第十九話 スイッチ!
スピカの言うとおり、それは動物の形を模した魔力の塊と言えば良いのだろうか。
次々と生み出された魔力動物が、自律した動きで俺達に襲いかかってきた。
「来るぞッ、スピカ!」
「はいッ!」
言うが早いか、とてつもないスピードで突っ込んできた猿の引っ掻きを何とか剣で合わせる。
「クッ」
受けてみれば分かるが、こいつら動物とは形ばかりで実態はまるで違う。
とにかく速いし、一撃が重いのだ。
手早く猿を切り捨て、続いて襲ってきた熊の突撃を躱し一太刀。
返す刀で、兎の首を斬り飛ばす。
「チッ、精霊のやつ高みの見物決めやがって」
あの精霊、黙々と動物を産みだし続けるだけで本体は攻撃してこない。
いや、出来ないといった方が良いのか?
考える間にも、魔力動物の猛攻は止まらない。
イノシシの猛進を右手に持った剣で受けパリィ、その後魔力の込めた左手で地面を叩き付け足場崩し。
「ッ!」
精霊の真似だ。
浮いた動物を速やかに剣で切り飛ばしていく。
片手間にスピカを見る。
こいつらは、根と違って一体一体が中々に厄介だ。
もしかしたら、スピカでは荷が重いかもしれない。
少し心配しながら彼女を見ると。
「…おお、全然違うじゃん」
戦闘開始時と異なり、明らかにスピカの動きが良くなっている。
これはどういうことだ?疑問はすぐに解消される。
あの動きの癖……俺!?
いつ盗まれたのか分からないが、彼女の動きは確かに俺のスタイルと酷似していた。
加えて、今のところ攻勢に回っている。
常に囲まれないよう立ち回り少しずつ魔力動物の数を減らしていた。
「もう、これ以上は過保護だよな」
望外のスピカ成長に、思わず笑みがこぼれる。
ここからは、保護ではなく仲間として戦闘に関する信頼度を高めるべきだろう。
もちろん、戦闘以外では全幅の信頼を置いていることは言うまでもない。
「スピカッ!あいつ、木の根と動物を同時には出せないみたいだ!」
「みたい……ですねッ!」
「だから、ちょっと精霊に一発入れてくる!動物は任せてもいいか?」
「合点承知ですっ」
スピカの返事を合図に、精霊の下へ向かう。
道中の魔力動物を最低限に薙ぎ払い、最速で奴に近づいてく。
幸い、動物の生産に夢中なおかげで精霊はその姿を露わにしている。
このまま斬撃を飛ばそうと振りかぶるが。
「キシャギアファ!」
「ッ!?」
突然、こちらに向けてきた手のひらから、大量の虫が勢いよく発射された。
「ッツ」
銃弾のごとく打ち出された虫に、自律的な動きは見られない。
おそらく、動物より構造をシンプルにすることで生産時間を短縮したのだろう。
だが、この攻撃は精霊に余裕がない証拠だ。
俄然スピードを上げて、向かってくる魔力動物を蹴散らしながら遮蔽物を探す。
「そろそろチェックメイトといかせてもらおう」
木々を盾にしながら、虫のマシンガンを避けてジグザグに近づく。
そして。
「取りあえずは一撃だ!」
剣に魔力を纏わせ、ついに精霊を斬りつけた。
「ギャアァァアアア!」
甲高い声をあげ、悲鳴を上げる精霊。
「凄い声だな……いやッ!?違うこれは」
突如、背後に大量の気配を感じ振り返ると、スピカに集まっていた魔力動物も全て俺に群がってきたのだ。
「この量は流石に無理……!」
さらに、精霊が木の根に潜っていく。行き先は……。
「スピカ!精霊がそっちに行ったぞ!!!」
「え?」
視界が魔力動物で埋まりそうな中、驚愕したスピカの顔がはっきりと映った。
セオドアが単騎精霊へ駆け出していく様子を、スピカも横目で確認していた。
「セオドアさん……ッ!私、頑張りますッ!」
スピカにとって、魔力動物を任せてもらえたことはセオドアからの信頼の現れであり、スピカは溢れ出るやる気を力に変えていた。
左右から向かってくる兎を蹴り飛ばし、正面の猿を切り伏せる。
何度も死角から攻撃してくる狐の扱いにも慣れてきた。
「これも全部セオドアさんのおかげです」
セオドアの動きをじっくり観察したことで、明らかに戦いやすくなっていることが自分でも分かった。
魔力の残量が心許ないことだけ気がかりであるが、きっとセオドアが精霊を追い詰めているはず、そう思った矢先のことである。
「――え?動物が」
突然、自分に仕掛けてきた動物が矛先を変え、一目散に精霊の下へ戻っていく。
いや、それだけではない。
全ての魔力動物が一斉に駆け出して行くではないか!
「どういうこと……?」
呆けるのも一瞬、すぐにセオドアを思い出し慌てて追いかけていく。
「スピカ!精霊が
「え?」
今しがた、魔力動物のことをセオドアに報告しようとした寸前である。
逆に、何かの到来を知らされるとは思わず、魔力動物のことを伝えそびれる。
直後。
木の根から精霊が飛び出してきた。
「ッ!」
身体を仰け反ることで精霊の回し蹴りを何とか避ける。
静謐な
この相手は、かつて自身が負けた相手。
剣を構えたスピカは、既にセオドアを気に掛ける程の余裕がなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます