10話 王子とサージウス〜出迎え前の一幕〜

 ※王子とサージウスの話になります。

 ※カトリーヌを迎えに行く前のやりとり。


 


 時間は戻り、カトリーヌが魔王城の建つ峠の入口に差し掛かろうという頃のはなし。


 魔王城の天守てんしゅに位置する、王子の部屋でのこと。

 

 部屋には王子と首なし騎士サージウスが居た。

 サージウスはその脇に抱えたかぶとのバイザーの奥から、熊のように部屋を歩き回る王子を眺めている。

 

「ちょっとは落ち着きましょうよフェリクス王子」

 

 呆れを隠さずにサージウスが言った。

 

「しかしだな、サージウス。まもなく約束の刻限こくげんだぞ? 道中なにか有ったのではないか?」

 

「すっぽかされたんじゃないですか〜? もしくは逃げ出したか」

 

 サージウスが軽口で返す。ぐるぐると歩き続けていた王子の足が止まった。

 

「嫁いでくる王女は、お前が仕える相手にもなるんだぞ? 侮辱するような事を言うな」

 

「でもヒト族の、しかもあの性悪な王の娘ですよ〜? 俺らのことまとめて『魔族』なんて雑に呼びやがる、ヒト族の無知と高慢を煮詰めたような娘が来たらどうします?」

 

「父上も言っていただろう。偏見で目を曇らせるな」

 

「このとおり、俺には目ってやつがありませんけどね。そう、あいつらアンデッドもまとめて魔族って言うんだった。ねえ王子、俺と王子が同じ生き物だと思います?」

 

 サージウスがおどけた様子で兜を差し出して、バイザーを跳ね上げる。本来なら眼球がある場所だが、そこには二つの光だけがある。

 

「今はややこしい話をしている場合ではない。とにかく、父上の決めた婚姻。向こうは敵国に嫁ぐ身。誠意をもって迎えるんだ。僕なんかに嫁がされて憐れなご令嬢だ……」


「真面目なのはいいんすけどねえ。めっちゃ自己評価低いの、なんとかなんないんすか」

 

「うるさい、今はまず王女の受け入れへの心構えをだな……」

 

 王子がそう言いかけたときだ。

 

「ピーギュイ! ピーギュイ!」

 

 しわがれた、甲高い声が城に響いた。

 城と領地の守りを固める蜘蛛女――アラーニェの警戒音だ。


 彼女の探査糸は、城に通じる道に仕掛けられている。その糸に何かが触れたらしい。

 

「アラーニェが怒っていますね。馬車かな? 彼女、馬車が嫌いだから。追い払ったみたいですね」

 

「ふむ。馬車を追い払ったと。それはつまり……」

 

 そこで王子はサージウスを見た。

 

「きっと王女の乗った馬車だ! 追い返してどうする!」

 

「アラーニェに細かい注文なんか通りませんよ! アレ、本能で城守ってんですから!」

 

「とにかく、迎えにあがるんだ! 丁重にだぞ!」

 

 王子が手を振って指示を出す。

 

「はいはい、ヒト族の王女様ね。どんな嫌味で高飛車なご令嬢が来るやら……」

 

「いいか、『丁重に』お迎えしろよ」

 

 声を低くして王子が言うと、サージウスは慌てた様子で部屋を出ていった。

 走り去る足音を聞きながら、王子は再び部屋の中をうろつきはじめる。

 

「あのむさ苦しい騎士たちで大丈夫だろうか……。なにしろ筆頭はあのアマデウス将軍。サージウスもいい加減な奴だし。ああ、心配だ! やっぱり待て!」

 

 そう叫ぶと、王子は急ぎ足で部屋を出ていった。

 

 ――獰猛な魔王の息子にして、堕落を振りまく悪魔のような王子、とエリン国内で噂されるフェリクス王子。彼は自ら花嫁を迎えに馬を駆って出て行ったのだった。



☆ ☆ ☆


あとがきです。10話までお読みいただきありがとうございます!

幕間的なお話。カトリーヌを出迎える側の様子です。

こちらも、初めて迎えるヒト族の王女に右往左往ですね。

次から、数話、幕間が続きますm(_ _)m

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