第21話 誰が為の拳(クーSide:前編)

(前書き)

すみません、予想を超える多くの方に読んでいただけたことに動揺し、投稿時間をミスしてしまいました。

9/8の夜は連続して2話投稿しております。

よってこちらは本日の更新4話目となります。

ご容赦くださいm(_ _)m

――――――――――――――



 ~クー視点~


 やっぱり僕は駄目な子なんだ。


「僕は、また失敗してしまったのです」


 ストラ兄さんの隣で、僕は俯きながら呟いた。

 次から次へと涙が勝手にあふれてくる。

 頬を伝う雫がポタリポタリと落ちて、温泉の水面に波紋を作っていった。



「失敗? 畑を作るのをか?」


 兄さんが優しく僕の頭を撫でながら言う。僕はコクッと頷いて、その優しさに甘えさせてもらった。


「……ごめんなさい」

「なんで謝るんだよ」


 そんな僕に兄さんは笑いかけてくれた。


「クーは畑に穴をあけたことを、失敗だと思ったのか?」

「……はい」



 僕は昔から力が強かった。

 母さんは「貴方はお父さんに似たのね」って言っていた。父さんは獣人の中でも、武神と呼ばれる存在だったから。


 そんな父さんも、病気には勝てなかった。

 父さんが天国に旅立ってから、母さんもすぐに後を追うように亡くなってしまった。

 独りぼっちになった僕は、生きていくために人族の傭兵になった。



 これはフシやピィにも言っていない、僕の闇――取り返しのつかない失敗談だ。


 雇い主から言われたとおりに、僕は敵を殴り始めた。人も魔物も、ぜんぶ。ぜんぶ殴った。



 ……こわかった。

 手にこびり付く生ぬるい血も、断末魔の叫びも。それらの感覚が離れてくれずに、泣きながら眠れない夜を何度も過ごした。


 だから僕は、心を封印することにしたんだ。そうでもしないと、僕は本当のケダモノになってしまいそうだったから。



 でも、そうなる前に生活が一変した。雇い主や所属していた傭兵団が、一匹の魔物に壊滅させられてしまったから。

 僕も殴られて吹っ飛ばされたけど、体が頑丈だったおかげで、耳が遠くなっただけで済んだ。


 ボロボロになった状態で彷徨さまよっていたところに、フシに出逢って……僕はもう、力を使う必要は無くなった。

 相変わらず生活はひもじくて、思わず笑っちゃうくらい苦しかったけど。二人の姉妹のおかげで、心から楽しいって思える日々を過ごせていた。



 だから僕は、いつまでもこの時間が続けばいいなって。

 大切な二人を失わないためにも、もう二度と力の使い方で失敗しないんだって……そう決めていたんだけど――。




 僕が考え事をしている間も、沈黙は続いていた。


 また呆れられてしまったかな……そう思ったそのとき。ストラ兄さんはゆっくりと話し出した。


「俺は今日、とても楽しかったぞ? クーの意外な一面を知れて、なんか嬉しかった」

「え?」


 僕が驚くと、兄さんは優しい顔で微笑んだ。


「人ってさ、みんな違うんだよ。得意なことや苦手なこと、好きなこと嫌いなこと……それぞれ全部違うから面白いんじゃないか?」

「……そういうものなのですか?」

「あぁ。だからクーも気にしなくて良いんだぞ? クーはクーの良いところがあるんだから」


 そう言うと、兄さんは再び僕の頭を撫でてくれた。

 ゆっくりとした話し口調はまるで子守歌のように、心地の良い声色だった。



「実は俺も、失敗ばかり繰り返してきたんだ」

「ストラ兄さんが、ですか?」


 なんだか意外だ。

 リディカ姉さんからは、兄さんは国の英雄だって聞いていたから。



「ああ。俺が魔お……」

「まお?」

「……魔王を倒した英雄だって、もてはやされているけどな。小さい頃は他人に迷惑ばっか掛けていたんだよ、うん」


 何かを言い直しながら、ストラ兄さんは懐かしそうに目を細めた。


「俺もクーたちみたいに、物心がついた時には親が居なくってさ」

「そうなのですか!?」

「代わりに拾って育ててくれた人がいたんだ。その人はもう亡くなっちゃったけど……オヤジが居なければ、今の俺は居なかったと思う」


 兄さんは「オヤジには感謝してもしきれない」と、少しだけ寂しそうに微笑んだ。



「幼い頃はチビで弱っちくて、魔法も苦手でさ。妹や周りには馬鹿にされて、いつも泣いていたよ」

「い、意外なのです……」

「でもオヤジは泣く俺を『お前は何でもかんでも、一人で器用にやろうとし過ぎだ』って笑い飛ばしながらも励ましてくれたんだ」


 兄さんの苦労話を聞いて、僕は驚いた。だって僕の知る兄さんはいつも堂々としていて、何でも出来ちゃうすごい人だったから。


 だけどそれを否定したのは他でもない、目の前にいる兄さんだった。たしかに体は豚さんみたいに太っているし、あんまり勇者っぽくないですけど……。


 そんなことを考えていたら、兄さんは真剣な表情で僕を見つめていた。





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