仲良しな、ふたり***
広い背中が雨に濡れていく。
傘を広げるタイミングもないまま、水溜まりを踏みつけ赤い信号を無視し、雪崩れ込むようにカラオケに連れ込まれた。
個室に入ってからずっと、赤司は俺に背を見せ続けた。
俺は立ち竦んで、何となく拒絶されている気がした。
男でも女でも好きで付き合うなら非生産的でもいいじゃん。
というのが俺の嗜好だ。
俺と赤司は優等生風と不良風。
別にいいじゃん、何が違うの?
遊びに行けば同じ所で楽しめる。
勉強すれば互いの弱点を補える。
話せばどんどん愛しくなる。
キスしたい抱き絞めたい抱きたい。
それじゃ、駄目なのか?
もう、嫌なのか?
やっぱ、不良な赤司に俺は気詰まりか。
別れ、たいのか。
身体は俺みたいなのに仕込まれちゃったからあれだけど。
心はもう、あれってことか。
でもさっきの腕組みとかは?
別れる前の、選別的な?
なんとなくこれが答えのような気がして、目の前が白くなってきた。
足元から力が抜け膝が笑い始める。
情けないのでソファーに座った。
座ったついでにまた溜息が出てしまった。
赤司は背を向けたまま、無言だ。
格好いい背中だ。
でもそれを見つめるのなら眼鏡男子じゃなくて、愛らしい女子の方が良いか。
自虐な思考に泣きたくなる。
頭を抱えてみる。
どっかの誰かのヘタクソな歌が聞こえるだけ。
「すえ、わたり…」
「ん…何…?」
とてもじゃないけど顔を上げられない。
俺は床に向かって返事をした。
踵を返した赤司の汚れたスニーカーのつま先が視界に入る。
息をひとつ呑まれる。
ああ、言われる、聞きたくない。
別れようって、言われたくない。
「…末渡…俺、お前の邪魔か?」
予想と違った質問だった。
耳を疑った。
何言ってるんだ赤司。
理解出来ず顔を上げた俺に、
「カンケ-ねぇって言えよ…」
親とはぐれ迷子みたいな顔して赤司が下唇を噛みしめた。
握り固めた拳の切ない震えかたときたら。
石のようなその拳を俺は両手で包み込み引き寄せる。
隣に座るように促すといじけた子供みたいに足をもたつかせ、赤司は力なくソファーに腰を下ろした。
肩を落としがに股座りで無言。
喧嘩に負けてへこんでいるようにも見える。
俺は慰めたくて背中を撫でた。
「…誰かに何か言われたんだ?」
無言で、んっと頷かれる。
虐められた子みたいだ。
いや、教師に虐められたから変わりないか。
嫌な教師ってのはいるけど、とびきり嫌な教師もいたもんだ。
大方予想はついているけどね。
「…小津に…末渡は国立目指しているんだから、お前みたいな輩が邪魔すんじゃねぇぞっ…て」
今にも泣き出しそうな語尾につられて、俺まで泣きたくなる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。