第35話 勇者
「ん?お主、カティスと呼ばれとらんかったか?」
なんで聞いたばかりの俺の名前覚えてるんだ…そこは忘れてろよ。お前みたいな恋愛スイーツ脳に覚えて欲しくないからアレスの名前を使ったというのに。俺のスルースキルを舐めるんじゃねえ!ここは聞かなかった事にしてごり押ししてやる!
「カティスと言うのは双子の兄の名前です。よく間違えられるんですよね。まあそんな事はどうでも良いんです。それよりもエリン様はなんでまたこんな辺鄙な所にわざわざ来られたんですか?やはりこの勇者の再来と呼ばれる僕に会う為でしょうか?」
所詮は恋愛スイーツ脳。こいつが食いつきそうな話題を振っとけば大丈夫だろ。
「ふむ…その通りじゃ。ここに来たのはアレスに会うのが一番の目的じゃな。旅の途中、どこでも民が噂しておってのう。極光王輝の祝福を授かった子供がおると。もし本当なら儂としても放置は出来ん。なにせレイ以来、誰一人として同じ祝福を持った子は産まれておらんかったからの。不穏な夢を見た事もあったしの、家に戻る前に勇者の再来と噂されとるアレスの顔を見に、イストネル領に寄る事にしたんじゃよ」
やはりこいつの目的はアレス!さっきの痛い話を聞いた限り、未だに勇者に未練たらたらっぽいからな。勇者の再来と呼ばれてる相手ともなれば、そりゃ気になるだろう。残念ながらその相手はまだ5歳児なので、お前が思ってるような仲には進展しないと思うが。しかしこれはチャンスなのでは?一時はイメクラ嬢だと思って俺の計画が頓挫したと思ったが、まさかこの国で一番偉い上王様だったとはね。上手い事軌道修正できそうだな。こいつとアレスの仲を取り持ってやれば、俺のお願いの一つや二つ聞いてくれるかもしれんな。
「そうなんですね。わざわざ僕に会う為に立ち寄ってくれるなんて凄く嬉しいです!」
気色悪いがアレスみたいな無邪気活発ショタっぽい感じでいくか。この手の行き遅れメンヘラ婆にはこういったタイプは特攻だろう。
「でも…勇者の再来と呼ばれているのは知ってますけど、今の僕は何も出来ないただの子どもなんです。凄い祝福を神様から授かったんですから、僕もレイ様みたいに恰好良い勇者になりたいんです!」
「ほうほう、良い心掛けじゃのう。レイも初めてあった頃は、才はあれども上手く使えずに振り回されておったんじゃぞ。心配せんでもよい、お主はまだ子供じゃし、この国も平和じゃ。焦らずゆっくり大人になるとよい」
「でも…レイ様が格好良い勇者になれたのは、エリン様が一緒にいたからですよね?」
「まあそうじゃな!儂が手取り足取り、あやつに戦いのいろはから世間の常識まで教えてやったからじゃな!」
「本当は…僕不安なんです…もし僕が大した事なかったら、世間の人達は凄くガッカリすると思います。僕はみんなの期待に応えたいんです!」
「良い心掛けじゃ。その想いがあればお主は立派な勇者になれるじゃろう」
「はい!僕もそのつもりです。でもその為には僕に絶対必要なものがあるんです!!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「千年王国エタニアルにて、古今東西比類なき他を冠絶するその器量、永遠の憧憬、永世上王エリン・リエル様に拝謁叶った事、恐悦至極に存じます。僕はアレス・イストネルと言います!よろしくお願いしまーす!!」
流石にそれは無理ありすぎだよ!?きみ、カティスって呼ばれてたじゃん!返事もしっかり返してたじゃん!!即座にツッコミを入れそうになったがギリギリで思いとどまる。え、何なのこの子…これでも私、この国で一番偉い人なんだけど?さっき教えたよね?なんで平気で嘘つけるの!?初めて会った時もいきなり攻撃してくるし…シグナスとオルテシアは一体どんな教育してるの?っと、いけないいけない。どうにも調子が狂う。私相手にこんなふざけた態度を取る人なんて、一体何時以来だろう。私は寛大だし、なにより子どもだから大目に見てあげるけどね。
「カティスと言うのは双子の兄の名前です。よく間違えられるんですよね。まあそんな事はどうでも良いんです。それよりもエリン様はなんでまたこんな辺鄙な所にわざわざ来られたんですか?やはりこの勇者の再来と呼ばれる僕に会う為でしょうか?」
そうか。やはりこの子が祝福が与えられなかった方の子どもか。最初に会った時は、こちらが極光王輝の方だと思ったけど。イストネルまでわざわざ来た目的は、シグナスとオルテシアの子どもである双子をこの目で見る為だ。片やレイと同じく極光王輝の祝福をされた子ども、片や祝福を与えられず無能無才と卑下される子ども。極光王輝の、アレスを確認するのが一番重要であったのは間違いはない、でもそれと同じくらい無能無才と呼ばれるカティスにも興味はあった。
「そうなんですね。わざわざ僕に会う為に立ち寄ってくれるなんて凄く嬉しいです!」
先ほどまでとは打って変って非常に子どもらしい、元気で愛らしい笑顔。最初にこれを見ていたら、騙されていたかもしれない。それにしても、この子がアレスを騙った理由は、私がイストネルに来た目的を知る為?突飛な言動をしてるのは、アレスに会わせても良いかどうかを見極める為とか?でなければ、わざわざすぐばれるような嘘を吐く意味がない。確かに変な人をアレスに近づけたくはないのは分かる、警戒するのも分かるけど、それをまだ子供の、5歳児が考え付いて、実行するものだろうか?
「でも…僕が勇者の再来と呼ばれているのは知ってますけど、今の僕は何も出来ないただの子どもなんです。勇者の再来なんておこがましいにも程があります。ただ凄い祝福を神様から授かったんですから、僕もレイ様みたいに恰好良い勇者になりたいんです!」
きみ、本当に子ども?私と同じで見た目だけ子どもだったりしない?
「でも…レイ様が格好良い勇者になれたのは、エリン様が一緒にいたからですよね?」
そうでもあるわね!最初に会ったのが私じゃなければ、きっとレイは夜の勇者にでもなっていたでしょうね!!
「本当は…僕不安なんです…もし僕が大した事なかったら、世間の人達は凄くガッカリすると思います。僕はみんなの期待に応えたいんです!」
わざわざ私の前で不安を吐露するのは、弟に過度な期待をするのを掣肘しているのかしら?心配しなくても今の所アレスに無理強いするつもりはないわよ。今のきみはアレスとして発言しているんでしょうから、アレス自体も勇者の再来としての期待に応えるつもりはあるんでしょう。
「はい!僕もそのつもりです。でもその為には僕に絶対必要なものがあるんです!!」
私としても、この国としても極光王輝の才を腐らせるつもりはないわ。どこに行っても引く手数多でしょうし、可能ならこの国に根を張って友好的な関係を築いてくれるのがベストだしね。私に出来る事なら可能な範囲で応えるつもりではいるけれど。ふふっ、一体あなたは何を要求するつもりなのかしら?
「僕は、エリン様、あなたが欲しい!!」
……ふぁああああああああああ!!??
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます