第8話 恥べる自分

そして、夜の8時過ぎ。


「ピノ、お風呂入ってきていいよ」


壱がそういうとピノの表情が固まる。


「ん?どうした?」


壱が、そう言って首を傾げると。


「するの?」


ピノが、震えながらそう言った。


「なにを……?」


壱は、なんのことかわからなかった。


「えっちなこと」


すると壱は、戸惑う。


「いや、しないよ。

 ってか、どうしてそう思うの?」


「前のご主人さまは、えっちなことをするまえにお風呂に入れてくれてたから……」


「そっか。

 大丈夫、そんなことはしないよ」


壱が、そういうもののピノの表情が暗い。

壱は、前のご主人さまという単語に何かを感じたが深くは考えないようにした。

考えれば考えるほど悪いことを考える。

そう思ったから。


「ホントにホント?

 壱、ピノにえっちなことしないの?」


「……大丈夫」


「ピノお風呂に入ってくる」


ピノは、そう言ってリビングを出た。

そして、数秒後再びリビングに戻ってくる。


「ん?ピノどうしたの?」


「壱、お風呂どこ?」


ピノが涙目でそう言った。


「そうだったね。

 お風呂場に案内するよ」


壱は、そう言って苦笑いを浮かべた。


「……ごめんなさい」


ピノが謝った。


「ん?どうして?」


「ピノ、壱に迷惑ばかりかけてる」


「そんなことないよ」


「ホントに?」


「うん」


壱は、ピノの頭をポンポンと優しく撫でた。

そして、ピノをお風呂に案内したあと壱はリビングに戻った。


「ふぅ……

 どうしようかな」


壱は、いろんなことを考えた。

童貞を捨てるため購入したマーメイド。

新品のはずだった。

でも、梨麻の言うように中古のようだった。

ピノの体にできた痣。

それは、今までどれだけつらい思いをしてきたかわかった。

そして、色々考えている間にピノがお風呂から出た。


「あがったよ」


ピノが、不安そうにそう言った。


「じゃ、お風呂に行ってくるね」


「うん」


ピノの表情は不安そのものだった。

まだ壱のことを信用しきれていない。

そんな感じだった。

壱は、思った。

それが生き物と言うものなのだと。

頭のなかでは、わかっていた。

マーメイドもひとつの命で、ピノもひとりの女の子なんだと。

童貞を捨てるためのそのあとの性行為だけの生物と思っていた自分を恥じた。

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