第5話 卒業は延期

「はい、なので交換をお願いしたいのですが……」


「わかりました。

 無償で処分いたしますね」


淡々とした口調でオペレーターが、そう言うと壱に緊張感が走る。


「処分……ですか?」


「はい。

 お客さまのおっしゃる通りに幼いマーメイドですと引き取り手が限られてきますので……

 殺処分になると思います」


壱は、思った。


  この人わざとこういうことを言っている。

  こう言って人の心を揺るがそうとしているんだ……

  殺処分は可哀想だけど……


壱は、静かにマーメイドの方を見る。

すると全裸で髪の毛を指に絡ませせて遊んでいる少女がいた。


  どっからどう見ても女の子だ。

  殺処分はやっぱり可哀想だ。


「わかり……ました。

 こちらで、引き取ります」


「そうですか、ありがとうございました。

 では、我が社の製品マーメイドを末永くかわいがってあげてください。

 失礼します」


そして、電話が切れた。


  幼いからっていう理由で、殺処分はかわいそうすぎる。

  そう、これが正解なんだ。


壱は、混乱した頭を整理しようといろいろ考えたが答えは見つからない。


「私は、ピノ!

 ねぇ、貴方の名前はなに?」


しかし、考えても仕方がない。

そう思った壱は、タンスから自分のトレーナーを出すと優しく答えた。


「僕の名前は、斎藤 壱。

 君の名前は、ピノだね?」


「壱?」


「そう、壱だよ」


「えへへー

 ピノの新しいご主人さまー」


ピノは嬉しそうに笑うと壱から渡されたトレーナーに袖を通す。

そして、壱の体をぎゅっと抱きしめる。


「あ……」


壱は、ピノの温もりを肌に感じた。

そして、思った。


  そっか、マーメイドも生きている。

  心だってある。

  だから、大事にしなくちゃいけない。

  童貞は、卒業できないけどピノを殺処分にしなくてよかった。


すると壱のスマートフォンが、静かに震える。

着信を見ると[船橋 梨麻]と表示されていた。

壱の経営する会社の社員のひとりだ。

壱と梨麻は、仲がよく交友関係は深かった。


「はい、斎藤です」


「あ、壱さん?

 マーメイドの具合は、どうっすか?」


壱は、愚痴を吐くかのごとく梨麻に全てを吐いた。

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