11月25日 16:58 ハーフタイム
オーストラリアという開催地。U17という年代別の大会。
しかも、超強豪ではない日本の試合ということで、試合を見ている者自体はそれほど多くない。
しかし、この情報化社会である。日本が前半だけで4点取ったという衝撃的な展開とともに色々なところで語られる。
場所がオーストラリアであることと、陽人がコールズヒルと交渉しているということで、イギリス系のメディアは多少日本の動向を気にしていた。日本の記者会見にも、若干名が参加していたこともある。
最初に絶賛したのは、彼らである。
『日本、非常にミステリアスな戦い方でスペインから前半だけで4点を奪取。どのような秩序で動いているのか不明だが、非常に爽快な戦い方だ。日本チームの戦術はコールズヒルが将来的な獲得を目指すハルト・アマミヤが立てている。ロッジはこの前半を見て満足しただろうか。あるいはよりビッグなチームの横やりを恐れただろうか』
『世代別とはいえ、ここまで圧倒されるスペインを見ることはそうはないが、若いサムライ達は彼らをトリックにかけたようだ。前半のスペインは大パニックだった』
ただし、この時点ではまだ日本がどういう戦い方をしていたかははっきりとしていない。記者達が「ミステリアスなサッカー」と表現したように、何か違うことは分かるが、何が違うかははっきりしない。
スペインがペースを落とした前半の半ば以降は日本もペースを落としていたこともあって、本当に機能していたのは15、6分だけ。見極めるには時間が短いこともある。
しかし、偶々この試合をスタンドで見ていた元オーストラリア代表でスペインでもプレー経験のあるジェフ・カルドーソがハーフタイム半ばくらいに投稿をした。
このコメントが一気に広がることになる。
『日本対スペインの試合を見ているけれど、前半終わって日本が4点勝っている!
日本は信じられない戦いぶりだ。サムライのように強く、ニンジャのように目まぐるしくポジションを移動させているんだ!
オーストラリアと試合していた時も強かったけれど、更に強い。とんでもない連中だ!』
カルドーソはそう投稿して、試合開始直後の写真、先制点のシーンでの写真、2点目のシーンの写真を掲載し、それぞれのシーンで稲城と陸平がどこにいるかを囲う。
『最初はCFだったイナキが、先制点の時点では右サイドにいる。更に2点目ではアンカーのポジションだ。これだけだと彼が自由に動いているように見えるけど、注目すべきはそれぞれの時のムツヒラのポジションだ。アンカー、左サイド、CFと彼はイナキの正反対のポジションにいるんだ! 他の選手もそうで、4バック以外は周回しているんだ! そしてサッタだ。彼の動き自体はゴール前を狙うという単純なものだが、スタート地点が違うからスペインは彼がどこから来ているのか見えなかったんだ! まさにニンジャサッカーだ!』
このコメントを見たサッカーファンが面白がって「ニンジャジャパンだ」と騒ぎ始め、しばらくするとそれが日本にも伝わる。
たちまちトレンドに『U17 Japan Ninja』、『ninja football』、『忍者サッカー』といったワードが入ってくることになった。
と同時に、テレビで観ていても何となく分からなかった状況を、多くの者が理解し、SNSを中心に慌ただしいことになる。
『試合中に中盤と前線が周回しているってどういうこと?』
『瑞江がセンターハーフになってるときもあるわけ?』
『あった。前半12分あたりとか26分とか』
『だから高踏のメンバーばかりだったのか』
『ちょっと待って。高踏ってそんなとんでもないサッカーしているのか!?』
『いや、去年の選手権やインターハイではこんなポジションチェンジはなかった。ハイプレスハイラインは凄かったけど』
『ただ、選手は滅茶苦茶替えていたな。色々なポジションをやっていたし、やろうと思えばやれる素地はあったのか』
続いて、今後に向けての話が出て来る。
『この忍者フォーメーションって、日本の選手がミスしなければ相手には対処不能?』
『分からん。相手は周囲の選手がグルグル変わるから、滅茶苦茶混乱するのは間違いないと思うが。しかも日本はゲーゲンプレスかましてくるから、落ち着く時間がなさそう』
『ということは、日本、もしかして優勝候補筆頭になったん?』
『ずっと出来るならな。これはやる側も滅茶苦茶疲れそうだ。ゲーゲンプレスは体が超ハードなうえに、自分達のポジションがコロコロ変わるから頭もヘトヘトになりそう』
『これは高踏のメンバーしか無理だろ。寄せ集めの他のメンバーにはできない。今日勝っても準決勝でもう一回できるかは分からん』
『でも、前の回っている6人に武州総合の選手がいるぞ?』
『楠原はゴーグルの知的キャラだから』
『……それより、天宮ってここまで出来るならA代表に呼んでもいいんじゃないか?』
『A代表でこれじっくり教える時間があるかなぁ』
『代表専門選手が沢山出て来そうだ』
議論や意見が急に活発になっていき、世界の関心も高まっていく中で後半が始まる。
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