第24話 おつかい再開
突然自分を様付けで呼んでくる白髪メイドがいたらどうする?
私は困惑する。
「えーと、どちら様ですか?」
至極当然という疑問に対し、ひと呼吸で息を整えた白髪メイドは、ロングスカートを指でつまみながら淀みの無いの動作で頭を下げて、
「ああ、失礼、申し遅れました。私はフィーネ、アージェ様より蜜希様の武器作成を仰せつかっております」
「アージェさんから?」
確かに、昨日ギラファさんを介して武器か何かを用意して貰えないかと頼んではいたが、先程の通信でもそのようなことは一切言っていなかったが……。
「そのご様子ですと、やっぱりアージェ様は何も説明していないのですね……」
何故だろうか、会って間もないのにこの人は信頼できそうというか、途轍もない苦労人の気配が伺えるというか。
「蜜希、フィーネの事は信頼していい、私が保証しよう」
聞こえたギラファさんの言葉は、自分の感覚を後押しするものだった。
「あ、やっぱりお知り合いっすか?」
「ああ、私や希さんの友人だ。500年前に色々あって、まあ……なんだ、今はアージェにこき使われている」
「…………あはは、ええまぁ、そんなところですね」
ギラファにしては歯切れの悪い言い回し、色々、の部分を問い詰めるのは野暮と言うものだろう。
それにまぁ、自分としては信用するだけの理由があるわけで、
「ぶっちゃけ、一目見たときから苦労人オーラ出てたっすけど、アージェさんにこき使われてるなら納得っすね」
告げた言葉の先、フィーネさんは困ったように目を伏せながら首を傾けて、
「……友人云々よりそちらで納得されるのは少々やるせないですが、疑惑が晴れたなら良しといたしましょう」
そこに関しては申し訳ないが、事実だから否定のしようがない。
と、
「話し込んでいるところ申し訳ないですけど、そこで立ち止まっていると迷惑ですわよ?」
やや離れた所から届いたパーシヴァルの声に、自分たちが完全に人通りの真ん中に立っていることに気が付いた。
「そうですね、詳しい話は街を歩きながらといたしましょうか」
フィーネさんの言葉に頷きを返しつつ、自分は先を行くパー子へと早足で駆け出しながら、
「あ、それだったらパー子、私達ちょっと行きたい所があるんすけど」
歩みを進め、、パー子へと追い付いた自分に対し、彼女は笑みを浮かべて振り向いた。
「あら、どちらですの? 私の知る所でしたら案内いたしますわよ?」
まぁ確実に知っているというか、パーシヴァルが知らなかったら誰が知っているのかと言うか。
「ええ、アーサー王の所まで案内してくださいっす」
「はい?」
そんな顔されましても――。
●
「なるほど、アージェの言いつけで王の所までお使いという訳ですのね」
「うっす、さっきのダイナミック降車のせいで箱の中身が無事かどうかが気になってるっすけどね。」
「うぐ……ッ」
言葉に詰まったパー子に対して、横を歩くギラファさんが軽く手を左右に振って、
「大丈夫だろう。その箱、恐らく内部が術式によって固定化されている、箱を開けるまでは劣化も崩れもしない」
「まーたアージェさんの規格外っぷり案件っすか?」
もはや呆れにも近い表情を零した自分へと、数歩後ろを歩くフィーネさんが否定の言葉を口にする。
「いえ、そうした贈答品に関しましては、割とメジャーな術式ですね。確かギリシャ神話のクロノスの権能を汎用化したものかと」
時間を司る神の権能と言う事は、内部で時間が停止しているから劣化も損傷もしないと言う事か。わかって来ては居たが、異常に便利な分野がチラホラと存在しているものである、流石異世界。
と、パー子が僅かに唸るような声を上げ、
「しかし、王への謁見となると少々面倒ですわね、色々手続きもありますし、ちょっと問い合わせてみますわね?」
「ありがとうございますっすー」
礼を告げた自分に片手を振りながら、パー子が通信端末を開き、呼び出し中の画面が映る。
「いえいえ、友達の頼みですもの。――ああ、アグラヴェイン卿? ちょっと数名陛下との謁見を頼みたいというか、ええ、は? 無理? 常識的に考えろ? ふーん、いいんですの? 謁見相手はアージェからのお使いで訪れた秋楡希の孫とギラファ教官ですけど? それを先に言え? この後すぐに来い? はいはい分かりましたのよ」
なにやら怒声と共に切れた通信ウィンドウを閉じ、こちらへ視線を向ける。
「さて、お許しが出たのでこのまま王城へ向かいますわよ?」
「いやノリ軽!? 手続きとは何だったんすか!」
「そういうのはアグラヴェイン卿に任せておけばいいですわ、口うるさいのでちょっと面倒ですけれど」
アグラヴェイン卿が不憫すぎやしないだろうか、と思っている自分の雰囲気を察知したのか、補足する様にギラファさんが口を開いた。
「アグラヴェインは前王時代からの円卓最古参でな、500年前の戦乱の関係で、アージェや希さんに頭が上がらないのだよ」
「さらっと除外してますけど、貴方も入ってますわよ教官?」
「否、私とアイツは対等だとも、軽口を叩く仲でもあるからな」
何が何やらといった具合だが、アグラヴェイン卿が苦労人だと言う事は伝わって来た。
「しっかし、王様への謁見っすか、作法とか無縁っすから、滅茶苦茶緊張するし気が重いっすね……」
「アーサー王本人に関しては気にしないでいいが、周囲の騎士たちはそうもいかんからな。蜜希は極力喋らず、フィーネの動作を真似していると良い」
ギラファさんの言葉に、頷くようにフィーネさんが答える。
「かしこまりました、ではその時は蜜希様は私の斜め後ろにお付きください」
「申し訳ないっすけど、お願いするっす、フィーネさん」
礼を言い、頭を下げると、フィーネさんが少し嬉しそうに瞳を細めた。
「フィーネ、と呼び捨てにして構いませんよ、蜜希様。貴女のおばあさまから受けた御恩は、とても返しきれるものではありませんから、そのお孫様である蜜希様は、私にとって第二の主とも言える存在ですので」
ちょっと初手から好感度が高すぎやしないだろうか?
祖母が一体何をやらかしたのかは知らないが、そこまで言われると背筋がむず痒くなってくる。
「あーー、主とかそういうのは置いとくとして、呼び方については分かったすよ、フィーネ」
「はい、よろしくお願いいたします、蜜希様」
うーむ、様付けは今一つ慣れないが、変える気は無さそうなので自分が慣れるしか無さそうだ。
「呼び方と言えば、流石に謁見の際はパー子呼びは不味いですわよ蜜希」
言われて気付くが、それはまぁそうだろう。
パーシヴァルは円卓の騎士にしてウェールズの領主。本来であれば今こうしてパー子呼びしているだけで斬り捨てられてもおかしくは無いだろう。
「わかってるっすよ、不敬罪でしょっ引かれるのは勘弁っす」
「ああ、いえ、そうでは無くて……蜜希は英雄の系譜ですから、アグラヴェイン卿が小言は言うと思いますけど、処罰は無いと思いますわ」
わー……本当なにやらかしたんすか希おばあちゃん。
だがまあ、それはそれとして、
「え、じゃあ何でっすか?」
当然の疑問に対し、パーシヴァルは一度天を仰ぎ、あーー、と数秒唸った上で、
「……間違いなくまたスレッドが乱立しますわよ?」
「どうなってんっすかこの国の騎士たちは!!?」
「あははは……では、幾つかお話でもしながら王城へ向かいましょうか」
視線の先に見える白亜の城壁、美しく荘厳な見た目の筈なのに、何処か絶妙に気が重くなるのであった。
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