第64話 樂狗亭の秘密



「朝ごはん美味かった!」



「美味かったのだ!」



 宿に泊まって、朝風呂入って、美味しいごはんを食べて……なんだか今日は、異世界に来て1番ゆっくりできている気がする。



「これが修学旅行ってやつか」



 いや多分違うんだけどさ。修学旅行も臨海学校も行く前に死んじゃったからなー。

まあ生きててもお金ないから参加できなかったかもしんないけど。



「冬の間は茶々丸くんの宿を拠点にしようかな」



「シュータくんなら大歓迎なのだ! 何泊でもしていくと良いのだ」



 凍結無効スキルを持ってるから、野宿でも凍死はしない……と思うけど、寒いものは寒いしなあ。

樂狗亭の宿代なら、俺の所持金でも余裕で足りる。他ではこうはいかない。



「よし! それじゃあしばらく泊まって……ん?」



 茶々丸くんの宿、樂狗亭があるスラムの近くまで戻ってきたら、兵士の格好をした数人の男の人がウロウロしている。



「スラムに国の兵が来るなんて珍しいね」



「な、なんかあったのだ?」



 少し離れた所から様子を見ていたら、1人の兵がこっちに気付いて話しかけてきた。



「そこの二人。この辺りの孤児か?」



「スラムに住んでるけど、この辺じゃないよ」



「え? わっちはこの辺に……ムグッ!」



 正直に言おうとしていた茶々丸くんの口を塞ぐ。



「こ、この辺りでなにかあったの?」



「ああ。実は最近、この辺りのスラムで違法な激安宿が営業していると聞いてな。国の最低基準以下の値段設定で、ギルドにも登録されてない未納税の闇宿だ。営業者は相当の悪人だな」



「……へ、へー」



「ムグ……」



「まあただの噂かもしれんし、実在するのかどうか、それとも入り口を隠して地下でやってるのか分からんが、今のところ見つけることは出来ていない……お前ら、なにか知らないか?」



「さ、さあ。俺たちは見たことないなあ……」



「ム、ムグ……」



「そうか。もし見かけたら、下層区と中層区の間の詰め所まで連絡を頼む。お小遣いをやろう」



「う、うん。わかったよ」



 しばらく捜索してなにも発見できなかったのか、兵達は疲れた顔をしながら去っていった。



「……」



「……ムグ」



「あ、ゴメンゴメン」



「ぷはっ」



 あ、危なかった、色々……。



「茶々丸くん……」



「ギ、ギリギリセーフなのだ……」



 やっぱり茶々丸くんの激安宿屋はこの国では違法だったようだ。



「登録とか納税とかよく分からないのだ……」



「俺もよく分からない」



「でもバレなければOKです! なのだ!」



 茶々丸くんが親指をグッとする。いやOKではないけど。



「これじゃあもう営業できないんじゃない?」



 しばらくの間は兵が見張りに来そうだ。もし宿が見つかって、更に茶々丸くんが人間じゃないとバレたら大変なことになってしまう。



「ふっふっふ。問題ないのだ! こんなことでわっちは負けないのだ!」



 落ち込むかと思ったけど、意外と大丈夫そうだ。



「とはいっても、ほとぼりが冷めるまでしばらくお客さんはシュータくんだけにするのだ」



「そっか。でもどうするの? 周りにバレないように宿屋に入らないと」



 普段は結界で見えないようにしてるのかもしれないけど、どっかの拍子でバレるかもしれない。



「大丈夫なのだ。それじゃあ行くのだ」



「どこに?」



「シュータくんのアジトなのだ」



 __ __



「ねこのすけ、ただいまー」



「にゃ」



 

 というわけで、何故か俺の住処に戻ってきた。



「それで、なんでウチに戻ってきたの?」



「ふっふっふ。よく見ておくのだ……ぽんっ」



 ボフンッ!



「うわっ……え!? なんか出てきた!」



「にゃっ!?」



「これって……樂狗亭の入り口?」



 ガレキを重ねて作った俺とねこのすけハウスに、突然どこで〇ドアみたいな扉が出現する。



「そうなのだ! ここで出入りすれば見つからないのだ」



「ど、どういうこと? あの宿屋って、魔法結界とかで周りから見えないようにしてただけなんじゃ……?」



「ん? 違うのだ! 宿屋はあのスラムじゃなくて、わっちの里にあるのだ! 中に入ると、里にある宿屋に転移するのだ」



「あのお城みたいな見た目は?」



「あれは幻影魔法なのだ」



 なんと、樂狗亭はスラムに建っていたわけではなくて、転移魔法で中に入った人をブラック・ラクーン達の里に飛ばしていたらしい。



「俺は昨日、ブラック・ラクーンの里に泊まってたのか……」



「その通りなのだ。人間族にバレないよう、里には出られないようにしてたけど、シュータくんなら里を案内しても良いのだ」



「その、転移する魔法とか、お城みたいな幻影を見せるのって、茶々丸くんがやってるの?」



「そうなのだ。魔法は里で1番得意なのだ!」



 茶々丸くん、やっぱりすごいやつかもしれない。



 そんな感じで、俺の住処から宿へ行き来できるようになり、樂狗亭は誰にも見つかることが無く、俺は冬の間、快適なブラック・ラクーンの宿屋で過ごしたのだった。





__ __



 しゅ、修汰くん! いくら何でも食べられるからってドラゴン娘のタマゴ(仮)なんて食べちゃダメなの!

あとそのタヌキも危険なの! 男女の友情が成立しないのと同じで、男の娘との友情も高確率で成立しないの!

まったく……それじゃあイーツは夏に向けて薄い本を描く作業に戻るの。



 ご、ごほん! とりあえず、第3章、完! 修汰くんの転生ライフはまだまだこれからだ! って感じなの。



 次章……春になり、冒険者学校の入学試験が近づく修汰くん。

試験会場に使われたダンジョンに行って、お勉強をするみたいなの。



 え!? ダンジョンにはこわ~い魔女が住んでるなの……? とかいってまたロリババアだったら更にワタシの立場がなくなっちゃうの! シワシワのおばあちゃんであることを祈っているの……

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