176話 【異変調査班配信】2

「では、改めて現状のダンジョン――『彼女』の居るでしょうそれ以外についてをご説明します」


【お、偉い人】

【ダンジョンに潜った時点で、どんな階級の軍人さんでも強制的に氏名表示でアカウント作られてて配信されてるの草】

【草】

【軍人さんかわいそう】

【合衆国軍だけじゃないのがマジかわいそう】

【こんなときでも同情されない合衆国軍】

【そらそうよ】

【まぁ「あの日」に全世界のヘイトを集めちゃったし……】


「あの日」から。


ダンジョンに入る人間は必ず配信させられ、個人情報が強制開示されている――なぜか軍属だけが、個人情報までをも。


それは恐らく「『ハル』の邪魔になることはするな」という「ノーネームちゃん」の意志だと解釈され、関係者全員へは不用意に刺激しないよう指示が出ていた。


……配信慣れしていない彼らがコメントに反応してしまったら、それはそれでまた大惨事を引き起こしかねないのもあって。


「現在全国――国内だけでなく、全世界と言う意味です――立ち入りの禁じられている理由は、以下によるものです」


【お】

【ようやくか】

【長かった……】

【ハルちゃん眺めてても幸せだけど、やっぱ知りたいもんなぁ】


一気に膨れ上がる同接数とコメント――もちろん、全世界の。


「まず、ダンジョン最下層が最下層でなくなり、その下が何十層も出現しているため、これまでのランク別情報が役に立たなくなり、各国のダンジョン協会の発信している安全情報が全て参考にならないことです」


隊長の彼は淡々と、現段階で公開すべき情報を公開していく。


「また、総じて出現するモンスターのレベルが格段に上がっています。 本来、協会の方で『初心者専用』として区別していたダンジョン以外は、平均で……20ほど上がっているため、不用意な解放をしますと死亡事故まで急増するとの判断です」


【ふぁっ!?】

【20!?】

【え、なにそれ】

【もしかして:世界中のダンジョン、ハルちゃん仕様】

【草】

【えぇ……】


【ノーネームちゃん! 天使と人間一緒にしちゃダメでしょ!!】

【ノーネームちゃん、人類のこと高く評価しすぎ】

【ああ、ハルちゃん基準だとそうなっちゃうのね……】

【だからハルちゃんはちょっとおかしいって言ってるでしょ!!】

【草】


モンスターのレベルが20も上がっている。


どのダンジョンも低階層は低レベルのモンスターが出る関係上、これは「途中から急に難易度が上がるというトラップ」になっていることにもなる。


それを理解できたダンジョン関係者は、一同に顔を青くして。


「そして」


息を吸って呼吸を整えた彼は――恐らくは大荒れになるだろう、特大の事実を口にした。


「彼女――いえ、ハルさんの配信でもご覧になられたでしょう、これまでのダンジョンの仕組みが消失しているダンジョン。 それが――特に高難易度ダンジョンで数件。 こちらでも確認されているためです」


【え?】

【は?】

【???】

【どゆこと?】

【マジ?】


コメントが何十何百と飛び飛びになる荒れ様。

それも、煽りでなくほとんどが困惑によるもの。


(……こうなるわよね。 今聞かされた私たちだって……と言うことは、この場で私は)


そこへ、この瞬間まで目立たない様に立っていた少女たちの1人、三日月えみが口を挟む。


「……つまり、ハルさんと同じように。 モンスターを倒しても結晶化せずに死体が残る。 モンスターからも、道中も、宝箱のドロップも無し。 その理解でよろしいのですか?」


「はい。 ドロップの件はまだ断定はできませんが……それに、死体を放置していると、その臭いで他のモンスターが集まってくるのも確認しました」


「……これ、知らなかったら大惨事ですね」


「おっしゃる通りです。 これらのダンジョンでは、死体を処理するか、速やかな移動までが必要となります。 高難易度のダンジョンは……当面どころか、下手をしますと今後は立ち入り禁止です」


彼女に応対しながら彼が合図し、少しずつダンジョンに入っていくその他の軍属たち。


(私たちがわざわざ呼ばれているのは、ハルさん関係だけじゃなくて、こうして視聴者さんたちの疑問を口にするのも役割なのよね……だって、上位層だとは言え私たちだけが呼ばれて、しかも隊長クラスと一緒に行動するようにと言われているんだもの)


「……うぇっ!? じゃあモンスターたち、ぐろいの!?」

「やだー!」

「ハルちゃんときみたいにぶちゅってなるのやだー!!」


そんな三日月えみの反応を汲み取ったメンバーたちが、次々と会話に参加してくる。


【グロいのかぁ……】

【ハルちゃんでさえあの反応だったのに】

【難易度爆上がりどころじゃなくない??】


「グロテスク……そうなります。 今までの様に、綺麗に形が残り、結晶化するという仕様から……普通の動物を倒したときと同じようになりますので。 無機物系のモンスターならこれまで通りに倒せはするでしょう。 しかし……」


「動物っぽいのはめっちゃぐろくなる……うぇー……」

「でもダンジョンで生計立ててるから、慣れなきゃ……やだぁ」


【悲鳴が心地よい】

【お前……】

【大丈夫、専業の俺も将来の不安で悲鳴上げてるから】

【そういうことじゃないが】

【お前のことなんて誰も気にしてない】

【ひどい】

【草】


【でも嫌すぎる】

【あのハルちゃんでさえガチ凹みしてたんだぞ】

【一般人にはキツいな……】

【ま、まぁ、高難易度だけ?って言うし……】

【中間層は……いやレベルめっちゃ上がってるからキッツいぞ】


「みんなが言ってるけど、普通のダンジョンは大丈夫なんですか!?」


「はい、これまでで中級者用ダンジョンとされていた場所までは大丈夫です。 ……さすがに、まだ全てのダンジョンを確認できたわけではありませんから、断言はしませんし、そもそもレベルが上がっていますから、これまで通りとは……」


そっと促され、歩き始める少女たち。


――そして、その最後尾。


「……この中にハルちゃんがいるんだよねだったら今からみんなで助けに行くんだよね待っててハルちゃん私が行くから……」


「はいはい、まだどのダンジョンに居るのか分かっていませんからねー。 ハルさんの写真見て落ち着きましょうねー」

「ハルちゃんハルちゃんハルちゃ……ハルちゃんかわいい……」

「ええ、かわいいですねー。 ほら、この寝顔がかわいいでしょう?」


【要介護者るるちゃんと、天使くしまさぁん】

【るるちゃん……】

【くしまさぁん……】

【かわいくて尊いのに……】

【いつになったら戻るんだろうね……】


【でもハルちゃんの写真見たら少しのあいだ戻るってかわいくない?】

【百合の波動を感じるな】

【おねショタよ!】

【姉御、お前……】

【こんなときにも来るからハルちゃんショタ説が消え去ったんだぞ】

【大丈夫、私のサーバーでは大前提になってるから】

【そういうことじゃない】

【草】

【重大発表があったのに台無しだよ!!】



◆◆◆



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