第6話 10歳誕生会 010d

 「おい、でけ~な」「中型船のサイズは有るぞ」

「イムールで大蟹の浜焼きが有ったって聞いたぞ」「ならこれは?」

「噂だと二匹いたらしいぞ」「二匹ってか、おっかねー」

 闘技場の中央にザラタンが鎮座して、その正面からマイクが火炎を放つ

ハサミの先っぽは外して置いてある、熱での変質を避ける為で材料にする

幅は足を拡げて30mはあり、胴の幅でも7~8m、厚みが半分程はあり

 蟹から立ち昇る蒸気と香気が闘技場を満たす、蟹は火炎と熱風で炙られ、

赤みを帯びて関節から泡が噴き出して煮えている様だが、バリアで熱を遮断

熱さは伝わってこない、が、見ているだけで身の毛がよだつ。


 「あの王子すげ~」「火炎は確かに物凄い威力だが」

「いや、もう小一時間は続けてる」「魔力か~」

「そうだ、バリアも張ってあって熱が来ないし、相当の手練れだぞ」

【焼き上がったからバリアを解く、少し離れて欲しい】

「ブオン」熱風が渦巻いた「「うお~」」こんなに熱いのか


 「何だあの王子の動き軽業師か、解体する気か」

「飛移るって…、あの太い足をスパスパ落としたって…夢か」

「ふんどしを捲った…あれ消えたぞ、ふんどしの身は何処行った」

「王子は何してる?」「甲羅の周りの切込みだな」

「あれ見ろよ」「胴体に着いた残りの足の部分を外そうとしてるのか」

「兵隊だとあんなに苦労するのか」「殻が割れんのだろう」

「お~開いたぞ」「エラに胃袋は捨てるんだな」「蟹味噌、味噌だ!」

「王子~美味い所、少しは残しといてくれ~」「聞こえるかアッハハ」

「受け取れ」「味噌が殻に山盛りで飛んで来た、ありがとよ王子」

「ほれ、皆一口づつ食え喰え」「うんめ~」「ムシャ酒無いか?」

「足を更に細かくばらし始めた」「お~切って客席に飛ばしてるぞ」

「兵隊が配るの待つと何時の事やら、暴動だぞ」「だよな~」

【今日は王の驕りだ、喰った連中は手分けして街へ配れ、

食ったゴミは片づけろよ、掃除が食い縁だ】

「「おうよ、任せとけ~」」


 「ダーリング爺、後頼むよ」警備隊で将軍を捜しあっさり頼む

「お主規格外じゃな、その様子だと討伐はソロでやれたな…成る程

フフフ良い子だ、儂も帝達と今一度夢が見れるのか、長生きするぞ

後は任された、城に行くが良い」敬礼で見送られる

ダーリング将軍を知る者はこの様に目を疑った。


 厨房で料理長を呼んでもらう「料理長、帝の使いだそうです」

「この仕込みの大事な時間に何事だ、イムリーの…か」

「今焼いたばかりだから気を付けて扱って、足、味噌、甲羅そして

これふんどしの部分、これだけの量有れば城に仕える者にも足りるよね

帝からの差し入れだから、誕生会にもお裾分けをお願い」頼むと踵を返す

「たかが蟹、デカいうえ〆も出来ず焼いただとアチチ…モグモグ!

グッ、今日の料理メニューを変更する、蟹尽くしだ」「「オー」」 


 誕生会とは名目で実際は娯楽だ、貴族と称しても懐事情は其々だが

見た目が貧相では世間体が悪い故、自然と其方へ金を掛ける者は多い

屋敷の維持管理費、使用人、冠婚葬祭費用…、歳費は際限なく必要で

全てを賄えて、見た目道理の生活を送れる者は僅か一握りに過ぎない

 大抵は社交の場や付き合いには見栄で金を掛ける「さすが…様」の

一言の「称賛」を勝ち得る為であるし、祝いや引き出物を公開したり

見せ会い展示するのも同様の理由だ。

 では如何するか、ボロイ屋敷に住む、使用人の人数、給料を削る、

エンゲル係数を下げ貧しい食事をする、経費削減、領民から絞り取る

普通の領主であれば孰れか、或いは全部を比重を変えて行う


 それ程の苦労をしている見返りの一つが舞踏会と呼ばれる集いだ

集いには招待状やドレスコード等による縛りが存在する

参加出来る事の優越感を増す為の小道具で有り、プライドを擽る


 踊る、食べる、飲むだけの事だが、庶民との格差を演出する

食事には、高価な、貴重な、稀な食材を金に物言わせて搔き集める

それら用いてプロの料理人が珍品、名品と呼ばれる贅沢で豪華なる

料理を手間暇懸けて作り上げる。

 酒も食材と同様で、見栄で飾って有っても日頃は飲めない

通常は懐に応じた格のアルコールを飲む

庶民には一生涯口に入らず、手が届かぬ料理や酒がパーティでは

好きなだけ頂ける、皿やボトルが無く成る迄出来るのだ。


 踊るだけでも、礼儀作法から始まる社交術が存在し、お金と時間を

かけて学ばせる、庶民で習うなら家庭教師が必須になり、その費用は

一般庶民の稼ぎ程は最低必要で贖えるとは思えない

もし踊れても…衣装。化粧、小物…無理な話

だけど、出来るからこその貴族様なのです。


ーセルシャ帝城

 パーティ会場は帝城の中ホールで行われ

伯爵位以上の縛りで成人15未満、8歳以上の子持ちで有る事、

その年齢ならば同伴の子の数は制限しない、夫婦の同伴必須、

招待状は出さず、布告して申し込む形式を取った。

 祝い品、返礼品無し、食事代程度の軽い会費制としたが、

これは成人前の子、しかも後継ぎで無い子が登城できる稀な機会で有り

二度と無い事かもしれぬ異例の出来事で、世間を驚ろかせた。

参加者は200名を超え、大人より子供が多い


「今日の主役の御紹介です…」誕生会が始まった

「例年はアンナ姫とリンダ姫だったわね」

「今年からイムールの坊主が参加する、…ほう噂とは違うな」

「噂って?」「S級ランクで城には稀に帰るらしい」

「10歳よ」「クランの屋敷持ちでこの帝都エリアン、公都レフランスター

副都マタンロン等数カ所に有るらしい」

「冒険者って言うけど、見た目や雰囲気に粗野さ無いわよ」

「ああ、それは私も感じた、むしろ洗練されている」

「姫達も可愛いから、美人に変わってきてる、嫁に欲しい」

「貴方私を散々口説いといて…」「冗談だすまん」

「家の子の誰かが、3人の誰でもいいからハート掴めないかしら」

親としての切なる願いだろう


 「本日は帝のお出ましは控える、代理をマイケル様に託す旨の

ご沙汰により、開催のお言葉をマイケル様より頂きます」

「僕の名前はマイケル・イムリー・ドラゴニア、イムリー第四王子

 知らぬ者が多いだろうから、まずは自己紹介

このままだと捨扶持食いだが、現在S級冒険者でクラン持ちが現状。

今日は誕生会と言う集いに参加してくれた事に対し、素直に感謝する

 憶測で不用の噂が嫌なので最初に大人達に今回の真意を話しておく

異例の催し故、誕生会と言う名目とその開催条件を「不信」に思い

躊躇する者が多かろうと、餌を付けた。

 家の後継ぎが成人の儀に登城する以外、無いであろう城への入場

生涯で有るかの帝城での一家で食事と料理が味わえる

その価値以下の、僅か対価で夢がかなうのだ。

その事はこちらも十分承知の上でだ」ぐるりと回りを見回す

 「更にあわよくばと願う事も解る、縁を結ぶ糸口がパーティー開催の

目的ならば、今回は僕ら三人の縁に繋がる者探しをしてみたい

それが主催の理由だよ、現在の三人の周りに居ない人材の発掘さ」


 「子供は僕の方へ集まって、親は其方に居てね」

「嫌だ、ママから離れたくない」騒ぐ子も「いいよママといてね」

8歳以上でも親離れが出来ていないのが、何人もいるって…

「もう暫らく付き合ってくれる、終われば食事OKだよ

 はーい、子供達に質問です、両親に賢いと言われる子…

「私より可愛いと思う子」アンナがお道化る、…

「走るの早い子」他愛無い質問を続ける


 「後継ぎと決まっている子、親の所へ戻って」

「女の子で許嫁がいて、相手が好きな子、親の所へ戻って」

「僕より強いと思う子は手を上げて、親の元に戻って」

「馬鹿が相手はS級…」【親御さん口出し無用】何だ動けず声が聞える

「…、親の元に戻って」と繰り返し10人程に成り親子共々別室へ

 「ご苦労でした、お待たせしました食事をしてお帰り下さい」

「「お~っ」」王城では普通見られない光景が、そこには有った


 別室では「あれっ、料理の種類が違うんじゃない、豪華よ」

「あの柱みたいな筒状の物は何だろ?」

「蟹の身に似てるわよ、赤みを帯びた、フワフワは蟹よね」

「肉も霜降りだわ、」「パパ見て、一枚が厚くて大きい」

「匂いが嗅いだ事無い香りよ」

 「家族分のテーブル席は用意して有ります、案内を」給仕に目配せ

「お食事を始めてください、僕らが順に席に伺います」


 数家族と話を済ませ、次に行こうとする矢先にフランツの姿が目に入る

先代の兄弟筋の公爵だが分家に成り格が下がる、フランツの従兄妹だろう

「フランツ兄、知り合いかい?」

紹介で予想道理だった、学友、親友、幼馴染で遊び仲間、同じ境遇

「マイク頼む、この二人も仲間にしてくれ、この妹は俺の恋人だ」

「妹さんの扱いは如何するの?」

「お転婆で共に行動させたい」

「叔父上に伺います、僕らの勝手な言動、お許し頂けるのでしょうか?」

「マイク殿を見て決心がついた、あのフランツ殿の変貌、何が有ったか

知らぬが良き方向であり、将来は主なのだろう貴方を見て、こちらから

お願いしたい、二人を頼みます」頭を下げられてしまった

公爵が頭を下げたのだ、親の立場では結構大変な問題だったのだろう


 侯爵の様子を見て、他の親も理解を示した

結果数人の人材が増え、クランも活動が活発化していく。

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