星の海に身を委ねて
2025年夏。
世界各地で、この世の終わりと思える大災害が起こった。
噴火、地震、洪水、津波。
今まで、人間を含めた生物が生きてきた陸地は、ほぼ水によって覆われ地球上の陸地は1割未満となっていた。
多くの人間は、津波による洪水や川の反乱による浸水等で命を失っていった。
あれから1年。
人間の人口はもう500人をきっている。
そんな中、未だに海に漂うコンクリートで出来た小さなアパートで1人暮らす少女が居た。
1年間水に浸りっぱなしで風化したコンクリートは腐食されていっていて、いつ崩壊してもおかしくない程ボロボロだ。苔まで生えている。
そんなアパートで1人、少女はどのようにして生きていたのかって?
それは、元々アパートに置いてあった大量の食糧とたまたま在った釣り道具のお陰である。
しかし食糧にも魚を釣る気力にも、ましてや1人で生きていく精神には当たり前ながら限界があった。
それは、そんな限界が来てしまったある夜。
少女は、いつも通り寝床があるアパート屋上に居た。
濃紺の夜空には、色付きのガラス片をちりばめて光を当てたかのようにキラキラと星々が輝いていた。
アパートが浮かんでいる海にも、その星々が写っていて、まるで鏡のようだ。
これなら、海と宙が逆転しても分からないだろう。
それだけ本当に、アパートの周りには星の海が広がっていたのだ。
そこで、ふと少女は思い出した。
昨日読んだ、不幸な女の文章を思い出した。
「神に捨てられたって………あれだけで捨てられたって言うんなら、今はなんなの!!」
1人で、嗚咽を漏らしながら少女は叫んだ。
聞く者が、居なくても少女は今ある精一杯の力を声に込めた。
災害で、両親を失い、友を失い、師を失い─────。
少女は、手の内に在ったものを全て奪われたのだ。
「もう、……みんなに会いたいよ………」
あの女の様な最期は迎えたくない。
そんな、プライドが少女にはあったが、そう言い続けるにも限界があった。
1年間、1人で孤独に生活している内に精神が駄目になってしまったのだ。
〖神様は居ない。居たとしたら、私達人類を捨てたのだ。〗
ただ、どれだけの歳月が経とうと少女はこれだけは忘れまいと、毎日、天に向けて思い続けた。
もう、楽になっても良いよね?
両親が命を掛けて守ってくれた自分の命も、誰も見てくれなきゃ意味を成さない。
「早く、、、、早くみんなに会いたいよ───。」
そう言って、ボロボロに傷んだ服を身に纏った少女は、星の海に向かって走り出した。
筋力も、精力も、気力も既に底尽きたその少女はフラフラしながらも確実に星の海へと歩みを進める。
そして────。
少女もまた、あの不幸な女のように、星の海に自身の身を委ねて落ちていった。
ビルの屋上からは銀河が見えた 十六夜 水明 @chinoki
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