388話 人の群れと、九島さん

うおー。


わー。


きゃー。


……耳が痛いから隠蔽スキルで音をシャットアウトしても貫通してくる声。


「……なにこれ」


「ハル様への感謝と感激の歓声でございます」

「なんでお爺さんがここに居るの? あとなんでそんな話し方?」


お風呂から出てお酒飲んでほっとしたら、たくさんの人たち……なんでみんな女の人とか女の子ばっかりだったんだろ、種族とかすごくいっぱいあったのに……に押し出されるようにエレベーターに乗せられた僕。


「子供たちは?」って聞くヒマもなく出たのは、バルコニーみたいな感じのとこ。


……ここどこ?


あ、昨日寝た場所だ……けど、なんかおかしくない?


エレベーターの上がずーっと、空の先まで続いてるし。


そういうのも聞く前に――この大騒ぎだ。


「誰もがハル様の御業に心の底から平伏しておるのです」

「だからなんでお爺さん居るの?」


あとなんで袴?

や、かっこいいけどさ。


しかもなんか盛大に鼻血こぼした跡あるし……大丈夫?


【草】

【大歓声よりも爺のことが気になるハルちゃん】

【かわいい】

【かわいいね】

【おじいちゃんをじっと見上げる孫かな?】

【※数十万の歓声には特に何も思ってません】

【ま、まあ、昨日も助けた人たちで似たような感じだったから……】


【あの、ハルちゃんの目覚めを出待ちしてた人たちの輪……町の中ぎっちりじゃ収まらなくって、町の外まで続いてるんですけど……】

【しかも異世界の配信ドローンたちも屋上に数十っていうね……】


【お前、仮に地球が全滅するかしかけるかしたとしてだ  死にかけてた、いや、絶滅しかけてた自分たちを丸ごと救ってくれて、しかもおんなじ環境の人たちが数十万居て  それが、たった2人の女神によってなされたって聞いたらどう思う?】


【しかも最初に救助された人たちは、その女神様たち手ずから助けられた実感があるし、他の人もそう聞いただろうしな】

【しかもしかも、その全滅する原因の魔王軍の魔王はその女神様たちが軽ーくぷちって潰しちゃったの見てたし】


【心酔するわな】

【この世界で最も価値の高い存在になるよね】

【他に信じてる神様が居ても1番になるわな】

【自分の全てを捧げても恩返ししたいって思うよね】


【仮に「じゃあ適当に生贄ちょうだい」って言われたとしても、多分笑顔で自分差し出すよね】

【このくらいなら喜んでってなるよね】

【多分人生で1番の幸福を感じるよね】


【特に、モンスターに殺されたり食べられたりする直前だった人も多かったし……】

【ハルちゃんとモンスター……うん、比べられないよな】

【最高だよな!】

【だろ?】

【ハルちゃんに食べられるるるるるるる】

【草】


【あの……今この瞬間も、町の外で次々と人間たちがポップしてるんですけど……】

【それが昨日の夜から続いてるし、多分この歓声、もう百万人どころか数百万到達してるんですけど……】


【つまり?】

【全てを救ってくれたマジもんの神様、しかも自分の目で見れる場所……本当にすぐそばにいるんだぞ?】

【てかノーネームちゃん……ずっとないないし続けてたんだな……】


【今来てるってことは、よっぽどの緊急ないないじゃなければ数ヶ月前ってことで】


【そんなにたくさんの世界が滅びかけてたのか……】

【それを救った2人はやっぱり?】

【心酔不可避だな!】

【たった2日でガッチガチの信仰爆発不可避】

【本当にな……】


わぁわぁ。


すっごい声。


……昨日もそうだったけど……僕はただ、ノーネームさんの言うこと聞いてただけなのにね。


「あ、そんなことより子供たちは」


「まずは皆に、1度でよろしいので応えて頂けると」

「え? あ、うん……あ、はい」


【今「そんなことより」つった!?】

【草】

【ひでぇ】

【ああ、これだよ……ハルちゃんは興味ないことには反応しないんだよ……】


お爺さんに促されて、片手を上げる。


――わぁぁぁぁぁーっ。


……普通に隠蔽スキルで音をシャットアウトするのが追いつかない。


そっか。


隠蔽スキルって、まだ先があるんだね。

もっと極めなくっちゃ。


「あの子たち」


「後ろの方向へもお願い致しまする」

「あ、はい」


くるりと振り返ってもおんなじ光景。


……何人居るんだろ、ここ……。


【あっぶえ】

【危ねぇ】

【爺、やるな】

【この有無を言わさない感じは爺だからこそか】

【さすがは元ダンジョン協会会長だもんな!】


【ついでに始原のトップでもあったけどね】

【草】

【あーあ】

【今! 今雰囲気!】

【始原って言われるとね……】

【今からしてみれば、始原の狂信っぷりもまだおとなしい方だったねぇ……】





「ねぇ、子供たちは」


「ハルさん」

「あ、九島さん」


耳がきーんってなって何も聞こえないくらいになってからようやく屋内に戻れてほっとして少し。


あの子たちの居場所が知りたかったってことを思い出そうとしたけども、懐かしい顔を見てまたすっとんでった。


【くしまさぁん!】

【くしまさぁん……】

【くしまさぁん……助けて……助けて……】

【全人類の希望はくしまさぁんに】


【女神(比喩表現)→女神(様のママ)になってるくしまさぁん】

【くしまさぁんが……ママ……?】

【厳しいけど優しいお母さん……】

【やめろ、マジで異世界人たちに崇められるぞ!?】

【それはそれで……】


真っ黒な髪の毛は、多分この世界の魔力でうっすらと輝いていて。

きちっと後ろで縛ってるポニーテールで。


真面目系の服――っていうか多分あれ、九島さんが通ってる学校の制服だよね、セーター着てるからはっきりとしないけども……つまりは見慣れた委員長とか生徒会長っぽい印象のままで。


けども彼女の顔は――普段見慣れてる、じっと僕の手元のお酒を見てくるのとは違って、今にも泣き出しそうで。


そんな彼女が歩いてきて、


「……っ」

「……九島さん?」


ぎゅっ。


「……良かった、です……」

「…………………………うん」


頭を抱きしめられて。


懐かしい匂いで。


……あと、柔らかいのが顔を包んできて。


そうだよね、九島さんも並みはあるもんね……この子、いつも控えめだからこうして抱きしめられたことなかったから知らなかったけども、押し付けられるとかなりの反発力で。


……なんか、落ち着く。


【くしまさぁん……】

【なかないで】

【純粋な愛情なんだ、しょうがないだろ】

【そうだよな……るるちゃんみたいな全力の愛でも、えみちゃんみたいな邪な愛でもなく、普通の愛だもんな……】

【草】

【ひでぇ】



◆◆◆



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