Karte10:ただいまです 後編

第40話 久しぶりの王都

 王都に到着したのはエルダーを出て10日目の昼過ぎ。馬車を降りたのは王宮の北側にある馬車ターミナル。広場のようになったターミナルは王宮を囲うように配された環状道路と一体になっており、この道路を中心に東西南北に大通りが伸びています。

 「えっと、協会は南通りの入り口にあるから――」

 久しぶりの王都に気持ちが昂る私だけど、まずは一番の目的である免状の更新をしないと。王宮に沿って反時計回りに歩けば南通りに出るし、ここからなら協会までそんなに距離もないからこのまま歩いて行こうかな。

 (ここから薬師協会までなら馬車を使う必要はないよね)

 荷物と言えるものはトラベルバッグだけなので歩いて協会へ行くことにした私。リンデンバウム最大の街とあって人も馬車も多く、なによりとても賑やかです。

 「そういえばお昼食べてなかった。なんか買っちゃおうかな」

 ご飯時だからかな。道の左右にはパンやサンドウィッチを屋台が多く出ていました。中にはスープやパスタといった手の込んだものを売る店もあり、他の街では見かけない王都ならではの光景です。

 城壁で囲まれた『都市』と呼ばれる街の主だった通りには露店が多く並んでいます。セント・ジョーズ・ワートにも当然あるけど、王都はその数がけた違いに多く業種も様々が特徴。食べ物を売る店はもちろん、花や雑貨を売る店もあります。市場に近いところだと薬草を売る露店もあるらしいけど、師匠からは質が悪いから買ってはいけないと言われたっけ。

 「セント・ジョーズ・ワートも華やかだけど、やっぱり王都は違うね。そうだ。あとであの店にも行こうかな」

 あの店とは師匠の薬局と同じ東通りにあるお菓子屋さん。そこのクッキーが私のお気に入りで王都にいる頃はよく買ってました。せっかくだからアリサさんへお土産に買っていこうかな。エドの分は……可哀そうだから買ってあげるか。

 「エドは食べれるなら何でも良いってところがあるからね。きっとありがたみの欠片もなく食べちゃうよね」

 この間、セント・ジョーズ・ワートで買ってきた焼き菓子も「ソフィーが作るのと変わんねぇ」とか言って一気に食べちゃったし、少しは味わって食べてほしいよね。

 「それにしても、ほんと人多いよねぇ」

 ほんの一年前まではこの大都市で過ごしていた私だけど人の多さに圧倒されてしまいます。

 「これだけ人がいるとちょっと騒々しいね」

 皆が顔見知りでゆっくりと時間が流れる村の雰囲気とは違うこの空気感。王宮という国の中枢が近くにあるせいかもしれないけどすれ違う人は皆どこか忙しそうに見える。

 (――あ、警備の兵だ)

 王都、特に王宮の周辺は近衛兵をはじめ多くの兵士が警備に当たっています。国王の住まいがあるのだから当然だけど、甲冑を纏った兵士って結構威圧感があるんだね。

 (一年離れただけでこんな風に思うなんて――やっぱり私も変わったのかな)

 村とは違って欲しいものがすぐ手に入る暮らしは便利だし、この街が私の故郷だからほんの数日でも帰って来れたのは嬉しい。だけど――

 「――村の方が好きかな」

 王都に住んでいた私が言えることじゃないけど、エルダーでの暮らしの方が合ってると思う私がいました。


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