402話 AAAとBと将来のBと墓場と

【ノーネームちゃん! ノーネームちゃん!】

【どうか……どうか……】

【実況を……】

【おふろ……おふろ……】

【どうして……】


【成長したハルちゃんがるるちゃんにあんなことやこんなこととととと】


【あーあ】

【気持ちは分かるるるるる】

【えぇ……】

【あの、この10分で何百人】

【しゃあない】


【えっと  うちの姉貴……ないないされた……】

【草】

【草】

【かわいそう】

【かわいそう】

【ないないされるとな!! 家族がこうなるんだぞ!!】

【かわいそう】


【でもせめて少しだけでも】

【そうそう、声だけで良いから】

【かすかに聞こえる程度で良い……お願い……お願い……】

【草】

【諦めが悪すぎて草】


【A】


【AAA】


【A】


【♥】


【!?!?】

【何の暗号だこれ!?】

【あの、AAAって……】

【もしかしてるるるるるるるるるる】

【草】

【それくらいは良いでしょノーネームちゃん!!】

【自分から言い出したんだぞノーネームちゃん!!】


身体的特徴。


それは、ことコンプレックスかかえてるるるさんにはあまりに残酷。


……別に、元男な僕と比べてそうならなくても良いとは思うんだけどなぁ……なんでこんなに僕に執着するんだろうね。


「ぶくぶくぶくぶく……」


ぶくぶくぶくと沈んでいきそうなるるさん。


一応なんとなくでその気持ちは分からなくもないかもしれないから、元気づけてあげようとして。


「前にも言ったじゃないですか、男は別に胸のサイズで女性を決めたりは――――――――」


「――ハルちゃん。 ちほちゃんのを3回、えみちゃんのを7回見た」

「えっ」


ざばり。


ゾンビみたいに復活したるるさん。


「……やっぱりハルちゃんだって女の子はおっぱいなんでしょー!!」


「……ハルさんが……あぅぅ……」

「んんんん! むむむむううう!!」


よく見てるね君……あと、さりげなく九島さんには知られて恥ずかしいし、えみさんはすっぱだかに包帯巻かれてびったんびったんしてて怖いよ?


ばるんばるんしてるけど、色気なんか


「8回目……」

「!?」


「何と言っているか分かりませんがうるさいです三日月さん……もぎますよ」

「!?」


「……ハルちゃんたちは良いよね……体、成長できて……」


おふろの中、浅い場所でに座り、のの字を書き出するるさん。


体育座りと相まって、その仕草そのものが子供みた――


「子供みたいって知ってるよ」

「………………………………」


「体も子供、心も子供……ふふっ」

「……………………………………」


……そうだった、この子、読心能力持ちだったんだっけ。


あと、なんか自分で自分傷つけてない?


「おおきく」

「なる」


ぽつり。


ノーネームさんが……いつも通りに隠すこともなく、すっぱだかでお風呂に突っ立ったまま言い出す。


「……気休めは要らないよぉ……ノーネームちゃんが優しいだけで」


「きやすめ」

「ちがう」


ノーネームさんの断定口調。


それに一縷の希望を見出したらしいるるさんが、顔を上げる。


「ノーネームちゃん、それはどういう――」


「みらい」

「びー」

「なる」


「――いつ!?」


びー。


B。


……B?


え?


「ねぇノーネームちゃん! いつ! いつ私の胸が育つの!? ハルちゃんに見られて揉まれて吸われるくらいになるの!?」

「るるさん落ち着きましょうおかしなこと言ってます」


「ハルちゃんのちっちゃなおててでも良いし、ハルちゃんがハルさんになったあとの男の人のおおきな手でも」

「るるさん落ち着きましょうやばいこと言ってます」


じゃぶじゃぶじゃぶじゃぶ。


るるさんがノーネームさんに詰め寄っている。


「いつ! い――」

「にんしん」


ぴたっ。


るるさんが硬直する。


「にんしん」

「びー」


「しゅっさん」

「えー」


「にかいめ」

「びー」


「いごこてい」

「かくてい」

「?」


「………………………………………………………………」


……え?


ノーネームさんは、今なにを


「……ハルちゃん」

「え? あ、はい」


真下を見て――お湯の中で濡れたからかくせっ毛が顔に張り付いて、目元まで覆われて表情の分からないるるさんが僕を見てくる。


……メデューサみたいで怖いよ?


「男の子に戻ってね」

「え、でも」


「もどって」

「あ、はい」


「彼氏さんになってね」

「え」


「1番が良いけど1番じゃなくても良いからお願い」

「あの」


「なって」

「え、あ、はい?」


「子供はふたり以上ね」

「え」


「だめ?」

「え、でも」


「認知して欲しいし一緒に子育てして欲しいけど無理にとは言わないから」

「え? えっと……あ、はい?」


話の展開が早すぎて何のことか分からないけども、とりあえず「はい」って言っとく処世術。


こうすれば基本的には丸く収まる……はずなんだけども。


「………………………………」

「………………………………」


しん。


広いお風呂場が、静寂に包まれる。


……あれ?


るるさんが食い気味に言ってた言葉を、反芻する。


あれ?


僕、やばいこと言った?


言っちゃった?


「……やったぁー!!」


じゃぶんじゃぶん。


なんかとんでもないことを言ったらしい僕と、それで喜んでるらしいるるさん。


「……ハルさん……」


「     」


なんだか真っ赤な顔してる九島さんと、くたりと脱力して完全にいもむしになってるえみさん。


「?」


「じんせいの」


さわっ。


ノーネームさんが、なぜか僕の胸を触ってきてる。


「はかば?」


両手で。


包むように。


「……とりあえず止めてくださいね、くすぐったいので」

「んむ」


すっ。


手を下ろして残念そうなノーネームさん。


「……ハルさん」

「九島さん」


自分の前を隠すのも忘れているらしい九島さんが、話しかけてきている。


「……さすがにるるさんが、ハルさんの意志を無視して暴走していたら止めますから……ね?」

「んむむむむ、むむうううう!!!」


「鼻も塞ぎますよ?」

「!?」


「………………………………」


……なんだか僕は、この先一生後悔しそうなことを――いつもみたいにめんどくさいことを回避するための「はい」でしちゃったって、なんとなくで理解した。


きゅぽんっ。


……とりあえず飲もっと。



◆◆◆



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