イーアールツーオーアール

床豚毒頭召諮問

冒頭

イーアールツーオーアール


人はいつだって孤独だ。

そして、恐怖の中にいる。

この世で一番恐ろしいもの、それは不安だ。

それは、疑心を呼び、恐怖を抱かせる。

人間は壺だ。

産まれた時は空っぽだ。しかし、どんどん中に色んな物が入ってきて、いつか蓋が閉まらなくなる。

だが、それでも物が入ってくる。

そうして、入らなくなったものは壺の縁から落ちていく。壺のそこにあるものも、上にあるものの重みに耐えられず潰れ、原型を失っていく。

子供は汚される。この世のありとあらゆるものに、侵されていく。

大人は失っていく。手にしたあらゆるものを持ちきれず、落としていく。

人間は歪んでいる。

この世界は壊れている。

治る事は出来ない。治す事もしない。

割れた土台に積み木を落とす。落とす。落とす。落とす。落とす。落とす。落とす。

そうして、いつしか積み木の山が出来る。

その頂の玉座に腰掛けてるのは誰だ?

それとも、そんな奴いないのか?

まぁ、どうでも良いか。

そこに行く事は無いんだし。ねっ?

だって、嫌だろ?

いつ崩れるか分からない積み木の山を登るのは。

さて、最後さ。最後のショーだ。

何の?誰の?誰のための?

そりゃあ…まぁ…分かるだろ?

俺は巻頭の同化水内貴院(どうかすいだいきいん)。

しがない道化師さ。

今宵、お目にかかるのは………陰気で弱虫。臆病者。だらしの無い奴代表理事みてぇな餓鬼だ。ほんっと、星を見習え!連中の輝きにちったぁ、憧れやしねぇのかい?!おい!盆暗(ぼんくら)!

おっと!起こすなよ?シーッだ、シーッ。

うっわ……薄皮一枚めくりゃ…こりゃあすげぇ…どす黒いもんが蠢いてるぜ……。

対してこいつあ、立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花!!

耳に髪を掛けるその一挙手一投足その全て麗しく、口から出でしその言の葉の清らかな事!

箱入り娘か、天上から舞い降りた聖人か。

まさしく才媛、才色兼備!!

この世の穢れなど知る由も無い雲の上のお人なり!!

対にするのもおこがましい対極の極み!この二人の宿命、今交わる!!

苦しみ、悶え、我を活を求めん!

深き闇の中、明かりを探す。

燭台一つとは言わない!マッチ一本の光が恋しい!

神よ!仏よ!お地蔵様よ!誰でも良い!誰ぞ我の行く先を照らしたまえ!

…………聞こえたか?

聞こえた!聞こえた!音だ!何の音?!

羽ばたきの音だ!

見ろ!何処を?!足元だ!

羽だ!一枚の羽が落ちている!

暗い!!暗くて見れん!何色だ!

くそう!光無き者はこうも弱いと言うのか?!!

俺が何をした!!俺が!何をしたと言うんだ!

なぜ俺だけこうも苦しむ!!

誰だ!誰なんだ!俺を手のひらに乗せてる奴は!!

俺だけがなぜこうも苦悶に喘ぎ、痛みに晒され、身を斬られるより辛い日々を過ごさねばならない!!

なぜ俺はこの世に産まれた?!

苦しむためか!悶えるためか!飢えるためか!辛酸を嘗めるためか!

俺は……!俺は!俺はぁ!!何があっても、己がための道を行く!!

邪魔ものは全て消してやる!!

覚えておけ!俺がこの世にいる事を!

悔いるが良い!俺を産み出した事を!

己が足元すら見えぬ闇の深淵に叫び声は消えゆく。

膨らむ世界の隅の縁、誰もが忘れたもの達が、日々光無き眼で見つめる現し世。

底に堕ちればもう安心。

これ以上堕ちる心配は無い。

そうして、身一つ、こけた体になって呟く。

「我は何を為せたのか」

人の生は短い?長い?だがそこは問題じゃない。

何をするか、何を得るかが問題よ。

………あの二人、手のひらに何か残れば良いけど……。

それでは、ごゆっくり…………。

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