六十五発目「焼け野原の後で」
―ギルア視点―
こりゃ駄目だ。
逃げる場所がねぇ……
夜空から降り注ぐ無数の閃光。
どこへ逃げても、俺は焼かれる。
しくじった、油断してばっかりだったなぁ、俺ぁ……
早めに
?
隙を見て、フィリアも【
まずそもそも正面から戦わず、寝込みを連れ去るべきだったかもしれないな……
なんてな。いまさら過去を悔やんでも仕方がねぇ。
よくやったよ。お前らは……
俺の完敗だ…
無数の閃光が、俺を焼くために、大地へと降り注いでくる。
「あぁ、綺麗だなぁ……羨ましい……」
これが……世界最高のスキルか……
白い光が身体を焼いていく。
所持スキル、【
お前は、運命から逃げることなんて出来ない。
今日をやり過ごしても、また明日。
マナ騎士団の手から逃れることは出来ない……
それは、この世界の理であり、運命なのだから。
「…………せいぜい、この夜くらいは楽しむことだなァ……」
俺は、そんなセリフを言い残し。
そのまま意識を刈り取られた。
―
「はぁ……はぁ……」
ギルアの生命の気配が消えた。
死んだ、殺した、私が……
冷たくてドロドロした重い実感が、私の心を蝕んだ。
そして私は、おそるおそる生命の気配を探した。
生きているのは、
そして……
「
「フィリアちゃん!
声を張り裂けんばかりに叫んだ。
そして、振り返ると。
「……あぁ、知ってるよ……」
フィリアちゃんが、血まみれの
「……なぁ、お願いだ。
フィリアちゃんは、弱々しい声で
回復魔法をかけながら、傷口を塞ぎながら……
「まだオレ……ちゃんとさよならが言えてないんだ……
頼む。
っっ!
私は二人に駆けつけた。
そして、
「【
ありったけの回復魔法を、誠也さんに注ぎ込んだ。
「
フィリアちゃんが呼んでますよっ!! 目を開けてくださいっ!!」
そんな願いが通じたのだろうか?
「…………」
「…………っ!!」
「せいやっ!!」
―???視点―
「
「ねぇっ、セイヤ。知ってる? 愛し合っている二人は、ハダカで抱き合ってキスをするんだよ?」
「恥ずかしい所も、好き同士だから見せられるんだよ」
「好きだよ……せいや……」
「
「私も
「お願い
――懐かしい声がする――
「おい
「
「昨日は獣族を10人捕まえたんだって? すげぇなお前」
「
「そういうことで、すいません
「
「ぜんぜん、こわくないですよ…。だいすきな人と一緒に逝いけるなんて、しあわせじゃないですか……」
「……へんじをきくまで……てをはなしませんから……」
「よかった……」
――あぁ、これが走馬灯か……
「落ち着け
「オレの名はフィリア。獣族独立自治区のアルム村で育った。医者だ。
世界一の名医、
「オレは夢を見てるんだ。 ……人間と獣族が仲良くなって、同じ街で分け隔てなく、幸せに暮らす夢だ」
――そうだな、フィリア。
――君の夢はどこまでも素敵で、私はその手伝いをしたかったんだ。
――それが私が犯してきた罪に対する、贖罪だと思ったから……
「……せいやっ………せいやぁぁ………!! 怖かったよぉぉ!!」
「動物のアイツと、獣族のオレが、友だちになれたんだぜ……
人間と獣族が、仲良くなれないわけないよな、なぁっ……」
「オレは
あの時、
オレはな、
……お前のことが、異性として、だ、大好きだ」
――いや、違うな。そんな大層な理由じゃなくて、
――私はただ、フィリアのことが、どうしようもなく好きだったんだ。
「これからもずっと、オレは、
「だから
獣族と人間が仲良く笑い会える世界。誠也せいやとオレなら叶えられると思うんだ。
それだけじゃないっ、
結婚して、子供をいっぱい作ってっ!
おじいちゃんおばあちゃんになって死ぬまで、オレは誠也と添い遂げたいっ!」
――あぁ、ごめん……ごめんなぁフィリア。
――約束、守れそうにないや……
「
「なぁ
「ごめんな
「
「……オレ、いま、すっごく幸せだ…… 夢みたいだよ……
ふふ、ねぇ
……いつもありがとう。
……これからも、よろしくおねがいします、ね?」
……………
………
……
「…………ぁ……」
目が、覚めた。
目の前には、フィリアがいた。
ケモ耳の可愛らしい女の子。
私が長い間嫌っていた筈の、獣族の女の子だ。
「……
フィリアがボロボロと泣きながら、私の身体を覗き込んでくる。
「……ギルアは……」
私はかろうじて声をだした。
「ギルアは、
なぁ、
オレの医学じゃ……お前の命をっ……助けられないみたいだっ……」
フィリアは、薬瓶を握りながら、悲痛そうに叫んだ。
「そうか……」
私は死ぬのか……
「
オレを、マグダーラ山脈に連れて行ってくれてありがとう……
あとは、オレがなんとかするからっ!
父さんと、
獣族と人間が共存できる社会を作るからっ!
だから……だから
フィリアは嗚咽して、言葉を詰まらせた。
「だから、
フィリアは強がった笑顔で、それでも精一杯の笑顔で、私に笑いかけた。
「あぁ……約束、するっ……」
私がそう答えると、フィリアは私の手を、強く握りしめた。
「おやすみ……
オレのために戦ってくれてありがとう。
そして、お疲れ様……
……よく頑張ったな……」
フィリアは優しい声で囁きながら、私の背中を撫でてくれた。
よく、頑張ったな、か。
その言葉が、私の心を優しく包みこんでくれた。
そんな言葉をかけてもらったことなんて、生まれてから今まで一度も無かった。
そうだ……私は頑張ってきた。
愛する女の子のために、愛する国を守るために、愛する仲間を守るために……
しかし、大切なものはどんどんと死んでいった。
ただ戦い続けて、本当に守りたいものは何一つ守れなかった人生。
でも、それでも……
一つだけ、私が守れたものがある。
それは、目の前にいるフィリアの命。
「……ふっ……」
思わず、乾いた笑みがこぼれた。
私は今までの人生、この瞬間のために生きてきたのかもしれない。
愛する人を守るために命がけで戦い。愛する人の胸の中で静かに息絶える。
それは、最悪で最高なエンディングじゃないか。
戦士としての本望。最高にカッコいい人生じゃないか。
軍人として若かった頃はよく、最後の瞬間を想像して、遺言を考える夜があった。
仲間たちと話し合うこともあった。
私自身、王国軍での20年間、多くの遺言を聞き届けてきた。
その遺言のほとんどは、妻や両親、子供に向けての言葉だった。
私には、遺言を残す家族なんて居なかったから。
彼らを羨ましいだなんて思ったりもした。
私は、精一杯口を開けた。
「……フィリア……愛してる……」
震える唇で、言葉を……
「あぁ、オレもだ、
そう言ってフィリアは、私に近づき。
私の唇に、キスをした。
ちゅっ……
もう、視界は真っ暗だ。
長くて、甘くて、どこまでも続くようなキス。
とく、とく、とく、と、フィリアの心臓の音。
そして、ゆっくりと、いつまでも……
どこまでも一緒に……
―フィリア視点―
唇を離した。
そして、口まわりを軽く水魔法でゆすぐ。
いちおうあらかじめ、
マルハブシの猛毒が経口感染しないためにな。
「はぁ……」
逝ったな……
見下ろせば、幸せそうに眠りについた、
「……おやすみ、
その頭を、優しく撫でる。
まだ、温かいな……
「………っつ……ぇぐっ……」
あぁ、だめだ、
「……うぅぅ、うぐっ……」
涙が溢れてきて、止められねぇよ。
「うわぁああああああああっ!!! あぁああああぁああっ!!」
オレは、ちゃんと笑顔で送り出せただろうか?
伝えるべきことは、きちんと伝えられただろうか??
「……うぐぅ……うえぇえええええぇんっ!!」
ぜんぶ、
でも……
「……嫌だよぉぉっ!
オレの弱音が爆発する。
こんな泣き言を、
我慢できてよかった。
こんあ言葉を聞かせても、
「……好きなのにぃぃっ! 大好きなのにぃぃっ!!!
なんでいなくなっちゃうんだよぉぉっ! ばかぁあぁあっ!!」
悲しみと絶望が止められない。
こんなこと、ほんとは言いたくないのに。
最低な自分に嫌気がさす。
「うあぁああああっ!! なんでなんでなんでっ! なんでぇぇぇっ!!!」
地面を叩き、引っかき、泥をぐちゃぐちゃにして暴れまわる。
そんなことをしても、
もう、
「…………一人ぼっちに、しないでよ…… やっと、見つけたのにっ…… オレの大切な人っ……」
自分の口から飛び出た言葉が、虚しく夜の森に響き渡る。
もう、山火事はほとんど鎮火していた。
「フィリアちゃん」
「………?」
「
この場所に、生命の気配が迫ってきてる。
たぶん、騒ぎに感づいた王国軍が、迫ってきてる……」
「そうか……」
たしかに、この山火事と爆音の戦闘……
王国軍に感づかれてもおかしくない。
「フィリアは、あそこの薬剤のバッグを2つ、運んでくれないか?」
こんどは
見ると
一方
「……つまり、
オレが尋ねると、二人は息を詰まらせた。
それはそうだ。考えなくても分かることだ。
オレ達はずっと、四人がかりで大きな荷物を運んできたんだから……
今は、もう三人しかいない。
しかも一人は片腕だ……
「……分かったよ。でも、少し待ってくれ……」
オレは、
「でも、もうすぐそこまで大人数が迫ってる。長居はできない……」
「うん……大丈夫、すぐ終わらせるから……」
オレは、
「【
炎魔法を詠唱する。
誠也の身体が、一気に炎に包まれて、燃え盛る。
あぁ……熱いな……
「大地に降り立ちて天命を全うせし者よ、"白菊ともか"の求めるままに、"神の世界"へと還り給たまえ」
オレは女神様に祈った。
どうか
という願いだ。
「
「さぁ……行こうぜ……」
オレはくるりと後ろを向いた。
そして、
「アルム村まで、もう少しだろ?」
★★★
オレ達は、森の中へと歩き出した。
背中には3人分の火煙を残して、
前に進んでいく。
後ろにはもう、戻れないのだから……
しばらく歩いてから、足を止めた。
「ここまでくれば、もう大丈夫かな」と
みんな、重い荷物でくたくたに疲れていた。
「ここで、ひと休みしよう……」
まだ、夜明けは遠かった。
森の奥で、岩陰に隠れながら寝袋を敷いて、
オレは、極度の疲れのままに、すぐに眠りに落ちた。
……………
………
……
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