3章 雷鳴渓谷 編

第46話 南の街道



「……最近、魚を食べてない気がする」



 最近というか、こっちの世界に来てから魚を食べた記憶がほとんどない。

魚料理の屋台も見かけないし、市場に売ってるのもあまり見かけない。



 ちなみに最後に食った魚料理は、橋の下に住んでたホームレスのおっちゃんがくれた、コイのからあげ。



「あれはめっちゃ美味しかった。サバ缶より美味かった」



 思い出したら魚が食べたくなってきた。もう自分で獲ってこようかな。



「もぐもぐ……。というわけで、この辺に魚が獲れる川とか海とかない?」



「ウチは魚屋じゃないんだが」



「これ美味いね、なんだっけ、なんとかネズミ」



「スモールラットな」



 いつもの串焼き屋のおっちゃんの屋台で食事がてら情報収集をすることにした。

ネズミの丸焼き、見た目がちょっとアレなので食べるのに勇気が必要だったけど、味が濃厚で美味しかった。



「魚が食べたいんだけど、全然売ってないんだよねー」



「仕方ねえ、ここしばらく、南の街道が危険だからな」



「南の街道?」



「ここから南へしばらく行った先に”ザルティス湖”っていうデカい湖があるんだが、そこへ行く途中の街道にドラゴンが出没してな」



「ドラゴン……」



「王都に出回る魚はザルティス湖で獲れたものが1番多いからな。ドラゴンが居なくなるまで漁ができないってんで、魚介類の供給がかなり減っちまってる」



 ザルティス湖以外の漁場は王都から遠く、基本的には氷魔法などで冷凍して運ばないといけないので値段も高く、あまり量も確保できないらしい。



「他で獲れた魚介類は上層区や中層区の連中に優先的に回されちまって、俺たちがいる下層区には入ってこないってわけだ」



「ドラゴンは退治できないの?」



「王国の魔物討伐部隊が対応してるらしいが、かなりてこずってるらしい。なんでも凄腕のドラゴンハンターを招集したって噂もあったが……」



 魔物討伐部隊って、前に会ったデミグラ君のお父さんがいる所だよね。ハンバーグ……ドラゴン……



「ドラゴンって食えるかな」



「はっはっは! 俺もさすがにドラゴンは料理したことねえなあ」



 __ __



「というわけで、南の街道にやってきました!」



 さすが瞬足ラビットの革靴こと瞬足シューズ。近くを走っていた馬車にもコーナーで差をつけてしまった。

どうしても魚が食いたい! ドラゴンにビビってたら何もはじまらないぜ!



「おい、そこの少年!」



「ん?」



 街道の途中に馬車やテントが集まっている場所があり、兵隊のような恰好をした人たちがいた。



「ここから先はドラゴンが出現する可能性がある。通行するなら命の保証はないぞ!」



「わかった!」



 ドラゴンがいたら瞬足ダッシュで逃げよう。



「ちょ、ちょっと! ドラゴンが出るんだぞ! 引き返さないのか!?」



「魚食いたいから! じゃーねー!」



「……行ってしまった」



「おい、さっきのガキはなんだ?」



「あ、カリバーンさん。忠告はしたんですが、魚が食いたいから行くと……」



「ハッハー! 命知らずなガキだな!」



「ドラゴンが現れるのは不定期ですから、運が良ければ帰って来れると思いますが……」



「帰って来れたらラッキーだな。運は大事だ。俺みたいなドラゴンハンターには必要なスキルだぜ」



 ……。



 …………。



「迷った……」



 街道を走ってたら遠くに湖っぽいのが見えたので、直線距離でショートカットしようと思って近くの森を突っ切ろうとしたら普通に迷った。



「ここは魔獣の森じゃないからきゅーたろうもいないし……困ったなあ」



 普段から人が入る森ではないのか、道のようなものもない。



 グー……



「迷っちゃったものはしょうがない。お腹すいたし、とりあえずメシにしよう!」



 今日のごはんは俺特製、トンホーンのひき肉でハンバーグを作って、野菜と一緒にパンに挟んだビッグハンバーガー。



「もぐもぐ……うん! うまーい! 俺、ハンバーガーって大好きだな!」



 湖で魚が獲れたらフィレオフィッシュバーガーにしようかな。



 ……ガサガサ。



「もぐ……ん?」



 ……ガサガサガサッ



「な、なにかいる?」



 クマみたいな強そうな魔物とかだったらどうしよう。ハンバーガー食べ終わるまでちょっと待って欲しい。



「サンダーボールの小さいやつ……」



 ビリビリ……



 小さいサンダーボールを出して、いつでも放てるようにしておく。練習したら、大きさとか色々コントロールできるようになってきたのだ。



 ガサガサガサッ!



「ぎゃおー!」



「うわっ!」



 ビリビリビリッ!



「しまった!」



 ビックリしてサンダーボールを飛ばしてしまった。



「ぎゃ!」



「あ、当たった……?」



「パクパク……」



「えっ?」



 俺が撃ったサンダーボールが……食われてる?



「ぎゃお!」



 サンダーボールを食べ終わった(?)、魔物が近づいてくる。

大きさは、小型の犬くらい。トカゲにコウモリの羽が付いたような見た目をしている。しかもなんか……身体の周りに電気が走っている。



「すーくん、コイツって……」



(……鑑定しました。この魔物はサンダー・ドラゴンの幼体です)



「サンダー……ドラゴン……?」



「ぎゃお!」

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