二度目の選手権予選

9月21日 二つの組合せ抽選会

 9月21日。


 この日は期せずして二つの抽選会がある。


 まずは14時から。


 高校サッカー選手権大会の県予選組み合わせ抽選会が行われる。



 昨年は地域予選から参加していた高踏高校であるが、昨年の県予選代表、今年の総体代表という成績を評価されて、今回は第2シードである。


 すなわち第1シード深戸学院、第2シード高踏、第3シード鳴峰館、第4シード珊内実業、第5シードが鉢花となっている。



 事前の展望としては、第2シードながら昨年から圧倒的な強さを見せている高踏が大本命となるはずであった。


 しかし、あまりに強いことから11月のワールドカップに相当数の人数が招集されることが濃厚となっており、代表中心の練習シフトにせざるをえないという情報も出て来ている。


 瑞江、立神、陸平らがいない高踏ならば、あるいはワンチャンスあるかもしれないという評価が出るとともに、第5シードに回った鉢花と、シードされていないがここに来てリーグ戦で急激に調子をあげてきている樫谷高校がどこに入るかが注目となっていた。



 14時から始まる抽選会には、昨年同様陽人は参加しない。行って何かが変わるものでもないので、真田が確認に向かっているだけだ。


 16時にその真田から連絡があった。


 高踏はシードされているので2回戦からの出場だ。従って初戦の相手は確定ではないが。


「あら、また竜山院が濃厚?」


 隣の山には竜山院が入っている。対戦相手は地域予選からの勝ち上がりだから下馬評では竜山院になりそうだ。


 シードから漏れた有力校としては、鉢花は深戸学院の山に入り、樫谷は鳴峰館の組に入った。


「ということは、樫谷が鳴峰館に勝てば準決勝で当たるのか」

「そういう上から目線は感心しませんよ」


 篠倉と鹿海の会話に結菜が入ってくる。


「相手は格下かもしれませんが、どんな相手でも試合開始時は0-0です。油断禁物です」


 結菜が気を引き締めていると、我妻がびっくりしたように入ってくる。


「どうしたの? 珍しいね。いつもは先頭切って、『誰が相手でも勝つのみだ』とか言ってそうなのに?」


 確かに結菜の性格からすると、「気を引き締めましょう」というよりは「絶対勝つ!」くらい言いそうである。


 本人もそれは分かっているようだが。


「そうなんだけど、夜はワールドカップの組み合わせ抽選があるでしょ。どうしてもそっちに気が行きがちだから、気を引き締めているの」


 そうでなくても夜に意識が向いていて、更に浮かれていたら本当に足をすくわれかねない。そうした言葉に周囲も「確かに」と納得した。



 そう。


 20時からはオーストラリアで開催されるU17ワールドカップの抽選会が続く。


 こちらはグループリーグの対戦相手が決まるものなので、高校サッカーの県予選よりもより気になるものだ。


 陽人と結菜は、20時前から居間にタブレットを置き、FIFAの生中継を見られるようにしながら、テレビでは昼間の練習映像を確認する作業を並行して行う。


 陽人は対戦相手はあまり気にしていない。気にしているのはグループだ。


「できればBグループとかCグループに入りたい」というのがそれである。


 理由は単純で、早いグループならば登場が早いからだ。


 登場が早いということは、それだけ休養の日数が増えて有利になる。


 グループAには開催国であり、アジアのオーストラリアが入るから、日本が入れる一番早いグループはBだ。


 しかし、希望と裏腹に、日本が入ったのはグループEであった。


 グループはFまでなので、日程的には不利な部類に入る。


「ま、日程の有利不利が影響してくるのは準決勝くらいからでしょ。そこまで進めばまあまあ成功だからいいんじゃない?」


 コーヒーを入れながら、結菜が気楽に応じている。


 更に埋まっていくグループを見ながらこうも言った。


「日程は不利かもしれないけど、対戦相手的には恵まれているんじゃないかしら?」

「どうだろう? 下の世代だから、A代表の実績は参考にしかならないからな」


 日本の組に入ったのは、ヨーロッパからドイツ、アフリカからアンゴラ、北中米カリブからカナダである。ドイツ以外はサッカー的にはピンと来ない地域ではあるが、カナダは移民選手が多いし、アンゴラは旧宗主国ポルトガルでプレーしている選手も多い。


「昼間、相手を侮るな、油断禁物とか言っていただろう?」

「アハハハ、確かに。隣のグループはどうかな?」

「24か国参加だから、隣はあまり関係ないんだよ……」



 32か国参加のワールドカップであれば、8グループの上位2か国が勝ち抜き16か国。決勝トーナメント初戦は隣の組と対戦する。


 しかし、U17ワールドカップの参加国は24。6つのグループの上位2位以内に加えて3位になった6チームから成績が良い4チームも決勝トーナメントに勝ち残る。


 それらのチームを交えた抽選で決勝トーナメントが決まるため、現時点では勝ち抜いた時にどの国と当たるのか見当もつかない。


「それもそうか。ややこしいね」

「逆に、次の相手が分からないから、全試合しっかり戦うしかないし、最後まで諦めず戦う必要がある。そういう点では良いんじゃないかな」


 開始から20分、グループリーグが決定した。


 A:オーストラリア(開催国)、コロンビア、アメリカ、ニュージーランド

 B:フランス、ナイジェリア、チリ、トリニダード・トバゴ

 C:スペイン、アルゼンチン、カタール、ニューカレドニア

 D:ブラジル、イタリア、韓国、アルジェリア

 E:ドイツ、日本、アンゴラ、カナダ

 F:メキシコ、カメルーン、デンマーク、サウジアラビア



「選手権もワールドカップも組合せが決まった。あとは来月と再来月、ひたすら頑張るだけってことだな」

「そうだね。翌々月もあるようにしないといけないけどね」

「それは、雄大と自称第二監督に期待しているよ」

「アイアイサー」


 結菜はおどけたように敬礼した。

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