南方戦争20
最初からわかっちゃいたんだよ。
でもよォ?オレはあいつの戦闘は範囲スキルでワンパンするとこしか見たことねェんだよ。シズクが自分の試合終わったらさっさと帰っちまったからな。
だったらよ、ワンチャン勝てるんじゃねぇかって思わねぇか?ま、無理だったんだがな?
ああ
あの女どうなってんだ。神の種族に状態異常掛けるとか相当だぞ?おかげで若干動きが鈍ってきて結構辛れぇんだが。
最後にミロク。お前適当に殴っときゃ衝撃波で殺せるからって雑にやり過ぎなんだよ。そんなアホみてぇな腕の本数にするから制御が面倒なことになるんだ。
結局のところな、手前のデフォルトの4本を鍛えるのがいっちゃん強くなれるんだよ。雑に数増やすから勝てなくなるんだ。
さて、だ。シズク、すまねぇな。オレじゃ花畑は取れそうにねェわ。折角オレなら出来るって任せてくれてたのによォ。あーまじで面目ねぇわ。
だがまあ最後に一言。頑張れよ。お前なら出来る。って。これじゃ二言じゃねェか。
──────────────────────
ミロクの殴打の嵐の中、突如として雷神が動きを止めた。衝撃波が彼女を襲い、滅龗雷神が身代わりとなって姿を消す。
「、、、、、、で?、、、、ど、、、、、、、て?、、、、、、、、、こに、、、、、、ま、、、、、、、、?」
シズクはその場で固まった。自分を守ってくれる存在であったはずの二つ目の人格。それが負けたという記憶が脳内を支配していたからだ。
先程、雷神は自らが制御を外れる際、啓雷を使って自らにとある記憶を植え付けた。
『お前を守ってくれる人格は負けた。自分の力で戦わなければならない』
と。
啓雷によって植え付けられた記憶、それをシズクは受け入れてしまった。強烈な睡魔と幾多にも及ぶ回避への集中、それに伴う疲労感。それらがシズクに疑うという選択を排除させたのだ。
結果、
「わた、しが戦わなきゃ。私が。頑張って。戦って。勝って。自慢するんだ。一緒に遊ぶんだ。二人でピクニック。花の冠を作って、追いかけっこをして、お弁当分けっこして、美味しいねって笑いあって、それで、それで、それで、、、」
光を失った、ただ一点、友達と笑いあう未来だけを映した瞳を、ミロクへと向ける。
「だから、じゃましないで?」
火事場の馬鹿力とでもいうべきか。それとも窮鼠猫を噛むとでもいうべきか。極限状態となったシズクが、ミロクへと迫る。
(些か不味いな)
ミロクは内心ぼやいた。肌を見れば少々とはいえ冷や汗が伝っているのがわかる。
彼としては先程のまま押さえ込み、今頃急いで海を渡って居るであろうロロを待つ算段だった。
だが、
ザシュッ!!!
シズクの振るう幬雷覇天がミロクの頬を切り裂いた。
完封していたのが一転。今のミロクは窮地へと立たされていた。このままいけば間違いなく負ける程に。
「『心頭滅却すれば火もまた涼し』」
(他のプレイヤーには悪いが、致し方ない)
ミロクがスキルを発動し、一帯のありとあらゆるバフ、デバフが無効化される。今までかかっていたシズクのHP回復量上昇や、攻撃力上昇、リリリィの放っていた広域バフなども全てが。
当然、シズクの啓雷も消えた。だがしかし、植え付けられた記憶はすでに自分が戦わなきゃという思い込みにすり替わり、動きに支障をきたすことはなかった。
また、ミロクは己が一番消し去りたかった効果が未だ消えていないことに気づいた。
「雷神、聞くが、その衝撃波を無効化している
「早く斃れて。私の前から退いて。私はお花畑を取りに行くの。一緒に遊ぶの。だから消えて」
「っ!人格が代わろうと、会話を試みる気がないのは変わらないのか!!」
延々と友達とのピクニックに思いを馳せるシズクへと、そこは変わっていて欲しかったという思いを込めてミロクが叫ぶ。
「早く早く早く『神雷』」
幬雷覇天が纏う属性が変わり、ミロクに加わるダメージが上がる。
「くっ!!」
もともと、ミロクよりもシズクの方が圧倒的に速い。ミロクは衝撃波による広範囲攻撃で速度の差を埋めていた。
だが、あろうことかシズクは衝撃波など無いように振る舞っている。ノックバック効果が効いているのかはミロクには判断できなかったが、少なくともまるで痛痒を感じていないのは確かだった。
これによって前提が崩れる。ミロクの攻撃ではシズクにしてみれば
範囲が広く、威力が高い。それがミロクのスキルだ。だが、今のシズクを相手にして言えば範囲が広すぎ、速度は劣る。
バフを打ち消したのは良いものの、もともとシズクの攻撃力はかなり高い幬雷覇天を装備した状態では、ミロクの防御力を優に抜き去る火力を誇っていた。
「しまっ!!」
「『神命至令・絶鎗霧雷』」
ミロクが思考によりコンマ数秒意識を外した瞬間。そこを狙い定めたかのようにして、爆雷を纏った白く仄耀く幬雷覇天がミロクへと投げ放たれた。
ふぉぉぉぉぉ─────────ん
一本の腕でせき止め、残りの二本の腕で威力を殺す。ミロクが再びシズクへと視線を向けた先では──────
「これで、ピクニックに近づいた。ミョルニル、『雷鎚滅神』」
無機質な瞳のシズクが、今にも神具を振り下ろさんと頭上高くに掲げていた。
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