416話 女神さまのおふろ
「……おねえさま」
「……何でしょう、リリー」
わたしたちは、立ち尽くしています。
「……女神さまは……ずいぶんと薄着なのですね」
「ええ……人の目も、無かったでしょうから……」
なんと女神さまは……白い布を体に巻き付けただけでした。
あとはそれを縛る金属の鎖や腕輪や脚輪程度。
「……美しいですね、おねえさま……」
「ええ……どの彫刻よりも、お美しいですね……」
おねえさまと私は、ただただ立ち尽くすだけ。
わたしたちも裸になっているというのに、もうそれは意識の外へ。
――いえ、この美しさと比べたら、服を着ているも同然ですから。
「おかあさまや世話役の方々と比べては申し訳ないのですが……」
「この方は女神です……最初から完璧なのでしょう……」
年齢は10から15歳の頃の女の子。
少しだけ女性らしさが出てきているも、まだまだわたしたちとおなじような子供らしさの残っている体つき。
「……殿方が、女性の体に見惚れる気持ちが、今、分かりました」
「あれには欲情というものが加わるそうですが……ええ。 パーティーで女性の胸や腰にくぎ付けになっていらした殿方も、もう責められませんね……」
ふと気がつくと、3人ともぼーっと見惚れています。
当然ですね……だって、生ける彫刻そのものですから。
じろじろと見てしまっているわたしたちのことを叱りもせず、気にも留めず――彼女は服をくるくると巻き上げると――王冠を外した場所へと思い切りよく投げつけられましたぁ!?
「お、おねえさまっ!」
「お、落ち着きなさいリリー! あれは……そうです! わたくしたちが動けなくなっているのを理解されて、あえて子供っぽいことをされることで緊張をほぐそうとしてくださっているのです!」
「なるほど……さすがおねえさま……!」
「神学は得意でしたから」
ふんす、と少しだけ得意げなおねえさま。
「……ふふっ」
――そんな顔、魔王軍が王都に迫り始めた数ヶ月前から、見ていませんでした。
◇
「……あたたかい……」
「ちょうど良い湯の温泉……ご案内できて良かったですね……」
「場所によって温度が違う様子で入りやすいですね……」
「ええ……つい長湯をしてしまいそう……」
「はぁー……」
「ぶくぶくぶく」
他の方も、とても気持ち良さそうに湯に浸かっています。
……女神さまへのご配慮か、アリスさまとアレクさまは少し離れたところでおふたり、お湯を静かにかけ合ったりされて。
「のーむ!」
キャシーさまが指差された水面。
そこには――女神さまをお人形さんにしたような小ささで、女神さまの美しい体をそのままに、髪と羽だけ黒にしたようなお姿のノームさま。
「……桶?」
「ドロップ品でありましたね。 アリス様かアレク様がご用意なさったのでしょう」
【♥】
こちらを見てからくるくると、まるで葉のように漂いながら女神さまの元へ――アルアさまへと流れていきます。
「あの大きさでしたら、美で圧倒されずにいられますね」
「そうですね」
そんなノームさまを見かけたアルアさま。
「――――――――」
【!?】
「あれは何でしょう?」
「きっと『良いお湯』だと話されているのでしょう。 そうだと嬉しいですね」
「あの記号……文字なのでしょうか。 せめてあれが分かれば、言葉が通じなくても……」
……ちゃぷん。
女神さまが、首までお湯に浸かっています。
「ふぃー……」
「くすっ……あ、し、失礼をっ」
「リリー」
まるで同い年くらいの子供のような反応に、つい笑ってしまい――不敬で叱られないかと思ってしまったわたしを、おねえさまが止めます。
「アルア様は先ほどから、わたくしたちを優しく見てくださっています。 ……きっと、子供相手にはあのように、まるで同じ子供として見てもらえるように。 そう、気遣ってくださっているのでしょう」
「そう……ですね。 女神さまならきっと、お召し物だってあんなに雑にまとめて投げたりなどしないでしょうし」
「ええ、動きは優雅なのに、ときとして急に子供のようなことをしてこちらを見てくださいますもの。 はるか神話の時代から生きていらっしゃる女神様です。 きっと、わざとなのです」
さすがはおねえさま。
目をつぶってお湯を楽しまれているアルアさまは、やっぱり本物の女神さまなのですね。
「ですからリリー。 敬意は払いつつも、払いすぎないように。 可能な範囲で6人目と7人目の仲間――友達のように、です。 それが彼女の望みであって、思いやりなのですよ」
「はい……おねえさま……!」
「さっきも――――――――――男子みたいなのよね……ま、よく『キャシーはもっと女の子らしくしなさい』って叱られてたあたしが言うのもなんだけど……」
「あら、キャシー様の言葉が」
「また通じるようになったのですね」
先ほどまで――恐らくはアリスさまたちとも言葉が通じなくなったご様子で暇そうにひとりごとをつぶやかれていたキャシー様の声が聞こえます。
「まぁ気のせいでしょうけど。 でも脚とか広げて座ってるし、やっぱり男子みたいな……異世界だし、そういうものなのかなぁ……」
ちゃぷん。
それぞれ思い思いに、かすかな鉱物の香りのするお湯で温まるわたしたち。
【♪】
表情は変わらない様子ですが、目をつぶってぷかぷかとお湯の中の桶の中で楽しまれているらしいノームさま。
……人々を、お父さまを、お母さまを見捨てて辿り着いた、ダンジョンの中。
こんな場所でも――同じような仲間と知り合って、その上に女神さまたちまで来てくださって。
とても不謹慎で申し訳ないのですが――わたしは、ちょっとだけ嬉しくて。
ですから「いずれ来たる未来で再会したときも、また同じようにお風呂に入って喜んでもらおう。 それに、後で聞いた話だと彼女の性別は」と――――――――――。
「?」
「リリー?」
「……なんでも、ありません」
ぷくぷく。
口元までお湯に浸かります。
……わたし、こんなときに寝ぼけるほど疲れていたのでしょうか。
ぼんやりしているときに限って、変な夢を見るだなんて。
◆◆◆
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