149話 ダンジョンで再確認 幼女でもやってけそうだね

ダンジョン。


10年前出現したこの中に入ると、僕みたいに適性がある人間には魔力ってのが生まれる。


初めてダンジョンに……ヒマな日に適当なノリで応募して案内されて足を踏み入れたあのとき。


それからずっとある後天的な力……感覚。


それが、この体になってどうも増えているらしい。

不思議だね。


……んー。


体力と筋力とリーチがなくなってる代わりなのかな、これ。


一般的に女性の方が男より魔力は多いらしいし……理由は断定されてないけども「ダンジョン自体がゲームっぽいシステムなんだから、多分男はHPとSTR、女はMPとINTなんじゃない?」って意見が主流。


これだと、男は力があるってことで満足、女性は頭がいいってことで満足とこのご時世にぴったりの結論になるらしい。


政治の世界って怖いね。

でも案外ちょろいのかも。


で、男から女の子になったからそうなのかなっていろいろ試してみたけども、確かに魔力で筋力補えばそこまで苦労はしない……みたい?


みたい。

多分ね。


こう、支える腕も力の代わりに魔力を使う感じで……。


たぁんっ。


【いや、良かった良かった。 いつも通りのハルちゃんだ】

【先週体調崩したか何かでしばらく全然当たらなかったもんなぁ】

【このワンショットキルがクセになるんだ】


筋力のブーストもずっとは使えない。

だから移動中はオフで狙撃のときだけオン。


銃の重さはともかく、むしろ狙いやすくなってるまであるね。


銃器と狙撃のスキル。

あとは隠蔽と索敵スキル。


それらが一気に上がったのは、多分魔力とこの体のおかげ。


……ほんと、移動を置いておけばそれ以外はむしろ楽っていうフシギな感じだ。


【でも、やっぱ休み休みだもんな】

【ハルちゃんダメよ? カゼとか引いたら治りきってからじゃないと】

【っても見ないからなー、コメント】

【まぁ最後に見てくれることもあるし】


ふぅ……疲れる。


なんか具合悪いってときとか徹夜したときとか重労働なときの、あのデバフ感。


……今度から電車とかでもっとがんばって、席、お年寄りとか子供に譲らないとね……ま、僕自身は今は子供なんだけどさ……っと。


うん。


やっぱ、遠くのモンスターも見える見える。


でも、やっぱりこの体、総合的にはかなりのマイナスかな……単純に体力が無いから深くまで潜れないし、装備も軽装備。


ドロップ品だって厳選しないと、僕自身が重さでぺちゃんこに潰れちゃう。


……さてさて、結晶化したのも無事回収。


先へ進もう。


【前よりもむしろ元気なハルちゃん】

【元気そうでなにより】

【俺たちは嬉しいよ】


運良く僕はダンジョン適性もあって、ヒマな大学時代もダンジョン潜って、気が付けば中級者程度のレベルに差し掛かってる。


だから多分、こっちを本業にすれば普通には暮らせる。

月によっては副業の方が儲かってたくらいだもん。


……だからって、こうもあっさりとクビになるのにはびっくりだったけどねぇ……会社の業績、確かに悪い噂は聞いてたけども、もしかしてほんとにヤバかった……?


ま、まあ、泥船でずぶずぶよりは乗船拒否の方が楽なのかなぁ……?


僕は会社って言う実態のないシステムの危うさを実感しつつ、手元の技術ひとつで稼ぐ確かな感覚を味わいながら、今日もまた潜って行く。





とぼとぼと夕焼けを背に歩く僕。


夕焼けをバックに歩く幼女。

なんか退廃的だね。


「ふぃ――……疲れた疲れた」


帰りの買い物とかバスとかで隠蔽使う加減がキッツいもんな――……。


でもま、とりあえずはなんとかなるのは分かった。


税金関係とかは、会社が送ってくる書類でなんとかなるらしい。


僕が「何が何でもしゃべれません。 ビデオ通話にも出られない精神的異常をきたしました」って言ったら「あ、そう……」って感じで軽ーい感じで流された。


まぁ今どきはそういうのシビアだし、僕が「意地でも辞めない」とかダダこねたら面倒なんだろうね。


おかげでアパートに突撃されるって言う前時代的なことをされることもなくって、僕は安心してクビになれるってことだ。


……まずは日雇いならぬ日潜りで日銭を稼ぎつつ、体が戻るのを待つだけかなー。


今……までの会社にはもう戻れないだろうけども、この人手不足の時代だ、まだ20代ってことでどっかでは雇ってくれるはず。


だから特に困ることは……あー、でも帰りにふらっと安いとこで一杯とかはできないんだよなぁ。


それだけが残念。

とっても残念。


会社帰りに食べようって気分の日に、ひとりで軽く一杯しつつ食べてほろ酔いで帰るのが楽しみだったんだけどなぁ。


行ける?

行っちゃう?


「……いやいや、やめとこやめとこ」


確かに隠蔽スキルでカモフラすれば前の僕っぽい雰囲気出せるかもだけど、たまに居るからなぁ……ダンジョン適性なくても普通にそこそこ見破ってくる人とか。


こんなとこで通報されて保護とかシャレにならないもん……うぅ……焼き鳥、餃子、ラーメン、お好み焼き……おなか空いたぁ……。


こんなときに限って繁華街は良い匂いなんだ。


早く帰ろ……帰って料理しながら呑んで癒やされよう……。





「それで、彼は今日も? いや、配信でだいたい分かるがな」


「はっ、特に親類友人に助けを求めることなく……また、不安そうな様子も無くダンジョンへ。 しかしよろしいのですか?」


「そうです会長。 ダンジョン内で年齢と性別に人種まで変わった様子ですから、協会の方で保護するなど……」


「駄目だ」


いつもの執務室。


会長と呼ばれた老人に、最近は常駐するようになった壮年。

彼らはごく一部の人員にだけ「彼」の調査を続けさせていた。


「10人の『盟約』により、ハルちゃんから助けを求められぬ限り……不安要素を排除することはあろうと、こちらから接触することは能わぬ」


「ええ。 特に『クイーン』が――失礼、とある人物強硬でですね。 『「彼」の意志を曲げようとするなら国家として介入する』と宣言しているのですよ」


「それはまた……分かりました」


「極秘」と記されている書類には、この1週間の「彼」の動向が――外出時にかなりの確率で見失ってしまうため、GPSで大まかなものが記載されていた。


「『彼女たち』の執着は尋常ではありませんし、現状維持がまずは良いかと」


「うむ。 ……それで、これが今のハルちゃんなわけだが――」


部下から転送されてきた画像をのぞき込む老人と壮年、そして部下たち。


「……かわいすぎん? 儂、最初に見たとき心臓が止まりかけたぞ」


「かわいいですね」

「とても」


「あ、お前たち、もしこれ漏らしたら」


「分かってますって……鉄砲玉にされたくはないですよ」

「それに、こんなかわいくなった子のことなんて漏らしません」

「良し」


「……どこかを諦めた目線の幼子。 『彼』の『異常な隠蔽スキル』がなければすでに噂になっていたでしょう」

「そうならなかったのもまた、定めよ」


ふぅ、とため息をつく一同。


「……この美貌……普通に芸能界や映画界ですよね」

「いや、このご時世は個人でも充分行けますよ」

「まぁ無難に、ダンジョン配信者で大人気ですよね」

「そうですね……将来を待たずとも」

「この見た目とスキルですからねぇ……」


しん、と静まりかえる室内。


「……ま、この歳で見つけた推しのおかげで天に召されるなら、それはそれで良いかもしれんの?」

「それでは困ります、きちんと耐性を付けてください」


「ダンジョン協会会長が尊死したという栄誉を」

「止めてください、年齢的に冗談になっていませんから」


◆◆◆



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