第12話 ブリードは2度目の敗北をする

わたくしは馬車に乗せられましたが、まだ出発をしません。

逃げるのならば、早く行けばいいのに何をしているのでしょう。


「団長、人質もいますからさっさと逃げましょうよ」

「黙れ!俺はまだブリードをやってないんだよ!」

「お気持ちはわかりますが、公爵令嬢を人質にしたのですよ。

これで帝国を脅せますよ」

「帝国なんて、後でもいくらで脅せる。ただ、ブリードは今すぐ消さないと気が済まん!」


デリーではわたくしや帝国より、ブリードの方を重要視しているようです。


「何でそんなにブリードにこだわるのです」

「俺の顔と身体に傷を負わせたのはあいつが初めてだからな。それに……」

「それになんです?」

「いや、なんでもない。とにかく、もう少し待て」

「団長がそう言うなら、待ちますよ」


デリーがブリードにこだわるのは、1年前の事を恨んでいるようですね。

目隠しをされる前に見たデリーの顔には、複数の剣で斬られたきずあとが残っていました。


 そして、腕を上げ袖がずれた時に見えた腕にも、同じ跡がありました。

1年前にブリードとデリーは、お互い大怪我を負ったと聞いていますが

ブリードは生命の加護の力で跡が全くないのに対し、デリーは見える部分だけでも

跡ばかりです。

なので、デリーもブリードの生命の加護がある事に感づいていそうです。


「団長、ブリードが乗った馬がこちらに来ます!」


見張りの盗賊がそう言うと、デリーは


「やはりブリードが来たか、待っていて正解だ」


とデリーは嬉しそうに言います。


「いいかおまえら、これは1年前の俺の仕返しだ、何があってもお前たちは手を出すな」

「団長がそうおっしゃるなら、わかりました」

「ただ、10分経ったらずらかるぞ。あまり時間をかけても、警官共が援護に来るはずだからな。

ああはいったが、捕まったら人質をとった意味がない」

「わかりました」

「あと、俺がもしブリードに負けた時は……女を連れてさっさとアジトに行けよ」

「そんな事はないと思いますが、承知しました」

「それじゃ、俺はちょっくらブリードと遊んで来る」


デリーはそう言って、馬車から降りたのでした。


――――――――――――――?


ブリード様に後ろにつかまり、馬に乗ってきましたが馬が走るのを止めました。


「止まりましたね」

「そうですね。そして、かすかに声がしますね」

「加護を使わなくてもわかりますが盗賊団ですね。まだ逃げてなかったようです」

「そのようですね。もうとっくに逃げたかと思いましたが」

「もしかして、この馬はここに案内したかったのではないのでしょうか」


わたしが言うと馬は頷くように首を上下させました。


「どうやら、そのようですね。しかし、逃げるのならすぐ逃げれば良いものの」


確かに、エルマ様を人質に取りましたら、街から助けが来る前に逃げた方が得策です。

でも、それでも逃げないのは何かあるのでしょうか。


「理由はわかりませんが、エルマ様を助けるチャンスです」

「ですが、こちらはアストリアのライフルしかりませんよ」

「ライフルで狙撃をすればいいのです」

「ですが、向こうも見張りをたて、こちらに気づいているはずです」

「その時はその時です。ひとまず、馬から降りて木の上にでも隠れています」

「気をつけて下さいね」

「わかりました」


わたしは恐る恐るそっと馬から降りると、身をひそめるのに良い木に登り隠れます。

もしかしたら、既に見つかっているのかもしれませが、その時はその時です。

木に登ると、馬車と馬に乗った盗賊が7人みえましたが……同時にこちらへ向かって来るデリーの姿があります。

そして、デリーはブリード様の前で止まりました。


「よう、ブリード、もう元気になったか」

「ええ、お陰様で、回復の速さは人一倍のようです」

「まったく、羨ましいよ。1年前の傷も全く残っていないしな」

「そうですね」

「普通は、俺のようにこんだけ傷が残るが、お前の憎たらしいほど綺麗な顔には

跡1つありゃしねえ」


デリーは腕をめくり、傷を見せます。


「おや、珍しく褒めてくださるのですね」

「ま、悔しいがお前の顔を男から見ても綺麗な顔だ。だから公爵様から嫁さんをもらったんだろう」

「公爵様より、貰い手が無いので貰って欲しいと懇願されましたので」

「ほう、そうか。あの公爵様がね」

「こんな田舎の伯爵家に頼むほどなので、相当醜い方なのかと思いましたが

とても綺麗な令嬢でしたので、正直いいますと驚きました。

ただ、先ほど見た通りかなりのじゃじゃ馬……いえ狂犬でしたが」

「ああ、あれには俺も驚いたぜ」


ブリード様とデリーは笑い合いますが、通称が帝都の狂犬ですからね。


「さて話は終わりだ。俺は1年前の借りを返しに来たが……きっと、今度も結果は同じだろう」

「なんですか、執念深いと思ってましたが、諦めるのですね」

「いや、諦めはしないが、生命の加護を持つ奴が、寿命まで死なないか試しみたくなったんだよ」


デリーはそう言って剣を抜きますが、デリーもブリード様の加護に気づいていたようです。

そして、ブリード様は何もいません。


「1年前、お前の憎らしい綺麗な顔にあんだけ傷をつけたのに、綺麗なままなのは

普通の癒しの加護じゃねえのは確かだ。

いくら癒しの加護でも、何針も縫うような深い傷を全身に負えば、傷はいえても跡は残る。

しかし、残らないのは……生命の加護しかないからな」


ブリード様はやはり何も言いません。


「あと、俺は丸腰の相手と戦うつもりはねえ。ほら、剣を貸すからから受け取れ」


デリーは持っていたもう1本の剣を投げますと、ブリード様は剣を手にします。


「挑まれたからには、お相手をします」

「流石、軍人で貴族だな。あと、チビ女、男同士の戦いの邪魔をする無粋な事はするなよ。

それから、部下たちも狙撃するな」


デリーはわたしに向かってそう言いますが、やはり気づいていましたか。

なので、わたしはライフルを構えるのやめて袋に収めました。

そして、木の上から戦いの様子を見ます。


「勝負だブリード!」

「今回は勝ちますから!」

「剣の腕は俺の方が上だけどな!」


ブリード様とデリーが剣で戦っていますが、お互い五分の戦いです。

わたしはしばらく木の上で見ていましたが、再びライフルを出して構えます。

もちろん、2人の邪魔はしません。

わたしが狙うのは……馬車の周りに居る盗賊たちです。

距離は……300~400mほど。

この距離ならば通常の弾でも命中させる事が出来ますが、発砲音がします。


 なので、ここは加護の力を使います。

加護の力を弾の代わりに出来ますが、撃っても発砲音はしません。

ただ、光がでるのでどのみちバレますが、だとしても2人の戦いの邪魔はしてません。

部下たちも撃つなと言われはいますが、賊との約束なんて関係ありません。

それに、このチャンスを逃す訳にはいきません。


「馬車の周りには7人……エルマ様は馬車の中ですね。

6人の位置は問題ありませんが……1人は馬車の陰になっていますね」


加護の力は貫通しますので、1発で複数人を仕留められます。

仕留めると言っても、弾と違い命を奪うのでなく一時的に気を失うだけです。

体力を考えますと……2.3度しか使えないですね。

万全の状態ならばもっと使えますが、自力で移動できる余力を残して2度ですね。

リスクを考えなければ3度は使えますが、リスクを考えます。


「6人を仕留めても……1人が馬車で逃げたら……意味がないですね……」


わたしはライフルを1度構えましたが、7人とも仕留めない意味がないと気づき

ライフルを構えるのをやめますが、再び撃てるように準備をしておきます。


(せめて……ブリード様が勝ってください)


わたしはそう心の中で祈るのでした。


 ブリード様とデリーの戦いは決着がやはり五分で決着がつきません。

しかし、馬車の周りに居た盗賊たちが、動き出しましたが

それと同時にデリーもブリード様に押されだしました


「どうしました、疲れたのですか?」

「お前と違い、ずっと俺は戦ってたからな」

「わたしも頭を殴られて、気を失いかけましたよ」

「その割に、元気だな!」

「結婚相手を取り戻すためですから!」


ブリード様の猛攻で、デリーは防戦一方です。

ただ、その割になにか余裕がありますが……まさか。

わたしは馬車の方を確かめますと……3人の盗賊が戦っている2人の方へ向かっています。


手出しをするなと言いながら、部下には手を出させるようです。

なので、わたしもライフルを構います。


盗賊たちは3人縦に並んでいますが……これならば加護の力で撃ち抜けます。

ただ、その前にデリーの様子を見ますが、ちらちらと後ろを気にしています。

どうやら、事前に打ち合わせしてたのでしょ。

様子から……一定時間が経ったら手出しをするか、逃げる算段ですかね。

盗賊ですから、これぐらいの準備はしててもおかしくありませんが、これはわたしからしても好機。


 わたしはライフルを構え、狙いを定めますと加護の力を媒体にする

石が組み込まれており、加護の力を弾にします。

石の色が赤くなり、加護の力が貯まりましたので狙いを定めて引き金トリガーを引きます。


 引き金を引くと、ライフルからは閃光が発せられます。

そして、その閃光は盗賊たちへ向かっていき、盗賊たちに命中し3人を貫き、貫かれた3人は地面に倒れます。

残りの部下たちを加護の力と通常の弾で撃ちました。

そして、ブリード様とデリーも、ライフルから発せられた閃光に驚き、動きが止まります。


「ブリード様!今です!」


わたしが叫とブリード様はデリーの足元を払い、デリーが倒れると持っていた剣が手から離れました。


「勝負ありです」


ブリード様はデリーを蹴り倒して押さえ込むと、喉元に剣を突き付けます。


「参った、俺の負けだ」


この体勢ではデリーもどうする事も出来ず、負けを認めますがブリード様は油断しません。


「もう、騙されませんよ」

「流石に、この体勢ではどうする事も出来ない」

「盗賊団の団長の言う事を信用しません」

「ま、まさか、ここでやるのか?」

「領主ですから、そんな事をしません。ちゃんと、法で裁てもらいます」

「わかったよ、大人しくする……だが、そろそろ奴が来る頃かな」

「何を言っているのですか?」


デリーは奴が来る頃と言っていますが、デリーは部下たちはわたしが全員たお……いえ、倒していません!

先程撃ち抜いたのは合計6人で、特徴的な黒髪の男の姿がありません!


「ブリード様、黒髪の男が居ません!」


わたしが叫ぶと、ブリード様も警戒をします。

そして、わたしも加護の力で探しますが……力がでません。


(ち、力を使い過ぎました……)


わたしは慌てますが、目も良い方ですが流石に見て探すのは厳しいです。

しかし、周りを見渡しても見つかりません。

ブリード様も周りを見渡していますが、黒髪の男の姿がありません。


「あと1人は一体どこだ!」


ブリード様は焦りますが、突然、ブリード様は地面に倒れ込みました。


「サノスケ、遅いぞ」

「団長こそ、芝居をしてないで自分で抜け出せたでしょ」

「お前に手柄をやるためだよ」

「それはありがとうございます。では、行きましょう」

「そうだな。ブリード、お前は今日は2回も負けた上に嫁さんも取られたが、これじゃ嫁さんを取り戻せないぜ」


デリーはそう言ってあざ笑うと、黒髪の男と馬車に戻ります。

わたしもライフルを構えますが、加護の力を使いすぎて集中できないので撃つのは諦めました。

そして、デリーと黒髪の男は馬車乗ると、この場を去りました。


「エルマ様……」


わたしはつぶやきますが、木から降りてブリード様の元へ向かうのでした。

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