第64話 ギルドの横暴、ここに極まれり

 まさかエリクスの口から師匠の名が出て来るとはな。

 思ってもみないサプライズに、たまらず振り返って怒鳴ってしまった。


 だがそれこそ思ってもみない話だ。

 俺はその情報を今までずっと密かに探し回っていたのだから。


 師匠の名を知る者と、あの方の所在を。


「でも信用してくれないというのなら教える義理もないよね。だから卿はもう帰るとするよ。ごめんね、時間を使わせてしまって」

「ま、待て! 待ってくれ……!」

「へぇ……やはりこの名前は君にとって特別なんだね?」

「ああ、俺の憧れで、目標で、感謝をささげたい恩人の名だからな」

「……なるほど、噂通り義理深い人なんだね君は」


 一体誰の噂かはわからん。

 そもそもどうやって俺の事を知ったのかも。


 だがもうそんな事はどうでもいい。

 師匠の事を知れるのであれば、あの方と会えるのであれば。


 俺はそれだけで、この男の言葉を信じるに値すると言い切れる!


「だからこそ、その名を知るアンタを俺は信じようと思う。ただし結果が伴うまでの話とさせてもらうが」

ベッレストゥリアッねがってもいない話さ!」


 だからこその答えに、エリクスも嬉しそうに返事を跳ね上げた。

 そして手を差し出しニコリと笑う。仲直りの握手のつもりだろうか?


 ――いいだろう、乗ってやる。

 こうなったら拾った命だと思って、とことんまで付き合ってやるよ!


「よろしい、ではその説明を依頼主本人からしてもらう事にしよう」

「それまでは延命って事だな」

「フフッ、もとより君に手を出す気はないから安心したまえよ。では三日後だ。三日後にまた君の下へと訪れよう。それまで首を長くして待っていてくれ」

「ああ、楽しみに待たせてもらうするよ」

「それでは、また逢おうっ!」

「あっ、お、おいっ!?」


 そうも決まるとエリクスの行動は早かった。

 高台から飛び降り、あっという間に坂を跳ね降りてしまったのだ。

 それでもう街中に消え、姿も気配も見えなくなってしまって。


「ったく、これだから勇者って奴は……だが、まぁいい。あの人にまた逢えるなら、俺はなんだって乗り越えてみせるさ」


 しかし俺も一人になると心を打ち震わせずにはいられなかった。

 師匠に逢えるかもしれない、そんな喜びが昂揚感をたまらないほどに溢れさせたから。


 ああ、楽しみだ。あの方に逢えるかもしれないと思うと震えが止まらない。

 逢ったら何を話したらいいだろう、何を伝えたらいいだろう。

 もう心がそれだけで一杯になりそうだよ。


 そんな喜びを胸に秘めたまま、俺も階段を駆け下りた。

 ウーティリス達にもこの事を教えたいしな、急がないと!


 もしかしたら今の俺の姿はまるで子どものように無邪気なのかもしれないな。

 おかげで俺の姿を見た女の人が「フフッ」って笑ってしまっているし。


 でも、それでも嬉しく思えてしまうぞ!

 今の俺はもう絶好調だ! フゥーイェーッ!


 そんな気分で家へと向かうのだが、ふとここで気付く。

 たしか道中にはギルドがあるから、その前ではテンションを抑えなければ、と。


 それでその通りへと差し掛かった所で徒歩へと切り替えたのだけど。


「ん、なんだあの人だかりは?」


 途端、ギルドの前で何やら人が大勢集まっているのが見えた。

 しかもそのほとんどが俺達ハーベスター仲間やそれ以外の底辺職ばかりだ。


 逆に勇者はほとんどその姿を見せていない。

 ギルドで何かあったのだろうか?


 そう興味を示すまま近づく。

 すると全員が掲示板に釘付けになっている事に気付き、目を向けてみる。

 

 だがそこに貼られた紙には、信じられもしない内容が描かれていた。


「な、なんだと……!? 勇者とギルド員以外の業務報酬割合を軒並み四割減、だって……!?」


 バ、バカな……四割も減らす!?

 冗談を言うな!? 今でさえギリギリで生活もままならないんだぞ!?


 ど、どうしてこんなとんでもない事を……。


「これもあのダンジョンブレイカーのせいか」

「宝が取れなくなって採算が合わないとか書いてあるな」

「それなら勇者の報酬を減らすべきじゃないか。これはひどい……」


 なんだと!? まさか財宝を取れなくて稼げていないから、そのしわ寄せを他の職に押し付けているって事なのか!?


 ふ、ふざけるなよギルドと勇者め……!

 いくらなんでもそこまでするか!?

 どうしても自分達の非を認めないつもりなのかよッ!!!


 許せん、これは許せる訳がない!

 こんなのどう考えたって横暴の極みだろうがあッ!!!!!




 ああちくしょう、これならエリクスの相談が本物であってほしいとさえ願う。

 あいつが持って来た話が真実なら、このクソッタレな悪状況を打開できるかもしれないからな……!

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