第66話 大魔樹の庭



「ふう、やっと着いた。ここが大魔樹の庭……」



 冒険者学校の入学試験対策の為、ダンジョン「大魔樹の庭」へ出発して3日が経過。

ようやくたどり着いたのは、中央にありえないくらい巨大な木が生えている広大な森だった。



「あれが大魔樹かー。高すぎててっぺんまで見えないや」



 大魔樹の頂上は雲に覆われている。昨日からあの木自体は見えてたから、もうすぐ着くかなーと思ってたらそこから丸1日かかった。木が大きすぎて距離感が掴めなかったのだ。



「よーし、それじゃあさっそく薬草探しを始めようかな」



 リネンさんにお願いされてるシソーバーも見つけられるといいな。シソーバーのはさみ焼き……うーむ、なんだかお腹空いてきちゃったし、先にごはんにしようかな?



「でも王都から持ってきた食料は大体食べちゃったしな……」



 食料確保も兼ねて色々探してみよう。



 ……。



 …………。



「よし採れた! えーと、これはレッドバジルかな? 香りが強く、料理の風味付けに使用……」



 (それはファイアーバジルです。食べると身体が発火します)



「こっちの葉っぱは、えーとなになに、スカイミントかな。魔素中毒の治癒に……」



 (それはフリーズミントです。食べると身体が凍り付きます)



「こ、これは、えっとー、分かった! モウドクダミーだ! 毒がありそうな派手な見た目をしてるけど無毒で……」



 (それはモウドクダミーモドキです。見た目通り猛毒があります)



「…………」



 うん、これはあれだ。なんというか。



「全くもって全然分からない!」



 なんも見分け付かないじゃん俺。



「この薬草図鑑も写真じゃなくて手描きだし。細かいとこ分からないし」



 (ワタシは全部分かります)



「そりゃすーくんは分かるでしょ」



 てか君が間違ったら、俺はファイアーバジルを食べてただのブラックボーンになってるよ。



「きっとあれだな、おなかが空いてるから頭が回らないんだな。すーくん、この辺に生えてる草とかキノコとかで普通に食べられる美味しいやつある?」



 味覚補整があるから大体なんでもいけるけど、勉強がてら、ちゃんとした食材を集めたい。



 (周囲をサーチ……完了しました。ヨクジツパラガス、アマヨモギ、ハルニカン、ブラックメッシュルームを発見。採取場所をガイドします)



「よっし、とりあえず食料確保だ!」



 __ __




「さてと……これでよし。ごはん完成ー!」



 すーくんに探してもらい、集めた食材を使ってスープを作った。まあ作ったというか、めんどくさかったから全部入れて煮込んだだけなんだけど……。



 試験中はすーくんに頼れないから、食材探しもがんばらないと。



「でもまさかお肉も確保出来るとは。あんまし美味しそうじゃないけど……」



 料理中に“ウサビーム・パイソン”とかいう魔物が襲ってきたので、ひと狩り&解体してスープにぶち込んだ。

見た目はなんというか……身体が長くて手足が無いウサギというか、ウサギの顔と毛皮を付けたヘビ? って感じ。今までに見たことなさすぎる姿でちょっと戸惑った。



 (ウサビーム・パイソンは高級食材として、貴族の間で親しまれています。また、毛皮も良質な素材であり、高値で取引されます)



「マジかよ」



 先に教えてよ。毛皮なんて食えないし、たき火の燃料にしちゃったよ。また現れたら倒して凍らせとこう。



「まあいいや。毛皮より味のほうが大事だし。いただきまーす!」



 まずはスープから。



「ズズ……こ、これは!」



 美味い! 何かのダシが効いてて、まろやかで、コクとかある感じの……



「まあなんでも良いや。このウサギヘビのお肉はどうかな~」



 食べることは大好きだけど、食レポとかは向いてないな。



「モグモグ……うわっなんだこれ! めっちゃ美味いじゃん!」



 ウサビーム・パイソンの肉はクリーミーなのにさっぱりしているという、なんとも表現しがたい、初めて食べる美味しさで癖になりそうだ。



「これはたしかに高級食材かも……」



 しばらくの間、俺は高級食材入りの適当スープを楽しんだ。次はもっと美味しく調理出来る人に作ってもらいたい気はする。



「ごちそうさまでした!」



 満腹になって頭が回ってきたし、そろそろ薬草探しを再開しようかな。てか早く動き出さないと眠くなっちゃいそう。



「あ、その前に……」



 カゴの中からさっき採ったハルニカンというフルーツを取り出す。

見た目は小さいミカンみたいで、皮を剥くとかなり弾力のある実が入っている。見た目と触った感じ、果汁グミっぽいな。光に当てるとまるで宝石のようだ。



「なんか綺麗だなー。食べるのがもったいないくらい……まあ食べるけど。いただきまー」



 シュッ



「……ん?」



 さっきまで手に持っていたハルニカンの実が無い。



「あ、あれ? 俺のハルニカンは? って、あっ!」



「カー」



「カラス!?」



 近くの木に、ハルニカンの実を咥えたカラスが止まっていた。



「カーッカッカッカ」



 バサバサッ



「あっ逃げた! 待てーっ!!」



 俺の果汁グミ返せ!!

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