第67話 カラスを追いかけて
「くっそ~カラスめ、どこ行った~……?」
ハルニカンを盗んだカラスを追いかけていたら普通に見失った。
「おっかしいな~さっきまで目の前飛んでたのに」
もうちょっとで捕まえられそうだったのに、まるでいきなり消えたようにいなくなった。
「まさか、忍法隠れ身の術……?」
(シャドークロウは忍法を使いません。また、忍法という単語は現在使用されておりません。忍法を登録しますか?)
「しなくていいよ! ちょっと言ってみただけだよ!」
てかシャドークロウっていうんだあのカラス。名前カッコいいな。
「……ん? なんだこれ」
森の中にポストのような物と道標がある。なんでこんな所に?
「この先、魔女の家……御用の方は合言葉を唱えてください……?」
ま、魔女の家……!? 魔女いるの!?
「テーレッテレーって感じのおばあちゃんかな」
ねっておいしい〇るねるねー〇ね。
「それにしても合言葉かあ……いや知らんけど」
多分知り合いの魔女とか魔法使い向けのやつなんだろうな。
「魔女の家なんか行ったら薬の材料とかにされちゃいそうだし、カラスも見つからないし、とりあえずたき火の所まで戻るか」
少し森の奥の方まで入ってしまった気がするし、戻りながら薬草探しをしよう。もっかいハルニカン見つかるといいなあ。
「リネンさんの為にシソーバーも見つけないと。あっそうだ! ウサビーム・パイソンの肉をシソーバーと一緒に食べたらめっちゃ美味いんじゃないか?」
このタイミングで最強の食べ合わせを思いついてしまったかもしれない。シソーバー食べたことないけど。
「ウサビーム・パイソンのお肉で“シソーバーのはさみ焼き”……うん、絶対美味い気がする。よーし、頑張って見つけるぞー!」
“合言葉を検知しました”
「えっ?」
“魔女の家へようこそ”
「ようこそって言われても……」
あーこの流れはあれだな、なんか知ってる気がするぞ……
……。
…………。
「やっぱりね……」
振り向くと、さっきまで木々が生い茂っていた所に開けた空間が現れ、そこには小さな池とログハウスのような小屋が建っていた。
「たぶんあれが魔女の家、だよね」
これ、死霊の館で見たやつだ!(進〇ゼミ)
「カー」
「あっあのカラス!」
屋根の上から俺のハルニカンを盗んだカラス……シャドークロウがこちらを見下ろしている。
「アイツ、もしかして魔女の使い魔か?」
だったら魔女に一言文句を……いや、でもなあ……怒らせたら大釜にぶち込まれちゃうかもしれないし……
ギィ……
「あらお客さん? 珍しいわねぇ」
「あっその、俺は……」
家の中から優しそうなお姉さんが顔を出した。あの人が魔女だろうか
「オウオウ随分若い魔法使いだナ。もしかしてアレか? 幻影魔法で見た目をいじってんのかナ?」
「えっ?」
お姉さんが被っているとんがり帽子がいきなり話しかけてきた。そ、それってホグ〇ーツの……
「口が悪いわよオーガンジーちゃん。いきなりごめんなさいねぇ。わたしは魔女のタフタ。あなたの名前は?」
「俺はシュータ……です。あと魔法使いじゃない、です」
やっぱり魔女だった! てか喋る帽子、すげー!
「あら敬語なんていらないわ。それにしてもよくここにたどり着けたわねぇ。入り口には結界を張ってあったのだけど……」
「なんか、たまたま呟いた言葉が合言葉だったらしくて……シソーバーのはさみ焼き」
「あ、あらあら。なんだか恥ずかしいわねぇ。わたしの大好物なのよ」
頬に手を添えて恥ずかしがるタフタさん。なんだか思ってた魔女と違うな……しわしわのおばあちゃんか、キャンディみたいに見た目は子供、頭脳は拙者みたいな感じかと思った。
「そういえば、シュータくんはどうして大魔樹の庭に来たのかしら? 子供が1人で来るには危険なダンジョンだと思うけれど」
「ちょっと、薬草採取の勉強でね。それで、ごはんを食べて休憩してたらデザートのハルニカンをあのカラス……じゃなかった、シャドークロウに取られちゃって」
「カーッカッカ」
「あらそうだったの。わたしの使い魔がごめんなさいねぇ。あの子はキラキラしたものを集めるのが好きだから」
やっぱカラスじゃん。確かにハルニカンの実は宝石みたいで綺麗だった。
「ネルちゃーん、ひとの物を取ったらダメでしょ」
「カー?」
「お仕置きよ」
「カ、カーッ!」
「ハング」
タフタさんが呪文を唱えると、屋根に絡みついていたツタが素早く動き、ネルと呼ばれたシャドークロウを捕まえて逆さ吊りにする。
「そこでしばらく反省よ」
「カー……」
い、意外と容赦ないな。ネルちゃん、ちょっとだけチクッてごめんなって気持ちになった。
「さあ、せっかく来てくれたのだし、シュータくんさえよかったら上がっていって。美味しい薬草茶とお菓子があるの」
「お菓子! やったー!」
お菓子くれる! 魔女やさしい!
「うふふ、さあ中に入って入って」
「おじゃましまーす!」
「……うふふ」
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