第32話 俺は悪くない

 全く…単に外出許可を取ろうとしただけなのに、とんでもない現場に遭遇しちまったぜ。いや、別に俺は複数の女性と関係を持っている父親に文句を言いたいわけじゃないんだよ。というか転生して俺Tueeeだのハーレムだひゃっほいと浮かれていた俺が文句を言えるはずもない。そもそも貴族である以上、高貴な血とやらを絶やさないってのは至上命題といても過言ではないのだろう。


 とはいえ、俺からしたら貴族なんざ同族殺しが得意なサイコパスが源流で、そいつらの子孫なんて総じて糞みたいなもんだから、むしろ汚れた血だろうと思うわけだが、それは生存競争が同族相手になってしまった前世での話であって、モンスターなんて人類の敵性存在がいる世界じゃ話は大きく変わってくる。


 この世界で俺のような人種は万物の霊長ではない。黒人白人なんて色の違い所の話ではなく、獣人やエルフという明らかに人であって普通の人でない存在がいるのだ。前世では肌の色で人を区別していたが、この世界では明確に種族として違う。

であるならば、人が人として存在を確立する為には前世の比ではなく、より強い血を取り入れ、掛け合わせる事が重要となるだろう。サラブレッドみたいな感じでな。そしてご丁寧にも祝福の儀なんてものがあり、人それぞれに糞神が優劣をお付けあそばって下されているわけだ。


 人種が前世の様に好き勝手に世界を弄れるわけではないのだ。森を好き勝手に伐採したらエルフが出張ってくるかもしれない、鉱石やレアメタル欲しさに山を掘り崩せばドワーフが喧嘩を売ってくるかもしれない。人の手が入ってないからと平原に村を作ったら、そこはベヒモスとかそんな感じのモンスターの縄張りかもしれないし、山に上ったらそこはドラゴンの縄張りかもしれない。 


 人種と対等、それ以上の存在が掃いて捨てる程いるのが異世界なのだ。むしろ異世界において人種などゴキブリレベルの劣等存在と言っても過言ではないだろう。

魔力や容姿でエルフに劣り、膂力で獣人に劣り、製造加工でドワーフに劣る。人種が優れているのは謀略くらいか?繁殖力にしたってゴブリンやら獣人に負けるだろうし。あとは糞神からの理不尽な寵愛か。


 そんなわけで、劣等種族がこの剣と魔法の世界で人種が生きていくなら、それこそ無計画に繁殖している場合ではないだろう。外敵に対抗する為により強い個体同士を掛け合わせていく必要がある。結果、その強い個体が群れを作り集団となり、その集団の中で発言権を持つに至り、そいつらを主軸とした権力基盤の構成され、結果出来上がるのが絶対王政的な権力構造だ。


 前世と違うのは明確な外敵が存在する以上、貴族だからといって態度だけがでかい無能はおそらく淘汰されるという事だ。現在進行形で生存競争の真っ只中だからな。家柄自慢だけの雑魚は不和を招くだけだし…?あれ、これもしかしなくても俺の事では?…いや大丈夫だ問題ない。俺はあれだから。売られた喧嘩を買っただけだから。なんにでも見境なく噛みつく狂犬じゃないから。あくまで受けだから。自分から首は突っ込まないから。


 というわけでこの世界の貴族は少なくとも強い、はずである。そして強い人は沢山いて困る事はないだろうから一夫多妻で産めよ増やせよは奨励されているはずである。あくまで身内に限るだろうが。そりゃ制御できない強者なんていて欲しくないだろう。内憂外患なんて国が亡びる赤信号だし。


 まあそんなわけで侯爵なんて地位にいる父親は人種の中ではかなり強いと思われる。そして侯爵という貴族の括りに収まっている以上、少なくとも人種の生存圏の守護の一翼を担っている権力者側であり、そんな父親と縁を結びたいなんて考える輩が吐いて捨てる程いるのは想像に難くない。なにせ勇者の再来アレスくんという動かしがたい実績があるのだ。祝福がない俺という実績もあるが、巷では俺の分の祝福がアレスくんに全部持ってかれたとかそういう話になってるらしいが。


 あくまで理想はアレス君と関係を持つことだろうが、年齢的にそれが可能なのは同年代以下だろう。そして次点で父親と関係を持つことで、その次が新しく生まれるかもしれない両親の子どもとなる。つまり父親が複数の女性と関係を持つ事も、子どもを沢山作る事も、おそらく望まれているはずなのだ。


 ちなみにアレスくんは間違いなく、将来的にハーレム作って種馬生活が確定である。恋愛感情は抜きにして、貴族の娘さんやらエルフっ娘や獣人っ娘を嫁に貰う事だろう。なぜならアレス君が一人だけ選んだ場合、その対象が暗殺されるレベルで周囲に角が立つからである。それを避けるには、誰も選ばないか全員選ぶかの二択のみであり、アレスくんがホモでもない限り、実質一択強制なのだ。


 そう考えた場合、アレスくんの生育環境がハーレムなのは決して悪い事ではない。父親が複数の女をとっかえひっかえしつつも、円満な家庭環境を築けているのなら、それはアレスくんの恋愛観に大きな影響を齎すだろう。みんな幸せならそれでいいじゃんと、ハーレムに対するハードルは低くなるはずである。


 俺としてもね、前世でギャルゲー要素あるゲームしてた時に、常々思っちゃうんだよね。別にヒロイン一人を選ばなくてもいいじゃんねと。養えるなら問題なくねと。むしろ皆と仲良くして、結果一人を選んで他の皆はごめんなさいは、お前それ鬼畜の所業だろと。人の心ないんかいと。全員と事実婚で生きていく位の覚悟は持てと。八方美人で好感度稼いでたお前に選ぶ権利は微塵もないだろと。ハーレムか一夫一妻の選択肢はヒロイン側にあるだろと。


 とはいえだ。流石に今回の父親の所業は度を越していると俺は思う。アレスくんがハーレムを作るのは逃れられない規定事項。だがそこに変な性癖を植え付けられたら流石にお嫁さん達も困るだろう。外聞も悪すぎる。ロリ・女王様プレイ・公開羞恥・NTR。幾らなんでもアブノーマル属性多すぎだろ。しかもこのロリエルフは風俗嬢だろ?父親のお気に入りとはいえ、いわば行きずりの関係な訳だ。アレスくんが年齢関係なく無差別に女性に手を出す屑チャラ男になったらどうすんだよ。むしろそうなるのは、俺じゃない本来のカティスくんの役目なんじゃないのか?


 俺としてもアレスくんには誠実に育って欲しいわけよ。少なくともヤリ捨てするような下種にはなって欲しくないわけ。殺伐としたハーレムなんて地獄だろ?誰も幸せにならないじゃないか。だから父親よ、お前は誠意を見せる所から始めるべきだ。まずはこのロリエルフを第二夫人に迎え入れる所からだな。そして母親に謝罪した上で二人の仲を取り持って和解しろ。アレスくんに複数の妻を娶る事はおかしなことではないと、身分など関係ないと、誠実に平等に愛を注げば問題ないんだとこれからの行動で証明して見せろ。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 というような事を父親に説いたら、のじゃロリエルフがマジ切れした上に父親が泡吹いて失神した件について。解せぬ。

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