11話 王子とサージウス〜カトリーヌ到着時の一幕〜

 ※王子とサージウスの話になります。

 ※カトリーヌを部屋に送り届けてから、カトリーヌが目を覚ます前のやりとり。


 


 

 サージウスは、用意された部屋にカトリーヌを運び、ベッドに寝かせた。

 

 そこに、フェリクス王子が戻ってきた。


 カトリーヌの部屋の前に立つ王子は、苛立ちと焦りを隠せない様子だ。

 なにしろ息を切らせ、髪は乱れ、白のよろいには草がはりついている。

 片手には、言われた通りサージウスの兜を持っているあたり、真面目っぷりがうかがえる。

 

「ど、どういうつもりだ! 僕の花嫁だぞ!」

 

 そう言って部屋に入ろうとする王子を、サージウスは体でふさいで通せんぼする。

 

「あれ、早かったですね。フェリクス様の馬は繊細なんですから、あんまり無茶に走らせたらだめですよ。それに、花嫁の部屋にいきなり上がり込むのもよくないですね」

 

 どーも、と軽い調子で王子から受け取った兜をあるべき場所に乗せながら、サージウスが言った。


「お、お前はいいのか? カトリーヌ王女を抱えて、その、ベッドに運ぶなど……」


 赤面して言いよどむ王子に、サージウスは呆れて首を鳴らした。

 正確には、兜と鎧のつなぎ目をギシギシとさせた。


「その反応が答えですって。俺がベッドまでお運びするのと、王子が運ぶのと、意味が違うじゃないすか」


 サージウスはカトリーヌの眠るベッドを振り向いて見やりながら、「それに」と言葉を続ける。


「泥まみれで山歩きをしたあとに、無防備に失神したんですよ? そんな姿を、未来の夫に見せたい乙女が居ますか? 乙女心って言葉の意味分かります?」


 そもそも王女としては、山歩き中に王子と初対面などしたくなかっただろう。とサージウスは同情する。

 化粧も髪も直して、出来ればドレスも着替えて、完璧な状態で会いたいに決まっている。


 カトリーヌ王女の出迎えに王子が着いて来たいとごねた時にも、サージウスは止めようとした。しかし、王子は頑として聞き入れなかった。

 仕方なく、せめて騎士のふりをしてくれと頼んだのだった。


 まったく王子の鈍いのにも参ったものだ、と、サージウスはため息をついた。


 ため息を聞きつけた王子が、顔を上げる。


「忠告を聞かず、すまなかった。僕に乙女心というものと、ヒト族のご令嬢に対するときのマナーを教えてくれ」


 王子は大真面目だった。

 正面から頼まれてしまっては、サージウスに断る選択肢はない。


「分かりました。ただし、その白い鎧を脱いで、王妃陛下の満足する衣装に着替えて来るのが先です。王子、王妃に衣装合わせに呼ばれていたのを放って出迎えに行きましたよね?」


「う……! しかしそれでは、時間が足りなくないか? 母君はきっと張り切って派手な服を沢山出してくるぞ」


「王子の衣装を選ぶの、楽しみにしてましたしね〜。だからこそ、それを無視して勝手に出迎えに行ったなんて大目玉ですよ。迎えに行ったことはどうせバレますから、せいぜい着せ替え人形にとして点数稼いでおいて下さい」


「……分かった。王女が目を覚ましたら、アレをお渡ししてくれるか?」


 案外と素直に納得した王子は、サージウスの鎧の胸を叩いて言った。


「あー、アレっすね。もちろんです。ちゃんとお渡ししておきますよ」


 サージウスが兜の内側から質問状を出して見せる。

 王子は満足気にうなずいて、カトリーヌ王女の部屋から出て行った。

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