第5話 誤算:正論をぶちかまされる
「チチュが弱くなってる……」
そのことに気付いて、ユイトは青ざめた。
子供の頃に契約して以来、共に過ごしてきた彼女の相棒――チチュ。
逆行する前は、多彩な糸を創り操って、大型のエニグマでも難なく倒してしまうほどの実力を持つ奇石だった……が、その領域にたどり着くまでには並々ならぬ苦労があったのだ。
そもそもチチュは戦闘向きの奇石ではなかったので、一人で戦えるまで成長させるだけでも相当の努力が必要だ。
過去に戻ったことで、そんなこれまでの苦労が水の泡になってしまった。
それを知って、ユイトは
一方、ソウはあっけらかんと言う。
【そりゃ、そうだろう。当たり前だ】
「え?当たり前?」
【てめぇ自身だって若返っているんだから、お前の持つ奇石も同様。なんで、力をそのまま維持できると思ったンだよ?そっちの方が不自然だろ】
「せ、正論……」
がくりとユイトは
そうやって、自分の浅慮を恥じていると、祖母のシイナが不思議そうな顔をした。
「ユイト。
「えっ?」
パチパチとユイトは瞬きする。
「独り言って……私はソウと話していて」
「ソウというのはその左手の奇石の名前ですよね。彼と話すとは?チチュみたいに、奇石の気持ちが分かるのですか?」
「いや……ソウとは本当に言葉で会話が成立していて……って、お祖母ちゃん!ソウの声が聞こえないの?」
「ええ、全く。私には
てっきり、シイナにもソウの声が届いているものだと思っていたユイトは驚く。そこにボソリとソウが言った。
【婆さんだから耳が遠いンじゃねぇの?】
「今も、お祖母ちゃんのこと、『婆さんだから耳が遠いんじゃないか』ってソウが……痛い!!」
ユイトに再びゲンコツを降らせるシイナ。
「失礼な。私はまだそんな歳ではありません」
「私が言ったんじゃないのに……」
理不尽、そう思いながらユイトは殴られた頭を撫でた。
*
スーノ聖教会の奇石使い『
そして、その試験をパスする力が今のチチュとユイトにはなかった。
現在のチチュでは、基本的なものと粘着性の高いものの二種類の糸を創り、操ることしかできない。糸の耐久性についても多くは望めないだろう。
これではエニグマへの攻撃手段に乏しい、とユイトは顔を曇らせた。
「あの、ソウは?何か攻撃手段はある?」
【さぁね。どちらにせよ、俺様は手伝う気ねぇぞ。契約の恩ならすでに返した】
「うっ……それはそうだけれど。ちょっとくらい……」
【やだね。俺様を当てにするんじゃねぇ。何か分からねぇが、ソレは良くない気がする】
「それって、ソウが面倒くさいだけでは……?」
【あぁん?】
「……」
【……チッ。まぁ、どこにエニグマがいるかくらいは教えてやってもいいが】
「えっ!?そんなこと分かるの?」
【まぁな!それぐらいは朝飯前だ。前に魔晶石を喰っただろう。アレに近い気配を感じるぜ】
「本当?」
【ああ、山の方から臭いがプンプンしやがる】
自慢げに話すソウ。
それを聞いて、ユイトは思案気に顔を撫でた。
以前の世界線でその水準まで届いたのは、ユイトが15歳のときだった。今から二年後の話である。
しかし、そんな
早急に、ユイトはチチュを育てなければならなかった。
奇石を育てるには絶対に魔晶石が必要である。
ならば、ユイトがするべきことはただ一つ。
エニグマを狩って、狩って、狩り尽くす――そして魔晶石を手に入れるのだ。
幸い、ソウはエニグマの居場所が分かるという。もし、これが本当なら大きなアドバンテージのはず。
「急がなきゃ。イオ……」
そう呟くユイトの表情には鬼気迫るものがあった。
今度こそ絶対に君を救いたい。
そのために私は過去に戻ってきたのだから。
とにかく今は、行動あるのみだ。
決意を新たに、ユイトはチチュとソウに呼びかけた。
「さっそく、エニグマを狩に行こう」
*
ユイトの育ったここキネノ里は、自然豊かな土地である。
山の
のどかな風景が広がっているが、一歩山の方に足を踏み入れればエニグマに遭遇する危険性があった。
そんな山の中をユイトは
【いいぞ!そろそろ近い。右の方だ】
ソウの案内を頼りに森を進み、ユイトはとうとう標的を発見した。
そのシルエットは巨大な
ユイトの目がスッと細められる。
その顔からはあどけなさが消え、
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