書籍刊行記念SS 『草刈り』※書籍版キャラクター出演

※書籍版のみのエピソードに登場するキャラクターが出ます。注意!


※ミーチャ:獣人の少女。悪食の回転草グロスイーター・ウィードというタンブルウィード型のモンスターの群れを飼う草飼いの少女です。

※草飼いは羊飼いのようなものです。

悪食の回転草グロスイーター・ウィードは埃を食べます。




 獣人の少女、ミーチャとのお茶会からひと月後のこと。


 いつもよりも早い時間に、悪食の回転草グロスイーター・ウィードの群れを連れてミーチャがやって来た。


「あら? どうしたの?」


 集めておいた埃を外に掃き出しがてら外に出たカトリーヌが訊ねる。


「今日は天気も良いし、草刈りしようと思ってさ! カトリーヌお姉ちゃんは草刈り見たことないでしょ?」


「なるほど、いいかもな」


 カトリーヌに続いて城から出てきたフェリクス王子が納得したように頷いた。


「草刈り?」


 一人、会話の流れがつかめていないのはカトリーヌだ。

 草刈りというと、雑草刈りだろうか。それならば見たことが無いどころか、エリンの王城でしょっちゅうやっていた。庭師の手伝いに駆り出されていたのだ。


(ああ、お城の周りの草刈りをミーチャちゃんがするってことね!)


 勝手に納得したカトリーヌは、俄然張り切りだした。


「それなら私も手伝えるわ! どっちが早く刈れるか競争しましょう!」


「ちょとまてカトリーヌ。何か勘違いをしていないか?」


「あら、私草刈りは得意ですよ」


 王子がなにやら慌てて止めようとするが、カトリーヌは気にしない。

 するとカトリーヌのもとに、カサカサと音を立てて一匹の草が寄ってきた。


 なんだか最初に会って襲われた時よりも大きくなっている気がする。いや、確実に大きくなっている。前はカトリーヌの腰くらいの大きさだったはずだ。


「な、なに? 今日は服の埃は払ってきたはずだけど……」


 ずももも、という勢いで迫る草は胸ほどの高さにまで成長している。


「カトリーヌお姉ちゃん、草刈り出来るの? それならフェリ兄に審判をしてもらおうかな!」


 両手で草を押し返していたカトリーヌだが、ミーチャの提案にパッと顔を明るくして背後の王子へと顔を向ける。


「それがいいわ。フェリクス様、お願い出来ます?」


 キラキラとした目で二人に迫られて仕方なく頷いた王子だが、どうにも歯切れが悪い。

 なぜかしら、と思ったカトリーヌだったが、その理由はすぐに分かった。


「く、草刈りって羊の毛刈りみたいなことなの⁉」


「草飼いがする草刈りって言ったら一つしかないでしょ。勝手に伸びてくるから定期的に刈るんだよ」


 そう答えるミーチャとカトリーヌの前には、悪食の回転草たちが一列に並んでいた。右に左に揺れていて、ワクワクしているようにも見える。

 二人の手には剪定ばさみ。これで伸びすぎた草の先を刈って整えていくのだ。


「二回りくらい小さく刈ってね。あと、切り口からアルコールが出るからちゃんと容器に溜めてね! ハンデいる?」


「カ、カトリーヌ、本当に平気か? 怖くはないか? 僕も手伝おう」


「それじゃ勝負にならないじゃん!」


「しかしカトリーヌには無理だ!」


 自信満々のミーチャと、心配げなフェリクス王子。

 その二人の様子を見て、カトリーヌの闘争心に火がついた。


「ハンデも手助けもいりません! 負けないわよ、ミーチャちゃん!」


 びしり、とミーチャを指さして宣戦布告をしたカトリーヌ。

 その後どうなったかというと……。





「えい! やあ! えい! 動かないで! わあ切りすぎた! ごめんってもう! わーー舐めないでえええ!」


「カ、カトリーヌ! 僕が今助け……ッ! アルコールがかかった! こら! うねるんじゃない!」


「ふんふんふーん♪」


 大騒ぎの二人の声を背景に、悠々と草刈りを続けるミーチャの口笛が響く。


「草飼いの仕事って本当に大変だわ!」


「カトリーヌ! 君はたまに軽率すぎるぞ!」


 汗だくになりながら感心するカトリーヌに、アルコールを浴びて散々になったフェリクス王子が叫ぶのだった。

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