第68話 森の魔女タフタ



「お菓子おいしー!」



「うふふ、気に入ってもらえて嬉しいわ」



 大魔樹の庭に住んでいるという魔女のタフタさんに出会った俺は、タフタさんの家にお呼ばれして、美味しいお菓子とお茶をご馳走になっていた。

冒険者学校の試験対策? ちょっとそれは、お菓子食べたあとにしようかな。



「でも、このクッキー? 見た目がすごいね……」



 俺が今食べてるクッキー、なんと指のような見た目をしているのだ。食べてみると普通に美味しいんだけど、結構リアルでちょっと不気味だ。



「これはスイート・フィンガーっていう、魔女が作る伝統的なお菓子なのよ」



「そうなんだ」



「このレッドベリージャムを付けて食べるのがオススメなの」



「見た目ヤバいね」



 リアルな指の形をしたクッキーに真っ赤なジャムを付けて食べる。まるでヴァンパイアにでもなったみたいだ。いやまあさすがに指まで食べないんだけど。



「あ、このジャム甘酸っぱくて美味しい」



 タフタさんが淹れてくれた薬草茶も飲んでみる。なんだかすごく爽やかな香りがする。



「すごい良い香りがするね。何が入ってるの?」



「スカイミントよ。身体に溜まった毒素を出してくれるの。酒精に漬け込んで成分を抽出すると薬にもなるのよ」



「あー、たしか魔素中毒に効くっていう……」



「あら、その通りよシュータくん。よく勉強してるのね」



 まあここに来る前に図鑑で調べてたからね。しかも間違えたし。



「やっぱ魔女ってみんな薬草とかに詳しいの?」



「そうねぇ、魔女といっても、専門にしてることは人それぞれだから、詳しい魔女もいれば、薬草は基本的な知識だけって子もいるわね」



「そうなんだ」



 薬草や薬作りを生業にしている魔女や、魔法の探求が好きな魔女、使い魔の研究をしている魔女……魔女は色々な分野で活躍しているそうだ。



「ちなみにタフタさんは?」



「わたしの専門は“魔素”よ。人間にとっては毒だから、みんな食材から魔素抜きしていらない物として扱ってるけど、魔素には物凄いエネルギーが込められているの。例えば魔素を凝縮して結晶化することによって充填剤式魔道具の……」



「ま、魔素ね、わかったわかった、なるほどなるほど。じゃあ続きはWEBで」



 タフタさんがいきなりスイッチが入ったように早口で難しいことを話し出したので慌てて止める。



「あ、あらあら急にごめんなさいね。自分の専門分野のこととなるとつい喋りたくなってしまって。うぇぶってなにかしら?」



「最先端の魔道具だよ。まあそれは置いといて……それじゃあ薬草とかは詳しくないかあ」



 タフタさんに薬草の見分け方とか教えてもらえれば、と思ったんだけど。



「薬草全般っていうとそこまでだけど、この大魔樹の庭にあるものなら詳しいわよ。結構長くここに住んでるし、もうわたしの庭みたいな感じかしら」



「じゃあ、スカイミントとフリーズミントの違いとかも分かる?」



「ちょっと待ってね……はい、こっちがスカイミント。葉先が青寄りの水色。こっちのフリーズミントは翠寄りの水色」



「うーん、比べてみると確かにちょっと違うかも……」



 タフタさんが実物を持ってきてくれる。図鑑の絵だと細かい所まで分からないし、うーむ、こんなん試験で出されたら厳しいぞ……



「シュータくんは、薬草専門の魔法使いにでもなりたいのかしら?」



「えっ? いや、そういうわけじゃないけど」



「あら、てっきりこんなダンジョンの奥地まできて薬草探しをしてるから魔法使いを目指してるのかと思ったのだけれど」



「ああ、実は……」



 俺はタフタさんに冒険者学校の入学試験対策でこのダンジョンへ来ていること、薬草探しをやってみたはいいが正直全然分からなくて途方に暮れていたことを話した。



「しばらくこのダンジョンで薬草について調べてみるつもりだけど、なかなか難しそうなんだよね」



「なるほどねぇ。そういうことならわたしに任せなさいな」



「えっ?」



「言ったでしょ。この大魔樹の庭に自生している植物には詳しいの。シュータくんさえよかったら、試験に合格できるよう色々教えてあげるわ」



 ありがたいことに、タフタさんの家にしばらく寝泊まりして、薬草採取や毒草との見分け方など、色々と教えてもらえることになった。

これなら試験パーフェクト合格でA級特待生も夢じゃない……よーし、学食食べ放題目指してがんばるぞ!



「それじゃあタフタさん、これからよろしくお願いします!」



「ええ、よろしくねシュータくん。あ、その代わりと言ってはなんだけど、シュータくんに手伝って欲しいことがあってぇ……」



「俺に出来ることっだったらなんでも手伝うよ!」



 これからお世話になるのだ。掃除でも洗濯でもどんとこいである。



「助かるわあ。若い子じゃないとダメだったから、シュータくんが来てくれて本当によかった」



 ……なんで若い子じゃないとダメなんだろう。力仕事とかかな?



「それじゃあシュータくん、さっそくなんだけど……」



「うん!」



「ちょっと裸になって、そこの調合釜に入ってもらえるかしら?」



「分かった! 裸になって、調合釜に……」



 ……。



 …………。



「えっ?」

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