415話 女神様とおふろ
「良く分かんないけどさ、ギリシャとかローマっぽい神様だし、だったらお風呂とか好きなんじゃない?」
そんなことを思いついたのは私。
あれからアイテムを集めたり運んでもらったりした私たちは、女神様を私たちの家にしてる空間に案内する感じになった。
……ま、さっきから黒髪の2人とは話せないんだけど。
そこはそれ、3人対2人だから民主主義の原則に則って私たちの意見が尊重されるわよね。
2人も特に反対するでもなく着いてきてるし……まぁ何言ってんのか分かんないから当たり前だけど。
「なるほど……神話でもアルア様はことのほかに入浴と飲酒を好まれていたとあります」
「あ、あと、書物と午睡もお好きだと……
「ずいぶんと親近感湧く聖書ね……私のとこもそういうのだったらもっと読みやすかったんだけど……こっちよね?」
「ええ、そちらの先に湯があるはずです」
「昨日見つけたばっかりですから、まだ道が……」
「多分こっち! 私、こういうのは得意だもの!」
細長い道は、まるで人の手で作られたよう。
岩だけで構成されているのに整っているように見える曲がり角は、まるで神殿のよう。
「……ここって、本当にダンジョンなのね。 ゲームとかみたいな」
「私も聞きかじりですが、ダンジョンは地上の魔力を吸うために、地上にある建造物や物体を模した……」
ビビーさんは物知り……まぁお姫様だし。
完全にファンタジーな説明なのに、もうすでにそれが現実だって理解してる私にとってはスクールでの授業と同じ。
……いつまた言葉が通じなくなるか分からないんだし、少しでも知っとかなきゃ。
この子たちと――いつ離れちゃうかも分からないんだから。
◇
「わ、わっ!? いきなり!?」
「? キャシー様は入浴されないのですか?」
「い、いえ、する! するけど……」
……びっくりしたわ。
だって、女神様ったら……温泉に着くなり、いきなり脱ぎ始めたんだから。
あ、でも、肩だけ出して、先に髪飾りとか王冠を濡れないところに持って行くみたいね。
「……うー……この何日かで慣れてきたけど、やっぱり恥ずかしい……」
しゅるしゅると服を脱いでいくお姫様たち。
……2人とも真っ白な肌で、お人形さんみたい。
顔の作りも体の作りもなにもかもが私とは違うもの。
それに……同世代の女の子たちともお互いに裸になるなんて無かったから、たった数回で慣れるはずがないでしょ……!?
「――――……」
「――、――……」
一方の黒髪の子たちは……比べちゃうと悪いけど……うん、健康的。
そう、健康的よね。
色の濃い――褐色って言うんだっけ?――お肌って見たことなかったけど、何回か見てるうちにあれも綺麗だなって思うようになってきたし。
それに、同じ背丈でも小さく見える体のバランスもかわいいもの。
……アレクくんは男子だけど男子じゃないし、アリスさんは女子だけど女子じゃない。
そんなわけわかんない2人だから、もう性別とかは気にならなくなっちゃった。
なによりアレクくんはたったの5歳だし、意識する方が恥ずかしいものね。
いえ、私たちの感覚に合わせると「アレクちゃん」と「アリスくん」なんだけど、もうわけ分かんないし……。
「ふぅっ」
ぱさっ。
あの日、家から逃げ出す直前に来ていたTシャツと短いパンツ。
……あの日まで普通の毎日で、あの日も直前まで普通にお庭で遊んでいただけなのにね。
なのに今は、もうパパもママも――
「………………………………」
「?」
……あ。
考えごとしてたらもう全部脱いじゃってて、「そういえば女神様ってどんな体なんだろう」って思ってたから、私、女神様の前に居たみたい。
……教科書に載ってたみたいな白い布の服を……肩まで脱いで、考えごとしてるのかな?
女神様でも考えごととかするんだ。
そう思うと……やっぱりほっとする。
私たち人間に近い神様なんだって。
「じー」
「じー……」
隣には、同じように脱いでいたお姫様たち。
やっぱり気になるよね……?
「――、――――――――――……」
……しゅるっ。
「……あら……」
「き、きれい……」
「……うん、これは女神様だわ。 女の私でもため息出ちゃうもの」
年齢的には、ハイスクール……に入らないくらいの体つき。
近所でお世話してくれてたお姉さんも、昔はこんな感じだったと思う。
お姫様みたいに透き通ったお肌、しなやかな体つき。
お胸は私たちの誰よりも育っているけど、歩いても目立たなそうなバストサイズなのに、目が離せなくって。
腰やおしりも少し広がってるけど、裸を見なければ分からない程度で。
「?」
それを覆う、長い髪の毛は――光り輝くブロンド。
「はぁ……まさに女の夢。 女神ね……」
そんな彼女は――まるで初めて人間の体を見たように、きょとんとした顔つきをしていて、けれどそのアンバランスさがなんだかすごく素敵だったの。
◆◆◆
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