赤髪の男
シェイドとジェノがイーグルの部屋を出ようとすると、イーグルが呼び止める。
「そうだ、セレネとグレイスにまた追手が来る可能性はあるか? 学園長から確認するように言われていたんだ」
シェイドはあごに片手を当ててうなる。
「分からねぇな……奴隷商を倒したが、他に仲間がいるかもしれないぜ」
「警戒するに越した事はありませんね」
ジェノはとうとうと答えた。
「二人の話をもっと詳しく聞いてもいいかもしれません」
「確かにな。それとジェノ、本の持ち出しは禁止だぞ」
イーグルは頷いた後で、ジェノが手にしている分厚い本を指さす。
ジェノはイーグルに向き直った。
「続きが気になるのです。必ず返しますからご容赦ください」
「ダメだ。手に入れるのが困難な本が多いんだ。どうしても読みたいのならこの場で読んでいけ」
イーグルに制されて、ジェノはしかめっ面を浮かべた。
「仕方ない……シェイド、ちょっと待ってくれ」
「俺はすぐに行くぜ。昼休みは限りがある」
シェイドがキッパリと言うと、ジェノは渋い表情で本を広げた。
「すぐに読む。何かあったら報告に来い」
「分かった分かった。ゆっくりしろよ」
シェイドは呆れ顔でイーグルの部屋を後にした。
イーグルやジェノと話し合った事を、セレネとグレイスに伝えるつもりだ。
グレイスはクレセント家に、セレネはブレス王国に連れて行くと提案するつもりだ。そのうえで、新たな追手が来る可能性を聞く必要があるだろう。
二人とも保健室で待っているはずだ。
廊下を歩いていると、何人もの生徒とすれ違う。みんな楽しそうで生き生きとしていた。
シェイドとは違う世界にいるように思えた。
自分の境遇を振り返って、自嘲気味に笑う。奴隷だった過去も、つい最近まで犯罪者だった事も、懐かしい一幕だ。
これからどう生きるのか未知数であるが、楽しみたいものだ。
できれば目立たずに、平穏に暮らしたいものだ。
そんなシェイドの想いを木っ端みじんに砕くように、大声を発する男がいた。
「てめぇが噂の新入生だな! トワイライト家がいないなら好都合だ。まずはてめぇを倒して自信を付ける。勝負しろ!」
燃え立つような赤髪を生やす中肉中世の男がシェイドの目の前に来た。そこそこ丈夫な長袖長ズボンを着ているが、飾り気はない。貴族ではないだろう。野心に溢れた目をしている。
関わったら面倒だろう。
何も言わずに通り過ぎようとすると、シェイドを指さして大笑いを浮かべる。
「なんだぁ逃げるのか!? 俺の不戦勝だな!」
勝手にしろとシェイドは内心で毒づく。
あんたの相手をするほど暇じゃないとも思っていた。
男はひとしきり笑うと、ニヤついた。
「保健室に可愛い女の子が二人もいたな。勝利者として好きにさせてもらう」
シェイドは思わず足を止めた。
聞き捨てならない言葉だ。二人の女の子とは、間違いなくセレネとグレイスの事だろう。保健室にいる事までバレている。
「あいつらに手を出すつもりなら、考えるぜ」
シェイドは赤髪の男を睨みつける。
男は勝ち誇った笑みを浮かべて、中指を立てた。
「いい表情をしているな。上等だ、俺はダスク。噂の新入生を倒して成り上がる男だ」
「俺に勝った所で成り上がるとは思えねぇが……まあいい。どんな勝負をするつもりだ?」
「決まっているだろ! ここをどこだと思っているんだ?」
赤髪の男ダスクはいやらしく舌なめずりをする。
「魔術勝負だ。ルールは無用。先に気絶したり降参した方が負けだ」
「分かりやすいのはいいが、校則違反は大丈夫か?」
シェイドは念のために確認した。
セレネとグレイスを許可なく連れて来たのは校則違反だと、イーグルから言われた。これ以上の失態は防ぎたい。
ダスクは腹を抱えて笑っていた。
「練習場なら何をやってもいいに決まっているだろ! 互いに磨き合うためだと言えば平気平気!」
練習場は魔術学園グローイングの敷地の中で最も広い。たいていの魔術を放っても良いとされている。
シェイドは頷いた。
「いいぜ。さっそく行くか」
「おっし話は決まりだな!」
ダスクは狂ったように笑いながら、肩をいからせながら歩いていた。
シェイドは静かに続いた。
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