ』を監視すること。

 ここにいれば黒子がいつ、どこで、誰の配信に現れたのか瞬時に把握できるのだ。


 プライバシーなんてあったもんじゃない。


 そんなこんなで、ルルナはこのスレで一本の動画に巡り合った。

 先日、黒子が本間ねね&孫のダンジョン攻略を手助けした際のものだった。


「な、なんじゃこりゃ……」


 本来、アイテムを渡したらすぐに去ってしまう黒子が、一緒にダンジョンを攻略している。


 クリアこそしてないけれど、1時間近く映っている!!


 サソリ相手に凛々しく可愛く戦う黒猫黒子。

 ファンにはたまんねえお宝映像であった!!


「うひょーーっ!!」


 早速動画を保存して、ベストショットを切り抜きまくる。

 印刷して部屋に貼るのだ。

 ちなみにルルナの部屋は、四方八方黒子の写真で埋め尽くされている。


 抱きまくらにも貼られているし、プリントしたオリジナルシャツが何枚もタンスにしまってある。


 素直に気持ち悪い。


「黒猫ちゃん、いつになったらあなたに会えるの??」


 当然、ルルナも依頼をしたことがある。

 だが依頼を受理されたことは一度もなかった。


 黒猫黒子の勤務時間は定まってないし、依頼数も多いので倍率が高いのだ。


「こうなったら……」


 ルルナは駆け出した。

 最寄りのダンジョンに向けて一心不乱に走り出した。


 もしかしたら運良く会えるかもしれないから!!


 雲まで届きそうなタワー型ダンジョンに入ると、


「スキル発動!!」


 持ち前のスキルを発動させる。

 ルルナのスキルは『索敵スキル』。ダンジョン内の近くにいるモンスター、人間、お宝の位置を把握できるのだ。


 しかも黒子探しでスキルを使いまくった結果、まさかのスキルレベルSS。

 通常、同じフロア内に限定される索敵能力が、階層問わずダンジョン内にあるものをほぼすべて把握できるようになるまで成長している。


 つまり、ダンジョンに入った段階で黒子がいるかどうかわかるのだ!!


「い、いない……」


 ダンジョンの外でもスキルを行使できたらよかったのだが、悲しいかな、この手のスキルはダンジョン内でのみ真価を発揮できるのだった。


「な、なんで……。こんなに大好きなのに……」


 膝から崩れ落ちる。

 涙が地面を濡らしていく。


 会いたい。お喋りしたい。触りたい!!


「髪の毛一本だけでもいいから欲しい。黒猫ちゃんが欲しいよ。私はただ、黒猫ちゃんを飼いたいだけなのに……」


 『だけ』の範囲がデカすぎる。


「うええええん!! 会いたいよ、黒猫ちゃーーんッッ!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 一方そのころ。


「あれ? あれれー?」


 黒子は道に迷っていた。

 デリバリーのためダンジョンに入ったはいいが、行き先がわからなくなっていた。


「うわー、参ったなー」


 すべてのダンジョンをクリアしているはずなのに何故?

 理由は単純で、地形が変わっているからである。


 ダンジョンの特性で不規則に壁や地面が動いたり、他の冒険者が大暴れして穴が空いたり崩れたり、原因は様々。


「はぁ、索敵スキルがあったらよかったのに」


 デリバリーサービスにはうってつけのスキルである。


「どこかにいないかなあ。索敵スキルを持っていて、デリバリーを手伝ってくれそうな、優しい人」


 黒子のお願いならなんでも聞くような女の子、いるにはいる。


「同い年ぐらいで、女の子だったらいいなあ。友達になれそう」


 条件に当てはまりすぎている女の子、いるにはいる!!


「ははは、それでめちゃくちゃクセが強い子だったら、面白いかも」


 クセが強すぎる女の子、いるにはいるのだッッ!!!!


「って、笑ってる場合じゃない。急がないと」


 黒猫黒子と蔵前ルルナ。

 互いに互いを満たせる相手なのに、運命の神は会うことを許さない。


 しかしおそらく、たぶん、十中八九、ルルナは黒子に会ったら監禁するので、会わないほうがいいだろう。

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