8月28日 18:45 高踏クラブハウス内
合宿は4日目を迎えた。
「ふーむ、さすがに高踏の面々のようにローテーションとして機能させるまでには至らないが」
峰木が興味深そうに代表組の対抗戦の様子を眺めている。
「本来のポジションに置いた時の動きは初日より格段に良くなったね。個々の判断が良くなっている」
「そうですね」
陽人も応じる。
実際、手ごたえはある。もちろん、慣れてきたからというのはあるが、全体の動きがなめらかになっており、ポジションを移動させても何とか対応しようという意識を見せている。
「最終日はどうする?」
陽人は初日に、「最終日は状況を見て、対抗戦をするか、変わらぬフォーメーション練習をする」と言っていた。どちらにするのか。
「そうですね……」
「真人、隆義」
練習終了後、陽人は鈴原と芦ケ原、更には武根を呼んだ。
3人とも「一体何なんだ」という不思議そうな顔でやってくる。
「謝罪するというようなことではないんだが、一応断っておきたくて」
「断る? 何を……」
「先ほど峰木さんとも話をしてメンバーを大体固めた。申し訳ないが、君達3人は今回の代表には選ばれない」
3人は一瞬、目を見開いた。
「いや、それはそうだろ。別に謝られることでは……」
鈴原がそう言って、ハッと気づく。
「……俺達3人が選ばれないと呼ばれたということは……?」
逆説的に言えば、Aチーム11人のうち残りの8人が選ばれるということになる。
陽人も頷いた。
「あとは真治も候補に残った」
「……そういうことか」
芦ケ原も武根も頷いた。
いくら共同合宿をしているとはいえ、瑞江、立神、陸平以外は「俺達は当然代表だろう」とは思っていないし、外されても「それはそうだろう」くらいの感覚でいるはずだった。
しかし、11人中8人が選ばれて、自分達だけが外れたとなると、やはり複雑な物がある。
それがあるから、陽人はあらかじめ話をしたのだろう。
「あと、Bチームと1年からの招集はない。1年から選んでも良さそうな選手はいると言っていたけれど、そこまで招集するとウチが県予選を戦えなくなるし」
「県予選?」
「あぁ、来週以降も週末は代表メンバーの結構な人数が来るみたいで、そうなると練習させるしかなくなる」
遠路はるばる北日本、洛東平安、更にはユース組もトップチームのメンバー入りしている緒方を除いて来るという話になっている。
そうなると、彼らだけ独自に練習させるというわけにもいかない。高踏の主力組も帯同させざるをえなくなる。日程的に土日の試合には非常に出づらくなる。
「だから、県予選はBチームにお前達3人と1年組とが主体になって戦うことになる。ひょっとしたら本大会もそうなるかもしれない」
U17ワールドカップから冬の選手権までは1か月近いブランクがある。
とはいえ、代表に行った後、コンディション調整が難しいのはインターハイでの3人を見ていても明らかなところだ。全員が全員ベストで戻ってくることは期待しづらい。
3人はしばらく無言だったが、ややあって鈴原が口を開いた。
「入学した時にはこんなこと、とても想像できなかったな」
「全くだ。県の四強とどうやって戦おうかくらいに考えていたのに」
3人とも、高踏に来た時点では、まあまあ実力がある選手とは言われていたが、県代表などを狙えるようなものではとてもなかった。
それが今や「日本代表に呼べなくて悪い」などと言われるくらいにまでなったのである。
上を見れば欲にキリがないが、最初を考えると到底考えられない。
「……代表で戦うよりも、主軸不在の高踏で戦う方がプレッシャーかもしれないなぁ」
アジアならともかく、ワールドカップである。もちろん、高い地位を狙いたいのはやまやまだが、グループリーグを勝ち抜けばある程度は許されるところもある。
高踏の県予選はそうはいかない。主力がいないと言っても、県代表になることが求められる。そこに主軸として臨む立場はプレッシャーが大きい。
「……おっと、回答をしていなかった。確かに3人だけというのは肩身が狭いが、仕方ない話だろう。県予選を勝ち抜いて、入れておけば良かったと思わせるようにするだけだ」
芦ケ原が答えて、鈴原と武根もそれに続く。
陽人も笑った。
「ああ、是非そう思わせてほしい」
その日の夕食の途中、峰木が立ち上がった。
「これから、11月に向けての仮メンバーを発表する。1人を除いてまだリザーブメンバーを誰にするかは決めていないが、負傷者が出た場合を除き、これから挙げる選手以外を呼ぶことはない」
そう言って、どよめきの中で26人のメンバーを発表した。
GK:
DF:
MF:ディエゴ・モラレス(さいたまU18)、上木葉尚樹(洛東平安)、高幡昇、楠原琉輝(武州総合)、小切間浩章、石代崇(北日本短大付属)、陸平怜喜、稲城希仁、戸狩真治(高踏)
FW:星名太陽(ウェストミンスター)、
リザーブ:天宮陽人(高踏)
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