031:失敗

 数分、数時間だっただろうか。意識を戻した時には、目の前のローテーブルにご飯の乗った皿が置いてあった。

 周りを見渡せば、部屋には誰もいない。皿の上には、トマトとレタスがトーストされたパンにサンドされたサンドウィッチが二切れ。それから、赤茶色の飲み物が一つ。飲み物はほぼ無臭で、何の飲み物かは分からないが、毒ではないと思い一口口をつける。

 そのタイミングで、ドアがスライドする音が聞こえた。


「お、起きたか」


 その声に振り向けば、オスクさんとマイエルさんが二人で部屋に入ってきたところだった。

 二人に挨拶しようと、口に含んでいた分の飲み物を飲み込むと、オスクさんが驚いたような顔でこちらを見ていた。


「テオ、それ……」

「なんですか? これ美味しいですね、」


 もう一杯、ともう一口飲もうとすると、オスクさんに急いで止められる。何か悪いものだったのだろうか。


「それ、酒だよ」


 さけ、サケ……酒?


「え、お酒ですか? これが?」


 酔った感じもしないし、あたまが回らないという感じもしない。……が、これは困った。なぜなら――。


「……パイロットの規則として、『飲んだ場合。原則、十二時間以上あけてから、操縦すること』」


 規則を復唱して、気が付く。依頼の時間に間に合わないか、そう顔を青くしていると、オスクさんから救いの言葉が差し伸べられた。


「まー、今が午後三時でよかったよ、十二時間後は午前三時だ」


 まあ、今日はこれ以上飲まないことだな。そう釘は刺されたが、さすがに手を付けてしまった以上、飲み干さないのももったいない。

 赤茶色の飲み物――カシスウーロンと言う名のカクテルを飲んで、サンドウィッチに手を伸ばす。


「ところで、オスクさん」


 明日何時ごろに出るんですか。と聞くと、オスクさんは嫌そうに答える。


「明日は午前五時にここを発つ予定。明日も機体すっ飛ばすことになるから、今日はもう寝ておけ」


 嫌そうなのは、単純に朝が早いからか。……しかし、オスクさんは朝早いのは苦手だっただろうか。

 疑問が残りつつも、最後一口を食べ終わるとオスクさんに連れられたのは部屋のベッド。背中を押され、ベッドにダイブさせられる。


「よし、じゃあおやすみ」


 そう言って、マイエルさんと二人、部屋を出て行ってしまった。


「なんなんだ、もう……」


 お腹がいっぱいになった後で、頭が働かない。

 素直に再び目を閉じて時間が過ぎるのを待つことにした。

 次に目を覚ますと、手元の端末の時計は午前三時半。十二時間ほど眠っていたことに驚き、慌てて体を起こす。寝息が聞こえて、再度驚き音の方を見てみると、オスクさんが寝ていた。寝ているのも、隣にいるのも問題はないが……。

 ――まあいいか、ここは本人の部屋だから。

 ゆっくりと体をベッドから離し、パイロットスーツに着替える。少し寒いが、動けば暖かくなるだろう。そう思って、艦内を歩くためにドアを開ける。すると、ちょうどドアを開けようとしていたマイエルさんが驚いた表情でこちらを見ていた。


「おはようございます、お出かけですか?」

「あ、いやちょっと散策に……」


 そう言うと、マイエルさんは顔を一段と明るくしたように見えた。


「では、このレオンが案内いたしましょうか」


 この空母に来たはいいが、昨日は何もしなかった。艦内の地図なんて頭に入っていない僕にとって、願ってもいない提案だが……。


「何か用があったのではないですか……?」


 マイエルさんの手元にある、大量の端末を見てそう問いかけると、「では少しだけ失礼しますね、」と言って部屋の中に上がる。

 何をするのだろう、と思って眺めていると、ローテーブルにその大量の端末を置き、こちらへと戻ってきた。


「これでこちらの仕事も完了です。行きましょうか」

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